胸椎の関節運動学と関連症状

解剖学

胸椎は12個の椎骨によって構成されています。

それぞれの胸椎には肋骨が付いており、胸椎の関節運動学に影響を与えています。

また、椎体の間にある椎間板も胸椎の関節運動学に大きな影響を与えています(Edmondston SJ, 1997)。

胸椎の椎間板は頚椎や腰椎のものに比べ扁平であり、髄核はやや小さくなっています。

椎間関節

椎間関節は上側椎骨の下関節突起突起と下側椎骨の上関節突起によって形成される関節です。

平面関節であり、椎間関節の方向によってそこで生じる運動が決定されます。従って、椎間関節の形状や向きを知っておくことはとても大切です。

胸椎の椎間関節は冠状面からやや前方に傾斜しています(下図)。

胸椎の椎間関節胸椎の椎間関節のこのような解剖学的特徴から、胸椎では側屈や回旋の可動域が比較的大きくなる傾向があります。

肋骨との関節

胸椎は肋骨との間に以下の2つの関節があります。

  1. 肋椎関節
  2. 肋横突関節

肋椎関節

肋椎関節は肋骨頭と肋骨窩、椎間板の間にできる関節です。

関節内靭帯と放射状肋骨頭靭帯によって補強されています。

肋横突関節

肋横突関節は肋骨結節と横突肋骨窩の間にできる関節です。関節包によって周囲を覆われている滑膜性関節です。

また、肋横突靭帯と上肋横突靱帯によって補強されています。

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胸椎の可動域

胸椎には以下の3つの自由度があります。

  1. 屈曲・伸展
  2. 側屈
  3. 回旋

胸椎全体の可動域は頚椎や腰椎に比べると大きいですが、一つ一つの椎骨の可動域は小さいです。特に屈曲・伸展の可動域は、頚椎、腰椎と比べ狭くなっています。

これは、胸椎に肋骨が付着していることに起因します。上・中部胸椎の可動域はその影響を顕著に受けています。

一方、下部胸椎にも肋骨は付着していますが浮遊肋骨となっており、前側(胸骨)でとじられていないため、上・中部胸椎に比べ可動域が大きいです。

屈曲・伸展

屈曲・伸展の可動域は下部胸椎になるほど大きくなっていきます(T1<T12)。

Panjabiによると上・中・下部胸椎の屈曲・伸展の可動域は以下の通りです。

  • 上部胸椎(T1-T5)=4°
  • 中部胸椎(T6-T10)=6°
  • 下部胸椎(T11/12)=12°

また、屈曲と伸展を合わせた可動域は50°から70°、屈曲だけでは30°から40°、伸展だけだと20°から30°あります。

  • 屈曲+伸展=50~70°
  • 屈曲=30~40°
  • 伸展=20~30°

側屈

胸椎全体の側屈可動域は25°あります。下部胸椎になるほど側屈の可動域は大きくなっていきますが、これは肋骨による影響です。

また、椎間関節の向きも要因となっています。下部胸椎になるほど腰椎の椎間関節に近い形(矢状面)となるためです。

Panjabiによると、上・中部胸椎の回旋可動域は6°、T11/12の間では9°としています。

回旋

胸椎の回旋可動域は比較的大きく、胸椎全体で30°から40°あります(腰椎の回旋可動域よりも大きい)。

また、上部胸椎になるほど回旋の可動域は大きくなっていきます。これは、上部胸椎になるほど椎間関節の向きが頚椎に近くなるためです(椎間関節の向きが回旋に適している)。

Panjabiによると、T1からT10までの回旋可動域は9°、T11/12の間では2°としています。

関節運動学

屈曲・伸展

胸椎の屈曲・伸展の運動軸は、1つ下の椎体の中心にあります。

また、屈曲では上側にある下関節突起突起の前上方への滑り運動が生じており、伸展では上側の下関節突起突起の後下方滑りが生じています。

屈曲

胸椎が屈曲すると、上側の下関節突起には以下の2つの運動が発生しています。

  1. 上方滑り
  2. 前方回旋

また、その際、椎間関節は離解し、椎間板前部が圧迫されています(髄核の後方変位)。

伸展

逆に伸展では1つ上の下関節突起突起には、以下の2つの運動が生じています。

  1. 下方滑り
  2. 後方回転

その時、椎間関節は圧迫、椎間板後部が圧迫されています(髄核の前方変位)。

 

