距骨下関節の運動学

  • 2019年7月8日
  • 2020年6月20日
  • 運動学
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距骨下関節は足関節の内反捻挫や過剰回内障害などで問題となる関節です。従って、距骨下関節のバイオメカニクスを理解することは、足関節の様々な障害を検査、診断、治療するためには不可欠となります。

距骨と踵骨は2か所の関節面を共有しており、これらの関節面が合わさることで距骨下関節を形成しています (Viladot, A, 1984)。 これら2つの関節面は、後外側と前内側にあり、球面形をしています。

また距骨下関節は、スタンスフェーズにおいて、足部と下腿部の間で生じる運動連鎖の要となっています。10 後外側の関節面は、距骨後下部と踵骨後上部が合わさっています (Rockar PA Jr., 1995)。

一方、前内側の関節面は、距骨頭、載距突起(踵骨)、舟状骨近位が合わさっており、球関節と似た構造を持っています (Perry J, 1983)。

足部の重要な機能の一つは、スタンスフェーズにおける衝撃吸収です。運動連鎖が正常に機能することにより、衝撃吸収が効率的に行われます。この点において、距骨下関節は大変重要な役割を担っています。

距骨下関節の運動学

距骨下関節の運動軸は斜め方向を向いています (lnman VT, 1976)。この運動軸は横断面から42°、矢状面から16°の角度を持っています(図1-1、図1-2) (Close, JR, 1976; lnman VT, 1976; Manter JT, 1941)。

図1-1 距骨下関節の運動軸(横断面)

 

図1-2 距骨下関節の運動軸(矢状面)

 

従って、距骨下関節の運動軸は、距骨頚の上内側から足根洞を通過しています。また、距骨下関節には6°の自由度があるため、三つの運動が生じます(表1)。

三方向の運動が合わさることにより回内または回外運動が発生します。

 

運動面 距骨下関節の運動
矢状面 屈曲/伸展(底屈/背屈)
冠状面 内反/外反
水平面 内転/外転

表1 距骨下関節で生じる三つの運動

 

足部が荷重位の時、踵骨は地面に固定されています。そのため、踵骨に対し距骨が動くことになります。また、距骨の運動に連動して下肢の関節のポジションに変化が生じます。

また非荷重位では、距骨に対して踵骨が動くことになります。このように足関節における回内と回外運動では、荷重位と非荷重位において異なる運動連鎖が生じます。

非荷重位における回内では、踵骨の外反、外転、背屈が生じ、回外では内反、内転、底屈が生じます(図2)。この運動は距骨下関節でのみ生じ、距腿関節や横足根関節は全く関与していません(表2)。

図2 非荷重位における距骨下関節の運動

 

  回内 回外
踵骨 外反+外転+背屈 内反+内転+底屈
距骨 なし なし

表2 非荷重位における距骨下関節の運動

 

荷重位(スタンスフェーズ)においても、距骨下関節では回内と回外が発生しています。しかし、非荷重位の場合と異なるのは、距腿関節と横足根関節においても運動が生じている点です。

荷重位における距骨下関節の回内では、踵骨の外反に加え距骨の底屈、内転が起こり、回外では踵骨の内反と距骨の背屈、外転が起こります(図3、表3)(Root ML, 1997)。

図3 荷重位における距骨下関節の運動

 

また、スタンスフェーズにおいて、距骨には前後方向の運動も生じています。踵接地から足趾離地にかけて、距骨は踵骨に対して前方へ変位を起こします(図4)。

 

図4A 踵接地時の踵骨に対する距骨のポジション

 

 

図4B  足趾離地における踵骨に対する距骨のポジション
踵接地時に比べ、距骨は踵骨に対し前方へ変位を起こしている

 

このような距骨の前後方向への変位は、伝達される力の分散にとって重要な役割を果たしています。

中立位では距骨に伝達された力は、踵骨、立方骨、舟状骨へ均等に分散されますが、背屈位ではその力のほとんどは踵骨隆起へと伝達されます。また底屈位では、1stRayへ力の伝達が起こります。

しかし、捻挫等により距骨に不安定性が残っている場合、足趾離地における距骨の前方変位は増加します。それにより、足根洞症候群*などが誘発され、さらに足関節の不安定性が進行し、捻挫の再受傷リスクが高まることになります。

 

  回内 回外
踵骨 外反 内反
距骨 内転+底屈 外転+背屈

表3 荷重位における距骨下関節の運動

 

【足根洞症候群】

足根洞症候群は、足首の捻挫やジョギング等による反復負荷が引き金となって現れることが多い症状です。足首の外側に慢性的な痛みが自覚されます。初期の段階で治療を開始すれば、改善も比較的スムーズですが、慢性化させてしまうケースが多いです。

足根洞というのは、距骨と踵骨の間(距骨下関節)にある空洞のことです。足首の外側にあります。ここには、たくさんの靭帯や血管、神経が走行しており、バランス(固有受容感覚)を司る非常に重要な部位となっています。従って、足根洞の異常により足関節の機能的不安定性が促されます。これは、捻挫の再発リスクをより一層高めることになります。

ここまでのご説明でも明らかなように、足根洞症候群は距骨下関節の不安定性によって引き起こされます。そして、不安定性の原因として最も多いのが足関節(足首)の捻挫です。足関節の捻挫により、距骨下関節の可動性亢進(不安定性)が生じるため、関節間の負荷(摩擦)が大きくなります。それにより、周辺組織の炎症や線維化(瘢痕化)が起こります。

症状は足根洞や足首外側(外果周辺)の痛みや違和感、詰まる感覚などが特徴で、特に足関節を背屈させた時に症状が強く自覚されます。深部痛であることも特徴の一つです。

 

