梨状筋起因の坐骨神経痛は、1928年にYeomanによって初めて提唱されました。当時、彼はこの疾患を『仙腸関節周囲炎』と表現していました。
梨状筋症候群という疾患名はRobinsonによって初めて使われました。(D.R. Robinson 1947; https://goo.gl/cMtZqf)。
梨状筋の直下には坐骨神経が走行しています(図1)。梨状筋症候群では、梨状筋によって坐骨神経が刺激(物理的または生理学的)されることででん部痛や下肢痛(坐骨神経痛)が現れます。
図1 梨状筋と坐骨神経の解剖学的位置関係
梨状筋の直下を坐骨神経が下行
梨状筋症候群は稀な疾患です。複数のリサーチによると梨状筋に起因する坐骨神経痛は、全体の0.33~6%に過ぎません(J.W. ThomasByrd 2004; https://goo.gl/oSg1hQ)。しかし、腰椎周辺以外に起因する坐骨神経痛では比較的好発する症状です。
症状
患者はでん部痛や下肢痛(坐骨神経痛)を訴えます。でん部痛は長時間の同じ姿勢(特に座位)や歩行などで増悪します。
下肢痛は大腿後面から外側面にかけての痺れや感覚鈍麻が現れますが、比較的稀な症状です。
また、大坐骨孔の痛み(圧痛も含む)も特徴的な症状の一つです。また梨状筋症候群による坐骨神経痛の場合、知覚異常領域が膝関節よりも近位に留まっていることが多いです。
- でん部痛
- 長時間の座位で症状増悪
- 大坐骨孔の痛み
原因
梨状筋症候群は一次性(プライマリ)と二次性(セカンダリ)に分類されます。
一次性梨状筋症候群
一次性梨状筋症候群は解剖学的(構造的、器質的)な問題が原因になります。
具体的には梨状筋の近辺における坐骨神経のバリエーションが原因となっている梨状筋症候群のことです(下図)。
タイプⅠ(70%)
タイプⅡ(19.6%)
タイプⅢ(4.2%)
タイプⅣ(1.8%)
タイプⅤ(1.5%)
タイプⅥ(2.5%)
坐骨神経のバリエーションは、1937年にBeatonとAnsonによって6つのパターンが示されました(L.E. Beaton, B.J. Anson 1937; https://goo.gl/hzcZnA)。タイプⅠとⅡでおよそ90%を占めています(M. Trotter 1932; https://goo.gl/wempvq)。
二次性梨状筋症候群
一方、二次性梨状筋症候群は、マクロトラウマ(でん部から転倒など)もしくはマイクロトラウマ(長時間の座位など)によって梨状筋に炎症や線維化が生じ、坐骨神経に影響(物理的・化学的)を及ぼすことで症状が現れます。
梨状筋症候群全体の85%以上が二次性梨状筋症候群に該当します(E.C. Papadopoulos, S.N. Khan, 2004; https://goo.gl/4vYyyG)。
検査
梨状筋症候群では梨状筋の下で坐骨神経が圧迫されていることに起因しています。従って検査では梨状筋を他動的に伸張位にした時、もしくは自動的に収縮を起こさせた時(アイソメトリック)に坐骨神経への圧迫が増加し、痛み(でん部痛、下肢痛)が現れます。
ただし梨状筋を自動的に収縮させた時の方が陽性反応が現れやすいと言われています(R.A. Beatty 1994; https://goo.gl/3t32Fw )。以下は代表的な検査法です(表1)。
検査名 | 検査法 | 陽性 |
ペーステスト(Pace test) | 患者座位(または腹臥位)において股関節の外転+外旋へ抵抗。 | 痛み、筋力低下 |
ラセーグ兆候(Lasegue’s sign) | 患者仰臥位において膝完全伸展位のまま股関節を90°に屈曲。 | 痛み(でん部痛、下肢痛) |
フライバーグサイン(Freiberg sign) | 患者仰臥位(または側臥位)において股関節の内旋+内転。 | 痛み(でん部痛、下肢痛) |
表1 梨状筋症候群の整形外科的テスト
