頚椎の屈曲は80°から90°、伸展は20°から45°、回旋は40°から45°(片側)の可動域があります。
しかし、頚椎の可動域は頚椎の部位によって異なります。同様に頚椎の関節運動学も部位によって異なります。
環椎後頭関節(C0/1)
環椎後頭関節は後頭顆(凸)と環椎上関節突起(凹)との間の結合であり、非常に強固な関節です。
環椎後頭関節の関節包を補強している構造は以下の通りです。
- 前部;前環椎後頭膜
- 後部:後環椎後頭膜(椎骨動脈が貫通)
関節運動学
以下に2つの研究報告をご紹介しておきます。
- 屈曲・伸展=13°、回旋=0°(Werne S. ,1958)
- 屈曲・伸展=18.6°、回旋=3.4°、側屈=3.9°( Worth D. ,1985)
これらのリサーチから、環椎後頭関節では屈曲・伸展の可動域が比較的大きく、側屈と回旋が極度に制限されていることがわかります。
屈曲・伸展
後頭骨の屈曲では、後頭骨が環椎の上関節面の上を後上方へ滑り運動しています。一方、伸展では後頭骨が環椎の上関節面の上を前上方へ滑り運動しています(下図)。
回旋
環椎後頭関節の回旋では、同側の後頭顆前部と反対側の後頭顆後部が離解します(下図)。
また、環椎後頭関節の離解は関節包の拘縮により制限されます。
- 右側の環椎後頭関節後部の離解
- 左側の環椎後頭関節前部の離解
環軸関節(C1/2)
環椎(C1)と軸椎(C2)との間には、以下の2つの関節があります。
- 正中環軸関節
- 外側環軸関節
正中環軸関節
正中環軸関節は軸椎の歯突起と環椎前弓後面(歯突起窩)の間に形成される車軸関節です。
この関節では回旋の可動域が大きく、側屈は極度に制限されています。
正中環軸関節を補強している靭帯には翼状靭帯、環椎十字靭帯(環椎横靱帯+縦束)、歯尖靱帯があります。
外側環軸関節
外側環軸関節の関節面は凹凸がなくスムーズな平面となっています。また、関節面の向きはほぼ水平面です。
そのため、外側環軸関節は回旋の可動域が大きく、主要な運動となっています。
次に屈曲・伸展の可動域が大きく、側屈は非常に制限されています。
関節運動学
環椎後頭関節の可動域については多くの研究報告がありますが、その中から1つご紹介します(Werne S.,1958)。
- 屈曲・伸展=10°
- 回旋=47°
- 側屈=5°
見てもわかるように、回旋の可動域がとても大きくなっています。
屈曲・伸展
以下の表は各リサーチで報告されている、環軸関節の屈曲・伸展可動域です。
環椎後頭関節の屈曲・伸展を合わせた可動域は、10°から20°程度であることがわかります。
回旋
環軸関節は非常に大きな回旋可動域を持っています。
環椎の下関節面と軸椎の上関節面は、ともに凸状となっています。
従って、環椎の回旋に伴い同側の環椎関節面(下面)が後下方へ滑り落ち、反対側は前下方へ滑り落ちます(下図)。
回旋の制限要素は翼状靭帯や環椎十字靭帯(環椎横靱帯+縦束)、関節包です(特に翼状靭帯)。
また、環軸関節の回旋には伸展と反対側への側屈が併せて起こります(カップリングモーション)。
筋肉の影響
環軸関節の運動に影響を及ぼす筋肉は以下の通りです。
- 肩甲挙筋
- 上頭斜筋
- 大後頭直筋
- 小後頭直筋
- 外側頭直筋
- 頸長筋
C3-C7
屈曲
以下の表は頚椎の屈曲と伸展を併せた各椎間関節における可動域についてのリサーチ報告です。
いずれのリサーチにおいてもC4/5、C5/6において屈曲・伸展の可動域が最大になっています。
中立位から屈曲していくと、以下のような順番で屈曲が起こります。
- 下部頚椎の屈曲
- 上部頚椎の屈曲
- 下部頚椎の伸展
- 下部頚椎の屈曲と上部頚椎の伸展
伸展
中立位から伸展していくと、以下のような順番で伸展が起こります。
- 下部頚椎の伸展
- 上部頚椎の伸展
- 下部頚椎の伸展
頚椎伸展の制限要素は以下の構造です。
- 前縦靭帯
- 線維輪
- 棘突起
回旋
頚椎の回旋では椎間関節において滑り運動が起こっています。
また、回旋の制限は椎間関節の関節包によって起こります。
以下の表は、頚椎の各椎間関節における回旋可動域です。
側屈
頚椎の側屈では、同側の下関節突起は下方、反対側の下関節突起は上方へ滑り運動が起こっています(下図)。
また、同側の下関節突起は後方へ滑り運動が起こり、これが同側への回旋を促します。
従って、頚椎の側屈では同側への回旋が併せて起こります。
頚椎のカップリングモーション
頚椎の回旋には、屈曲・伸展、側屈が併せて起こります。
- 上部頚椎(C0-C3)では、回旋に伴い伸展と反対側への側屈が生じる
- 中部頚椎(C3-C5)では、回旋に伴い伸展と同側への側屈が生じる
- 下部頚椎(C5-C6)では、回旋に伴い屈曲と同側への回旋が生じる
関連症状
頚椎椎間関節障害
頚椎椎間関節障害は頚椎症とも呼ばれています。
椎間関節の傷害または変性によって引き起こされます。
頚部痛や頭痛が主症状です。
痛みの原因構造は椎間関節です。
従って、椎間関節の局所的な鋭い痛み、また関連痛が現れます(下図)。
前方頚椎症候群
下部頚椎でもっともよく認められるサブラクセーションは、前方回旋変位です。
特に慢性的な頚部痛には、しばしば見られる症状です。
前方頚椎症候群の症状は以下の通りです。
- 頚部痛
- 上背部痛
- 肩痛
- 腕痛
- 上肢の筋力低下
下部頚椎の屈曲に前方回旋、さらに側屈のサブラクセーションが併発している場合、同側上肢の筋力低下が生じることが多いです。
また、前方頚椎症候群は上位交差性症候群や第一肋骨症候群と併発していることが多いです。
上位交差性症候群は頚部筋肉のバランスに問題が生じています(下図)。
それに伴い、頭部が前突し、さらに下部頚椎の屈曲が起こっています(下図)。
第一肋骨症候群については以下の記事を参照ください。
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