胸郭は後側で胸椎、前側で胸骨と連結しています(浮遊肋骨は除く)。
胸郭の主要な運動は、呼吸に伴う挙上と下制です。また、胸郭は胸椎と連動しています。
本記事では胸郭の関節運動学と関連症状について解説してあります。
解剖学
胸郭は左右12対の肋骨、胸椎、胸骨によって構成されています。各部位は靭帯(関節包)と筋肉によって補強されており、その安定性が保たれています。
胸郭にある関節は以下の4つです。
- 肋横突関節
- 肋横突関節
- 胸肋関節(Sternocostal joint)
- 肋骨肋軟骨結合(costochondral joint)
肋横突関節
肋横突関節は肋骨結節と横突肋骨窩の間にできる関節です。関節包によって周囲を覆われている滑膜性関節です。
また、肋横突靭帯と上肋横突靱帯によって補強されています。
肋椎関節
肋椎関節は肋骨頭と肋骨窩、椎間板の間にできる関節です。
関節内靭帯と放射状肋骨頭靭帯によって補強されています。
胸肋関節(Sternocostal joint)
胸肋関節は胸骨と肋軟骨の間の関節であり、軟骨結合(synchondrosis)に分類されます。
可動性はありません。
肋骨肋軟骨結合(costochondral joint)
肋骨肋軟骨結合は肋骨と肋軟骨の間の関節です。
第1肋骨と肋軟骨の間は軟骨結合となっており、可動性はありません。
また、第2肋骨から第7肋骨と肋軟骨の間は滑膜性関節となっており、可動性があります。
肋椎&肋横突関節の関節運動学
胸郭には以下の3つの運動が生じます。
- ポンプハンドルモーション
- バケツハンドルモーション
- カリパーモーション
これらの運動は、背中側の関節(肋横突関節と肋椎関節)で生じます。
ポンプハンドルモーション
ポンプハンドルモーションは矢状面における縦方向の上下運動です。
給水ポンプのハンドルと同じ動きであることから、このように呼ばれています。
ポンプハンドルモーションは、主に上部肋骨(第1肋骨から第5肋骨)で起こる運動です。
バケツハンドルモーション
バケツハンドルモーションは冠状断面における縦方向の上下運動です。
バケツの取っ手の動きと同じであることから、このように呼ばれています。
バケツハンドルモーションは、主に中部肋骨(第6肋骨から第10肋骨)で起こる運動です。
カリパーモーション
カリパーとは測径器のことです(径を計るツール)。コンパスのようなものを想像していただければ結構です。
カリパーモーションとは、横断面における弧を描くような運動のことです。
主に下部肋骨(第11肋骨と第12肋骨)で起こる運動です。第11肋骨と第12肋骨は胸骨との結合がないため、浮遊肋骨と呼ばれています。
肋骨肋軟骨結合の関節運動学
吸気において胸郭は挙上します。それに伴い、胸骨は前上方へ変位します。
この時、肋骨肋軟骨結合(肋軟骨と肋骨の間)では上方回旋(前上方への捻れ)が発生しています(下図;Kapandji, 1964)。
関連症状
肋骨滑り症候群(Slipping rib syndrome)
肋骨滑り症候群は肋骨肋軟骨結合で発生します。男性に比べ女性の発症率が高く、第8から第10肋骨肋軟骨結合に好発します。
交通事故やスポーツ傷害などに伴う靭帯の損傷により、肋骨肋軟骨結合でサブラクセーションが起こっています。
また、サブラクセーションにより肋間神経痛が発症していることもあります。
肋骨肋軟骨結合離解
肋骨肋軟骨結合離解では、肋骨と肋軟骨の離解が起こっています。肋骨滑り症候群と同様、これも傷害によって発症するケースが多いです。
肋骨肋軟骨結合における鋭い局所痛や捻髪音が主な症状であり、深呼吸で症状(痛み)の増悪が起こります。
第1肋骨フィクセーション症候群
第1肋骨フィクセーション症候群は、うつぶせ寝やむち打ち傷害、オーバーヘッドモーションの反復(投球やテニスのサーブ)などによって発症することが多いです。
また、上位交差性症候群と併発しています。
上位交差性症候群では下の図のような筋肉バランスの問題が発生しています。
主な症状は以下の通りです。
- 上部僧帽筋の拘縮
- 頭頚部痛
- 顎関節痛
- 中背部痛
- 肩痛
- 上肢痛
- 胸椎の過剰後弯曲
- 肩関節内旋位
- 翼状肩甲骨
- 頭部前突位
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