下位交差性症候群の原因・症状・治療法

原因

下位交差性症候群では、腰椎・骨盤領域の前後筋肉のバランスに問題が生じています(下図)。

 

緊張

  • 脊柱起立筋
  • 腸腰筋

弛緩

  • 腹直筋
  • 大殿筋

バイオメカニクス

下位交差性症候群では、脊柱に以下のような代償作用が起こっています。

  1. 腰椎の前弯
  2. 骨盤の前傾
  3. 胸椎の後弯
  4. 頭部の前突

 

腹直筋が弛緩し脊柱起立筋が緊張することで、腰椎の前弯曲が増加します。腰椎の前弯に伴い寛骨は前傾位となります。

腰椎の前弯曲増加は、胸椎の後弯と頭部の前突を促します。

胸椎後弯曲の増加により、肋骨は内旋、肩甲骨も内旋に変位します(下図)。

肋骨の内旋
肩甲骨の内旋

肩甲骨の内旋は翼状肩甲骨と呼ばれています。翼状肩甲骨は肩甲骨内側縁が後方に突出した状態であり(下図)、肩甲骨の不安定性を示唆しています。特に上肢挙上位において顕著になります。

 

また頭部の前突位も起こります。

頭部が前突位の時、頚椎では以下のような変位が起こっています。

  1. 上部頚椎の伸展
  2. 下部頚椎の屈曲

症状

下位交差性症候群によって引き起こされる症状について、以下の項目に分けて解説していきます。

  1. 腰痛
  2. 上背部痛
  3. 肩痛
  4. 頭痛・頚部痛

腰痛

下位交差性症候群により、腰椎は前弯曲(伸展)が増加します。腰椎前弯曲の増加は、腰椎・骨盤領域の構造に以下のような変化をもたらします。

  1. 腰椎椎間関節の圧迫
  2. 椎間板後部の圧迫
  3. 仙腸関節のサブラクセーション(剪断)
  4. 脊柱周辺軟部組織(脊柱起立筋、多裂筋、腸腰靭帯、仙結節靭帯など)の過緊張

これらの構造の障害により腰痛が引き起こされます。

腰椎椎間関節が圧迫されると局所的な鋭い痛みが現れますが、腰部からでん部にかけての関連痛が現れることもあります。

椎間板後部が圧迫されることで、椎間板ヘルニアとなる場合があります。椎間板ヘルニアが神経根を刺激することにより、下肢の痛みや痺れなどの坐骨神経痛症状が現れます。

仙腸関節のサブラクセーションでは、仙腸関節周辺の局所的な鋭い痛みとなることが多いですが、下肢後面への関連痛が現れることもあります(下図)。坐骨神経痛との鑑別診断が必要になります。

 

上背部痛

胸椎後弯曲の増加、肋骨の内旋変位により、肩甲骨内側にある菱形筋や中部僧帽筋などが伸張されます。それにより、痛みやコリなどの症状が現れます(鈍痛であることが多いです)。

肩痛

下位交差性症候群では、肩甲骨が内旋に変位しています。それに伴い、上腕骨頭は前内下方に変位します。そのため、肩関節周辺では以下のようなことが起こっています。

  1. 肩関節の不安定化
  2. 回旋筋腱板(ローテーターカフ)の機能低下
  3. 肩関節の関節包後部の伸張(前部の拘縮)

肩関節の不安定化は、上腕骨頭の不安定化と同義です。従って、上肢の挙上によりインピンジメント症候群が発生する可能性があります。

また、回旋筋腱板(ローテーターカフ)の機能低下は、棘上筋腱の断裂や棘下筋腱の石灰化などの症状の原因になります。

関節包後部が伸張され前部が拘縮した場合、上腕骨頭の前方変位が生じるので、これもインピンジメント症候群のリスクを高めます。

インピンジメント症候群では、肩関節の挙上に伴う痛みが現れます(ペインフルアーク)。

また、肩鎖関節の運動障害も併発することがあります。特に鎖骨遠位端の後方回旋への可動域制限が好発します。

インピンジメント症候群と肩鎖関節障害による疼痛可動域については、以下の図を参考にしてください。

頭痛・頚部痛

頭部が前突位になることで、上部頚椎は伸展位、下部頚椎は屈曲位に変位します。

上部頚椎が伸展位で維持されることで、後頭下筋群の慢性的な拘縮が起こります。それに伴い、頭痛、頚部痛、めまい、耳鳴りなどの症状が引き起こされます。

また、下部頚椎の屈曲は上部僧帽筋や肩甲挙筋の過緊張を引き起こすため、肩こりの症状が現れます。

 

  • 腰痛
  • 坐骨神経痛
  • 上背部(左右肩甲骨の間)の痛みやコリ
  • 肩の挙上に伴う痛み(インピンジメント症候群)
  • 頭痛
  • 頚部痛
  • めまい
  • 耳鳴り
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検査

姿勢検査

下位交差性症候群では、以下のようなアライメント異常が認められます。

  1. 腰椎前弯曲の増加
  2. 胸椎の過剰後弯曲
  3. 肋骨の内旋
  4. 肩甲骨の内旋
  5. 頭部の前突位(下部頚椎屈曲位、上部頚椎伸展位)

触診検査

触診検査では以下の構造の圧痛の有無を確認します。

  1. 腰椎・骨盤
    腰方形筋、腸腰筋、大殿筋、梨状筋、脊柱起立筋、多裂筋、腰椎椎間関節、仙腸関節、後仙腸靭帯、仙結節靭帯
  2. 上背部(左右肩甲骨の間)
    菱形筋、肩甲挙筋、上後鋸筋、肋間筋、胸椎椎間関節、肋横突関節
  3. 後頚部
    上部僧帽筋、頚板状筋、頭板状筋、後頭下筋群(上頭斜筋、下頭斜筋、大後頭直筋、小後頭直筋)、頚椎椎間関節
  4. 肩関節
    関節包(前後)、上腕二頭筋長頭腱、ローテーターカフ(回旋腱板)、小胸筋、大胸筋、烏口肩峰靭帯

治療法

徒手療法

アジャスメント

脊柱(腰椎・骨盤、胸椎、頚椎)のアジャスメントを行います。

また上腕骨頭の前方変位、鎖骨の後方回旋へのフィクセーションの有無を確かめ、もし必要ならこれらの部位もアジャスメントを行います。

筋膜リリース

触診検査において圧痛が確認された軟部組織を中心に筋膜リリースを行うと良いでしょう。下位交差性症候群では、以下の軟部組織に問題が好発する傾向があります(腰椎・骨盤領域に限定してあります)。

  • 腰方形筋
  • 大腰筋
  • 多裂筋
  • 大殿筋
  • 梨状筋
  • 後仙腸靭帯
  • 仙結節靭帯

ホームエクササイズ

特に拘縮(緊張)している筋肉のストレッチを行います。特に大筋群を中心にストレッチを行うと良いでしょう。

  • 腸腰筋
  • 脊柱起立筋

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