側弯症では脊椎に側屈と回旋、また特に胸椎には後弯が加わっています。脊椎で生じる変位により、胸郭にも捻れが生じます。
通常、側屈凹側(側屈側)の胸郭が後方に隆起し幅が狭くなり、側屈凸側(側屈の反対側)の胸郭は幅が広くなっています(図1)。
図1 脊椎の捻れが胸郭に及ぼす影響
側弯症と診断されるケースの約20%は先天性側弯症もしくは神経筋原性側湾症に分類されます。
残りの80%は特発性側弯症と呼ばれ、はっきりとした原因がわかっていません(遺伝的な要素が強いと思われる)。
また、特発性側弯症は年齢によって以下のように分類されます。
年齢 | 分類 |
0~3歳 | 乳幼児期側弯症 |
4~10歳 | 学童期側弯症 |
11~18歳 | 思春期側弯症 |
18歳~ | 成人側弯症 |
全人口の2~3%が特発性側弯症(コブ角10°以上)と診断されており、男子に比べ女子に発症率が高くなっています。
コブ角が10°から20°の軽度のケースでは女子は男子の約1.5倍、40°以上の重度のケースでは約7倍も女子の方が側弯症の発症率が高くなっています。
このように側弯症の発症率に性差があるのは、「女子の椎体は男子に比べて細長い」という椎体の性差に起因していると言われています(椎体が細長いことで重心が高くなり不安定性が増す)。
また女子の方が身体の柔軟性が高いことも要因と考えられています。
症状
腰背部痛
側弯症の症状で最も多いのが腰背部痛です。主な痛みの原因構造には以下の二種類があります。
一つ目は椎間関節に起因する痛みです。痛みは側弯の頂点付近に局在している場合が多く、凹側の椎間関節(軟骨)が圧迫されることで、凸側では椎間関節を包んでいる関節包が伸張されることで痛みを誘発します。また凹側では椎間孔の狭窄が起こるため神経根圧迫が併発する場合もあります。
二つ目は筋肉に起因する痛みです。慢性的な脊柱のマルアライメントにより、脊柱を挟んだ左右の筋肉のバランスが崩れています(凸側が伸張、凹側が拘縮)。
脊柱起立筋や腰方形筋、外腹斜筋、多裂筋などが痛みの原因となることが多いです。荷重位(長時間の座位や立位)で痛みは増悪します。
坐骨神経痛
側弯症の長期化により椎間板や椎間関節の変性が進行している場合、神経起因の痛みが現れることがあります。主に下部腰椎(L4/5/、L5/S1)の神経根が影響を受けます。
複数の腰椎神経根が影響を受けている場合(馬尾症候群)、排尿や排便障害を訴える場合があります。
その場合、速やかに専門家での診察・治療を受診するように勧めてください。
上背部痛
後頚部から上背部にかけての凝りを訴えるケースが多いです。主に上・中部僧帽筋や肩甲挙筋、胸鎖乳突筋、斜角筋、頚板状筋、菱形筋などが原因構造となっています。
特に右側上背部は肋骨の隆起があるため、この近辺にある筋肉(菱形筋や中部僧帽筋など)が慢性的に圧迫され血流障害を起こしやすく、それが筋肉の硬直を誘発します。
頭痛
頭痛も頻繁に見られる症状の一つです。脊柱のマルアライメントにより、頚椎にもその影響が及んでいます。
それにより、頚椎の椎間関節や軟部組織に負荷がかかることで頭痛を引き起こします。このような頭痛を頚性頭痛と呼びます。
原因
側弯症の80%は原因がはっきりしていません。原因不明の側弯症のことを特発性側弯症と呼びます。
このタイプの側弯症では、多かれ少なかれ遺伝的な影響を受けている可能性が高いです。残りの20%の側弯症には明確な原因があります。それらの原因には以下のようなものがあります。
機能的側弯症
機能的側弯症は、脊椎そのものの問題ではなく、他の問題の代償作用によって現れます。
筋肉バランスの不均衡や疼痛回避姿勢などが具体的な例です。また下肢長差(仙腸関節のサブラクセーションなどによる)も側弯症の原因になり得ます。
変性側弯症
