変性による半月板断裂
半月板の断裂は、傷害性または変性の2つに分類されます。変性による半月板断裂は、殆どのケースで変形性膝関節症を併発しています。
また自覚症状がない場合でも、MRIによって半月板の断裂が認められています(36%~76%のケース)。そして、そのようなケースは年齢と共に増加傾向を示しています。
65歳以上で自覚症状がない患者の67%、変形性膝関節症(自覚症状アリ)の患者の86%に半月板の損傷が認められています。
このように、半月板の損傷は多くの人(特に高齢者)に認められる症状であるため、膝に痛みを訴えるケースでは半月板損傷があるという前提で治療を行うことが肝要です。
半月板への血液供給
半月板の損傷部位によって、予後経過が大きく異なります。その最大の理由が半月板への血液供給が領域によって異なるからです。
半月板の外側1/3は血液供給(内側・外側膝窩動脈)が豊富な領域となっているため、損傷しても比較的予後経過が良好です。この領域はred-red領域と呼ばれています。
また、半月板の真ん中1/3はred-white領域、内側1/3はwhite-white領域と呼ばれています。
red-red領域で出血が起こると、繊維血管性の瘢痕組織が形成されます。
また、red-white領域は血液供給が乏しいため、この領域の損傷は予後経過は芳しくありません。
white-white領域は、ほぼ血管が発達していません。
従って、主に滑液によって栄養が供給されています。膝関節の運動により栄養供給が促進されます。
半月板断裂とジョイントラインの痛み
半月板損傷の検査で最も信頼性が高いのは、ジョイントラインの触診検査です(76%~86%)。
内側半月の損傷では、ジョイントラインの後内側または前内側に痛み(圧痛)が現れます。
一方、外側半月の損傷では、ジョイントラインの後外側または前外側に痛みが現れます。
- 内側半月の断裂;ジョイントラインの後内側または前内側に痛み
- 外側半月の断裂;ジョイントラインの後外側または前内側に痛み
ただし、膝蓋大腿関節の運動障害では、ジョイントラインの前部に圧痛が認められることがあるので、鑑別が必要になります。
触診以外には、以下のような検査があります(それぞれ、検査名と精度)。
- Apleyグライディングテストー46%
- 膝関節過伸展時の痛みー43%
- マクマリーテストー35%
半月板断裂と動作痛
前角と後角
膝屈曲時に痛みがある場合、半月板後角の損傷が考えられます。逆に伸展で痛みがある場合、前角損傷の可能性があります。
- 半月板後角;膝屈曲で痛み増悪
- 半月板前角;膝伸展で痛み増悪
内側半月と外側半月
また、内旋で痛みが現れた場合は外側半月、外旋で痛みが現れた場合は内側半月損傷の可能性があります。
- 内側半月の断裂;膝内旋で痛み増悪
- 外側半月の断裂;膝外旋で痛み増悪
半月板断裂と腫脹
半月板に断裂が起こると、数日間かかって腫脹が現れます。一方、前十字靭帯の断裂では傷害直後から急激に腫脹が現れます。
しかし、red-red領域は血管がよく発達しているため、この領域の断裂では急激な腫脹が起こることもあります。
従って、徐々に腫脹が現れる場合、血管の発達していない内側の領域(white-red領域またはwhite-white領域)に断裂が起こっている可能性を示唆しています。
参考文献
- Mazak TG, Fabricant PD, Wickiewicz TL. Indications for meniscus repair. Clinics in Sports Med, 2012;31(1):1-14.
- Greis PE, Bardana DD, Holmstrom MC, et al. Meniscal injury: basic science and evaluation. J Am Acad Orthop Surg 2002;10(3):168-76.
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- Hammer W. , A Nonsurgical Approach for Treating Meniscus Injury, Dynamic Chiropractic – August 12, 2012, Vol. 30, Issue 17
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