膝蓋骨の運動
膝関節を屈曲させた時、膝蓋骨は下方へ滑り運動が生じます。一方、伸展では上方に滑り運動が起こります。
しかし、膝関節の屈曲・伸展に伴う膝蓋骨の動きはもう少し複雑です(この件については後ほど解説します)。臨床ではこの複雑な動きを検査において検出できることが、正確な診断つながります。
膝蓋骨に運動障害がある場合、関節面(関節軟骨)への負荷(圧迫)にも変化が生じます。その結果、局所的に強い負荷が加わる領域が現れ、変形性関節症や離断性骨軟骨炎へと発展することがあります。
膝関節が完全伸展位の時、膝蓋骨の関節面はどこにも接触していません。従って、このポジションにおいて、膝蓋骨の可動性は最も大きくなっています。
従って、膝関節完全伸展位において膝蓋骨に可動域制限がある場合、その制限要素は膝蓋支帯である可能性があります(大腿四頭筋は弛緩していると仮定)(MacRae PG, 1992, http://bit.ly/2ZiJMtp)。
逆に屈曲位では膝蓋骨は大腿骨滑車部とかみ合っているため、可動域は著しく制限されます。
膝関節屈曲に伴う膝蓋骨の運動
膝関節の屈曲・伸展により、膝蓋骨には縦方向と横方向への滑り運動が生じます。縦方向には5cmから7cmの可動性があります (Mann RA, 1977, http://bit.ly/2MznEnL)。
膝関節伸展位において、膝蓋骨はやや外方に位置しています。そして、屈曲の初動時にはわずかですが内方への変位が起こります。
その後、ほぼ直線的な運動(下方変位)が起こります(表1参照)。また膝関節の屈曲に伴い、わずかですが外旋と屈曲も生じます (Powers CM, 1997, http://bit.ly/2HqXyiN)。
膝関節の運動と膝蓋軟骨の接触面積の変化
膝関節屈曲に伴う膝蓋軟骨の接触面積の変化
膝関節屈曲に伴い、接触部位は近位へと変位し、接触面積は徐々に拡大し膝関節90°屈曲位において最大となります (Grelsamer RP, 1998, http://bit.ly/2ZviCyw)。
さらに屈曲させると、膝蓋骨は大腿骨顆とのみ接触するようになります。この時、膝蓋骨関節面の内側面と大腿骨内側顆の外側面が互いに接触しています。
この時の膝蓋骨側の関節面はオッド面(odd facet)と呼ばれ、膝関節が135°屈曲位において現れます。
屈曲角度が大きくなるほど、接触部位は近位に変位し、接触面積は大きくなっていきます。
膝関節屈曲に伴う膝蓋軟骨の接触部位の変化
膝関節が完全伸展位のとき、膝蓋骨遠位端は大腿骨の関節面とわずかに接触しています。膝蓋骨は膝関節10°屈曲位において下方へ動き始めます(膝蓋高位症(Patella alta)の場合、膝蓋骨が大腿骨滑車部にはまり込むまでにより大きな屈曲角度が必要となります)。
膝関節10°屈曲位においては、膝蓋骨の外側関節面と大腿骨外側顆のみが接触しており、膝蓋骨の内側関節面と大腿骨内側顆は接触していません。
しかし、屈曲角度が20°の時には膝蓋骨関節面の内側と外側がともに接触し、これは90°まで続きます(Grelsamer RP, 1998, http://bit.ly/2ZviCyw)。
また、膝関節の屈曲に伴い膝蓋骨関節面の接触部位は近位に変位していきます。
図を見てもわかるように、膝関節20°屈曲位の時は膝蓋骨関節面の遠位部が大腿骨滑車部と接触していますが、90°になると接触部位は遠位に変位しています。
135°屈曲位になると膝蓋骨関節面の接触領域が顕著に変化します。膝蓋骨関節面の中心領域の接触は完全になくなり、膝蓋骨関節面のオッド面と外側面のみが大腿骨顆と接触するようになります。
膝関節の屈曲角度が90°を超えると次第に関節面の接触面積が減少していきます。しかし、90°を超えたところで大腿四頭筋腱が大腿骨滑車部と接触し始めます。
従って、大腿四頭筋腱にも負荷が分散するため、関節面への負荷はそれほど増大しません。
膝蓋骨の変位
膝蓋骨の変位には以下の4種類があります。
- 横滑り(内方/外方)
- 回旋(内旋/外旋)
- 横傾斜(内反/外反)
- 縦傾斜(屈曲/伸展)
横滑りは大腿骨滑車部を基点として冠状断面における内方もしくは外方変位のことです。
回旋は膝蓋骨を前方から後方に垂直に貫く運動軸を中心とする円運動です。膝蓋骨尖が外方へ向く運動は外旋、内方へ向く運動は内旋と言います。
一方、横傾斜の運動軸は膝蓋骨の正中断面を貫いており、縦傾斜の運動軸は横断面をそれぞれ貫いています。それぞれ、屈曲・伸展、外反・内反が起こります。
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参考文献
- MacRae PG, Lancourse M, Moldavon R: Physical performance measures that predict faller status in community-dwelling older adults. J Orthop Sports Phys Ther. 1992;16(3):123-8 (http://bit.ly/2ZiJMtp).
- Mann RA, Hagy JL: The popliteus muscle. J Bone Joint Surg Am. 1977 Oct;59(7):924-7 (http://bit.ly/2MznEnL).
- Powers CM, Perry J, Hsu A, Bishop HJ: Are patellofemoral pain and quadriceps femoris muscle torque associated with locomotor function? Phys Ther. 1997 Oct;77(10):1063-75; discussion 1075-8 (http://bit.ly/2HqXyiN).
- Grelsamer RP: The biomechanics of the patellofemoral joint. J Orthop Sports Phys Ther. 1998 Nov;28(5):286-98 (http://bit.ly/2ZviCyw).