触診検査では、梨状筋の圧痛が触診されます。圧痛は特に大坐骨孔において顕著です。患者を側臥位(検査側が上)にし、股関節を屈曲位+内転位+内旋位の状態で大坐骨孔を触診すると圧痛が現れやすいです。梨状筋と坐骨神経の触診について解説動画がありますので、そちらを参照してください。
また梨状筋の拘縮により仙骨に捻れが生じる可能性があります。仙骨の運動軸を考慮すると、同側のS4(仙骨尖)が後方、反対側のS2(仙骨底)が前方に変位します(図3)。
図3 梨状筋と仙骨の変位
左梨状筋の拘縮により右S2前方変位、左S4後方変位が生じる
治療
マクロトラウマによって梨状筋の炎症反応が強い場合、休息やアイシングなどで症状が軽減するのを待ちます。
一方、マイクロトラウマでは梨状筋周辺の線維化が起こっている可能性があります。従って線維化に伴う組織の癒着の除去が治療法になります。またこの場合、虚血も生じているため冷やさないようにします。
ホームエクササイズでは梨状筋のストレッチを行ってもらいます。仰臥位において股関節の屈曲+内転+内旋により梨状筋はストレッチされます。
最大ストレッチポジションにおいて30秒から1分程度維持します。ただしこの時、下肢痛(坐骨神経痛)が現れた場合は中止します。
整形外科関連のおすすめ書籍
丁寧なビジュアライズで、運動器の構造・機能も、
骨折、変形性関節症など多彩な整形外科疾患も、この1冊だけでしっかりみえる!
運動器・整形外科テキストの新スタンダード!
◆2,000点以上のイラスト・図表・画像で、運動器の解剖・生理から病態まで、余すことなくビジュアル化!
◆検査、保存療法、手術療法などの重要ポイントもコンパクトに解説!
◆QRコードを使って、全身骨格、関節運動などの3D骨格コンテンツがスマホ上で動かせる!
医学生、看護師、PT・OT、柔道整復師などの医療従事者の方々はもちろん、スポーツ・トレーニング関係の皆さまにもおすすめしたい一冊です(アマゾンより)
関連動画
関連記事
こちらの記事では、股関節の運動学(バイオメカニクス)について解説してあります。
股関節の靭帯 股関節には、腸骨大腿靱帯、恥骨大腿靱帯、そして坐骨大腿靱帯の3つの強力な関節包靱帯によって補強されています。これらは、それぞれの靭帯の名前が示す部分から起こり、全て転子間線に停止を持っています。 そのため、大腿骨頚の9[…]
中殿筋は前部線維束と後部線維束に分けられ、前者は股関節の屈曲と内旋、後者は同関節の伸展と外旋の作用を持っています。また、両線維束が一緒に作用することにより股関節の外転が起こります。さらに中殿筋には股関節を安定化させる役割もあります。特に片足立ちの時に中殿筋の安定化機能が強く働きます。
殿筋は大殿筋、中殿筋、小殿筋の3つの筋肉によって構成されています。 殿筋は股関節後部にある筋肉であり、股関節の運動に多大な影響を与えます。 本記事では中殿筋の解剖学と関連症状について解説してあります。 大殿筋 中殿筋 小殿筋[…]
殿筋は大殿筋、中殿筋、小殿筋の3つの筋肉によって構成されています。 殿筋は股関節後部にある筋肉であり、股関節の運動に多大な影響を与えます。 本記事では殿筋の解剖学と関連症状について解説してあります。
殿筋は大殿筋、中殿筋、小殿筋の3つの筋肉によって構成されています。 殿筋は股関節後部にある筋肉であり、股関節の運動に多大な影響を与えます。 本記事では殿筋の解剖学と関連症状について解説してあります。 大殿筋 中殿筋 小殿筋 […]
坐骨神経はL4-S3脊髄神経が束になった後、大坐骨孔を外に出ます。その後梨状筋の下、坐骨結節の外側を通り、大腿後面、下腿後面へと下行していきます。大腿後面において、脛骨神経と総腓骨神経に枝分かれしています。
坐骨神経について以下の項目を解説しています。 走行 支配筋 坐骨神経痛 絞扼箇所 坐骨神経の走行 坐骨神経はL4-S3脊髄神経が束になった後、大坐骨孔を外に出ます。 その後梨状筋の下、坐骨結節の外側を通り、大腿後面、下腿[…]