女性アスリートと前十字靭帯損傷

女性アスリートの数が増えるに従い、女性のスポーツ障害が増加しています。

また男性アスリートに比べ、女性アスリートは前十字靭帯を損傷する割合が高いというデータもあります。

女性アスリートのスポーツ障害の増加要因は現段階では明確ではありませんが、靭帯や筋肉強度の性差、トレーニング歴、解剖学的差異、トレーニング技術などが要因として考えられます。

Obliphantらの研究によると、621人の男性アスリートのうち13人に前十字靭帯損傷が見られ(傷害発生率=2.1%)、それに対し女性アスリートは545人中26人に前十字靭帯損傷が見られた(傷害発生率=4.8%)と報告しています。これは、男性アスリートに比べ、女性アスリートの前十字靭帯損傷の発症率が高いことを裏付けています。

NCAA(National Collegiate Athletic Association)では、1982年以来スポーツ障害に関する資料を集積しており、前十字靭帯の傷害に関することについても報告しています。

それによると男性アスリートに比べ、女性アスリートの前十字靭帯損傷の割合が顕著に高いことが示されています。

ここでは以下の項目に関する前十字靭帯損傷のリスクファクターについて解説していきます。

  1. 体内ホルモンバランスの影響
  2. 解剖学的(構造的/骨格的)性差
  3. 筋肉/神経系機能の性差

体内ホルモンバランスの影響

ホルモンの影響は性差に基づくものであり、それが女性アスリートの前十字靭帯損傷率を増加させている一つの要因であると考えられています。

さらに体内エストロゲン濃度の増加により、前十字靭帯における線維芽細胞の減少とコラーゲン生成の減少が生じることもわかっています。

これらの事実から、体内ホルモンバランスの崩れは前十字靭帯の組成に影響を及ぼし変性を進行させる可能性があります。

前十字靭帯の変性は、膝関節の運動障害を引き起こし傷害リスクを高めます。

解剖学的(構造的/骨格的)性差

女性は男性に比べ骨盤の横径(幅)が広く、Qアングルは大きくなります。

前十字靭帯損傷の発生メカニズムの典型的な例は、膝関節の外反に回旋が加わる場合です。

膝関節に強い外反力が加わることで、靱帯や関節包に大きな負荷がかかります。

女性の場合、男性に比べこの傾向が強いです。従って女性アスリートの場合、内側広筋や内転筋群など膝関節の内側にある構造の強化が、リハビリにおける重要課題となります。

筋肉/神経系機能の性差

一般的に男性アスリートに比べ女性アスリートは筋力が弱い傾向があります。

Hakkinenらは、男女バスケットボール選手における膝関節の伸展筋群、体幹の屈筋群と伸筋群の筋力における性差を調べています。

それによると、男性選手が上記の3種目全てにおいて女性選手よりも筋力が強かったという結果が得られています。また単位体重あたりの換算値でも男性選手の方が、筋力が強いということがわかっています。

KomiとKarlssonらによると、女性は筋収縮率が70%に戻るまでに、男性の約2倍の時間がかかったと報告しています。

つまり男性に比べ女性の筋収縮速度は遅いということになります。外力に対する反応速度に差があることは、傷害リスクにも差が生じることが推察できます。

従って、女性アスリートでは外力に対して関節を安定化させるまでの時間が長くなるため、関節を安定化させている構造(筋肉、靭帯、関節包などの軟部組織)への負荷が大きくなることが推測されます。

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