側屈

胸椎の側屈運動の中心軸は、下側椎骨の反対側の中心にあります。

また、椎間関節では上側の下関節突起突起に下方滑りが生じています。

回旋

胸椎回旋の運動軸は脊柱管にあります(Panjabi)。

下関節突起突起では横方向への滑り運動が生じています。

カップリングモーション

胸椎のカップリングモーションは、以下の状況に影響を受けます(Panjabi M, 1989)。

  • 最初に発生する運動の種類(回旋が先か、それとも側屈が先か)
  • 脊椎の姿勢
  • 椎間関節の状態(コンディション)

椎間関節の状態というのは、機能的不安定性や変性などのことです(Pearcy M, 1984)。

従って、胸椎のカップリングモーションは患者の状態によって変わってしまうため、一定のパターンを見出すことは難しいと思われます。

胸椎のカップリングモーションには一定のパターンを見出すことは難しい

以下はカップリングパターンの例です。

カップリングパターン1

回旋⇒同側への側屈パターン(Willems JM 1996)。

  1. T1/T2~T3/T4=18%
  2. T4/T5~T7/T8=99%
  3. T8/T9~T11/T12=93%

カップリングパターン2

側屈⇒同側回旋パターン(Willems JM 1996)。

  1. T1/T2~T3/T4=47%
  2. T4/T5~T7/T8=83%
  3. T8/T9~T11/T12=68%

カップリングパターン3

Panjabiにょると、胸椎の回旋に伴い反対側への側屈が生じるとしています(Panjabi MM, Brand RA, White AA. Mechanical properties of the human thoracic spine as shown by three-dimensional load-displacement curves. J Bone Joint Surg Am 1976;58:642-52)。

姿勢とカップリングパターン

胸椎の姿勢(屈曲位、中立位、伸展位、後弯曲、側弯等)により、カップリングパターンが変化します(Scholten PJM, 1985)。

Stewartらの研究によると、18歳から22歳の女性で胸椎の過剰後弯曲がない被験者において、胸椎中立位で上肢の挙上をしたとき、一定の胸椎カップリングパターンが認められませんでした(Stewart SG, 1995)。

その一方、Theodoridisは、「45歳から64歳の女性被験者において、胸椎伸展位のとき同側カップリングパターンが認められた」と報告しています(Theodoridis D, 2002)。

さらにBrismeの研究報告では以下のような結果が報告されています(Brisme JM, 2006)。

  • 若い男性被験者の90%に、胸椎伸展位のとき同側カップリングパターンが認められた
  • 若い女性被験者の91%に、胸椎伸展位のとき反対側カップリングパターンが認められた

以上のように、姿勢とカップリングモーションのパターンについては、共通したパターンを見出すことができません。

姿勢とカップリングモーションパターンには規則性はない

関連症状

特発性側弯症

特発性とは「原因不明」のことです。従って、特発性側弯症とは、「原因不明の側弯症」のことであり、側弯症全体の80%を占めています。

残りの20%は原因が明確な側弯症です。先天性疾患に伴う二次的な側弯症であることが多いです。

側弯症では脊椎に側屈と回旋が生じています。脊椎で生じる変位により、胸郭(肋骨)にも捻れが生じます。

また、側弯症には胸椎の過剰後弯曲(猫背)が伴います。

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胸椎過剰後弯曲(猫背)

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猫背は腰痛や頭痛などの症状を引き起こします。これは、胸椎過剰後弯曲によって頭頚部や腰椎に起こる代償的な姿勢の問題に起因します。

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関節運動学のおすすめ書籍

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