距骨下関節における衝撃吸収機能

距骨下関節の回内は踵接地の瞬間に始まります。この時、距骨下関節は“緩みの位置”にあります。接地面の形状に対応するように関節のポジションを変化させることにより、踵接地時の衝撃吸収を行っています。また、足趾離地において距骨下関節は“締りの位置”にあります(表3)。

これにより、下肢で生じた力が効率的に地面に伝達されます。従って、距骨下関節は“緩む”ことで踵接地時の衝撃吸収を行い、“締る”ことで足趾離地時の安定性に貢献しています。このように、荷重位(立位や歩行時)において、距骨下関節は重要な役割を果たしています (Wang WJ,, 2004)。

 

歩行周期 距骨下関節(踵骨) 作用
踵接地 回内位(緩みの位置) 衝撃吸収
足趾離地 回外位(締りの位置) 安定化

表3 距骨下関節の“緩みの位置”と“締りの位置”

 

スタンスフェーズにおいて、距骨下関節には回内、脛骨には内旋が生じています。従って、距骨下関節が回内することにより、脛骨に生じる内旋の衝撃吸収を行っています。

また、スィングフェーズでは、脛骨には外旋方向への運動が生じます。この時、距骨下関節は回外することにより、関節にかかる負荷の衝撃吸収を行っています。

また、距骨下関節が回内位の時、同側下肢は短下肢になっています。従って、踵接地時に同側下肢が短下肢になることにより衝撃吸収が行われています。

この時、反対側に比べ最大1cmの短下肢になっています 。 さらに、距骨下関節に十分な回内が生じることで、脛骨に大腿骨よりも早い段階で回内が発生し、可動域も大きくなります。

これにより、膝関節のロックが解除され、膝には屈曲が生じます(膝屈曲位では同側下肢が短下肢となるため、衝撃吸収が起こります)。

距骨下関節の過剰回内障害

距骨下関節の過剰回内は、脛骨や中足骨の疲労骨折、足底筋膜炎、膝蓋大腿関節の運動障害、前十字靭帯の損傷など様々な障害の原因となります (Beckett ME, 1992; DeLacerda FG, 1980; Hintermann B, 1998)。

距骨下関節に過剰回内障害がある場合、スタンスフェーズにおいて関節はより長時間回内位にあります。そのため、完全回外位に戻るまでに時間がかかることになります。

既述したように、足趾離地では距骨下関節は“締りの位置”、つまり回外位に戻ることにより、その安定性を確保しています。

しかし、過剰回内障害がある場合、“締りの位置”へ戻るまでに遅延が生じます。そのため、距骨下関節に不安定性が残ったまま足趾離地に至ることになり、関節には大きな負荷がかかることになります。

距骨下関節は足部だけでなく、膝関節や股関節、仙腸関節、腰仙関節のアライメントにも影響を及ぼします。具体的には、距骨下関節が回内位の時、膝関節と股関節が共に内旋位になり、回外位では外旋位になります(図4)(Cornwall MW, 1995; Inman VT, 1976,; Klingman RE, 1997)。

従って、荷重位において距骨下関節に過剰回内が生じる場合、膝関節や股関節にも過剰な内旋が引き起こされ、軟部組織や関節面(関節軟骨)に過度の負荷が加わることになります。

図4 距骨下関節の回内(踵骨の外反)に伴う下肢関節の運動連鎖

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参考文献

  1. Viladot, A., Lorenzo, J.C., Salazar, J. The subtalar joint: embryology and morphology. 1984 :54-66 (http://bit.ly/2NBkp0r).
  2. Rockar PA Jr. The subtalar joint: anatomy and joint motion. 1995 ;21:361-372 (http://bit.ly/2XxZ0ts).
  3. lnman VT The Joints of the Ankle. 1976 Baltimore:Williams & Wilkins (http://bit.ly/2L7MZVg).
  4. Close, J.R., lnman, V.T., Poor, P.M. Todd F.N. The function of the subtalar joint. 1976 50:159-179 (http://bit.ly/2Xxdk5C).
  5. Manter JT Movements of the subtalar and transverse tarsal joints. 1941 80:397-410 (http://bit.ly/2LIcX14).
  6. Root ML, Orien WP, Weed JH Clinical Biomechanics: Normal and Abnormal Function of the foot, Vol 2. Los Angeles 1997 :Corp (http://bit.ly/2S3aLlD).
  7. Wang WJ, Crompton RH Analysis of the human and ape foot during bipedal standing with implications for the evolution of the foot. 2004 ;37:1831-1836 (http://bit.ly/2S42JsX).
  8. Beckett ME, Massie DL, Bowers KD, Stoll DA. Incidence of hyperpronation in the ACL injured knee: a clinical perspective. 1992 ;27:58-62 (http://bit.ly/2L6dFWf).
  9. DeLacerda FG. A study of anatomical factors involved in shin splints. 1980 ;2:55-62 (http://bit.ly/2ND3ieI).
  10. Hintermann B, Nigg BM. Pronation in runners: implications for injuries. 1998 ;26:169-176 (http://bit.ly/2L9C8Kc).
  11. Cornwall MW, McPoil TG. Footwear and foot orthotics effectiveness research: a new approach. 1995 ;21:337-44 (http://bit.ly/2XLaYzt).
  12. Klingman RE, Liaos MS, Hardin KM. The effect of subtalar joint posting on patellar glide position in subjects with excessive rearfoot pronation. 1997 ;25:185-91 (http://bit.ly/2Jtq6br).

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