変性側弯症は成人にのみ見られる側弯症です。椎体や椎間板、椎間関節の変性が原因になります。
神経筋原性側弯症
このタイプの側弯症は他の疾患が原因になります。筋ジストロフィー、脳性麻痺、マーファン症候群(先天性の軟部組織疾患)、神経線維腫症(カフェオレスポット)などが具体的な例になります。側弯は重度であることが多く、より積極的な治療が必要とされます。
先天性側弯症
胎児の段階で椎骨の未発達や欠損などの異常が認められます。椎体や椎間関節において形成異常がある場合、重度の側弯症に進行します。構造的疾患であるため、装具や手術などが適応になります。
検査
視診
視診検査は立位もしくは腹臥位において行います。通常、立位での検査の方が、側弯が顕著に確認されます(腹臥位に比べて重力の影響を受けるため)。
脊椎の回旋変位や側屈変位、肩の高さの不均衡、左右の肩甲骨のポジションの差異、腸骨稜や股関節の高さの差異、腰部または上背部の肋骨の隆起などを視診によって確認します。
アダムズテスト
アダムズテストは側弯症の代表的な検査法です。立位で体幹を前屈してもらいます。
体幹前屈位において、脊椎の左側もしくは右側に肋骨の隆起が現れた場合、側弯症の疑いがあります。
この検査の胸椎側弯における感度は92%、特異度は60%であり、腰椎側弯の感度は73%、特異度は68%であったとする研究報告があります(Côté P, Spine, 1998, http://bit.ly/2u5SOY8)。
アダムズテストの変形バージョンとして、座位で体幹の前屈を行ってもらい肋骨の隆起を確認する方法があります。
この方法の利点は、下肢長差の影響が除外できるところです。Grivasらは立位よりも座位で検査を行う方が、脊椎の側弯の様子をより正確に観察できると報告しています(Chowanska J, Post Nauk Med. 2012, http://bit.ly/2MMJwbv)。
以下の図で向かって右側がアダムズテスト陽性の状態です(左側は正常)。
右側の胸郭と肩甲骨が盛り上がっているのがわかると思います。これは、中部胸椎に右側屈+左回旋が生じていることを示唆しています。
側屈検査
側屈検査により機能的側弯と非機能的側弯の鑑別をすることができます。立位において体幹の左側屈と右側屈を行ってもらいます。
側弯の凸側へ側屈した時に側弯が改善する場合、機能的側弯と判断されます。逆に側弯に改善が認められない場合、構造的要素が強いと考えられます(図2)。
図2A 中立位
図2B 左側屈位
図2C 右側屈位
レントゲン検査
側弯の状態は、コブ角を測定することによって評価されます(図3)。側弯の最上部にある椎体上縁と最下部にある椎体下縁に平行線を引きます。 コブ角が10°よりも大きい場合、側弯症と診断されます。
図3 コブ角の測定 最上部の椎体上縁と最下部の椎体下縁に引いた平行線が、交差することで成す角度がコブ角です。
それら2つのラインが交差して成す角度がコブ角です。
脊柱の捻れ(回旋)は、左右の椎弓根のポジションから判断されます(図4)。
図4 椎弓根のポジションと椎骨の回旋
このレントゲン写真では、中部胸椎の側弯症があります(腰椎の側弯は認められません)。
ちなみに、中部胸椎では左側屈+右回旋が起こっています。
治療
アジャスメント
側弯症では脊柱に回旋と側屈のサブラクセーションが生じています。カイロプラクターによるアジャスメントにより、サブラクセーションを除去することは可能です。
またアジャスメントによって関節可動域が改善することで、より正常に近い姿勢を維持するのが容易になるかもしれません。
しかし、それが側弯症の改善に有効であるかどうかは、未だ十分なエビデンスはありません。従って、側弯症治療の一つと考えるのが良いでしょう。
エクササイズ
側弯症の改善にとってエクササイズは非常に重要な治療の一つです。とかく筋肉バランスを重視しがちですが、側弯症の改善には、筋肉バランス以上に固有受容感覚機能の改善が大切です。特に関節の位置覚改善は最重要項目です。
脊柱伸展エクササイズ
脊柱は伸展位において捻れ(回旋)が改善します。脊柱伸展エクササイズでは、この性質を利用しています。
腹臥位で両手をフロアに付き、上半身を持ち上げます。この際、下半身はフロアに残したままにします。この姿勢を数分間(~5分間)維持します。両手で支えるのがきつい場合は上半身の下にクッションなどを入れて支えると良いでしょう。
ストレッチポールを使うやり方もあります。ストレッチポールの上に垂直方向に仰向けになります。最初に上部胸椎にポールが当たるようにします。少しずつ下方にずらしていき、胸腰椎部までポールをずらしていきます。
オーバーヘッドスクワット
バー(棒またはタオルでもよい)を持ち頭上に持ち上げた状態にします。この時、脊柱はしっかりと伸展位を維持します(伸展し過ぎないように注意)。その状態を維持したままスクワットを行います。
グッドモーニングエクササイズ
バーもしくは棒を用意し肩に担ぎます。脊柱をやや伸展位に維持したまま、上半身を前屈させていきます(股関節を中心に屈曲させていく)。
側弯症の程度によっては、上半身を前屈させていくと脊柱の捻れが顕著になってきます。その場合は捻れが生じる手前までの可動域で行うようにします。
45°前屈しても脊柱に捻れが生じないのが目標です。
ハーフデッドリフト
バーベルもしくはダンベル(何も持たずに行うこともできる)を持ち直立姿勢になります。脊柱をやや伸展位に維持したまま前傾していきます。
この際、同時に両膝も屈曲させていきます。膝関節よりもやや下側までバーベルを下ろしていきます。次に脊柱の伸展を維持したまま状態を起こしていきます。
常に胸を張った状態を意識して行うようにします。特にバーベルを下ろしていく際に右胸郭が後方に捻れる傾向があるので注意します。
ベントオーバーローイング
バーベルもしくはダンベル(何も持たずに行うこともできる)を持ち直立姿勢になります。脊柱をやや伸展位に維持したまま前傾していきます。
この際、同時に両膝も屈曲させていきます。バーが膝関節の前側に来るところまで前傾させたら、その姿勢を維持します(エクササイズ中は常にこの姿勢を維持)。
次にバーをおへそに向かって引きます。バーを大腿前面部で上下に移動させ、肘は外側に開かないようにします。
装具(ブレース)
装具による側弯矯正の適応条件は、以下の3つです。
- 骨端線が閉鎖前
- 特発性側弯症
- コブ角が25~40°
第二次性徴初期(10歳頃)における側弯症の進行リスクは、コブ角10°で20%、30°で90%となっています。また第二次性徴終期(18歳頃)では、10°で2%、20°で20%、30°で30%です(Bunnell WP., Spine. 1986, http://bit.ly/2ITCbo9)。
コブ角 | 10° | 20° | 30° |
第二次性徴初期 | 20% | 60% | 90% |
第二次性徴中期 | 10% | 30% | 60% |
第二次性徴終期 | 2% | 20% | 30% |
装具は限定的に利用し、その主目的は側弯症の進行を止めることです。装具の使用により側弯症が改善することがありますが、症状の進行してしまうケースもあります。
装具の使用方法には、就寝中(8~12時間/日)のみの場合、外出中や就寝中に装着するパートタイム(12~20時間/日)、ほぼ一日中装着するフルタイム(20~24時間)の場合の3種類があり、それぞれ側弯症の程度により判断します。
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