股関節インピンジメント症候群 の原因・症状・検査法・治療法

  • 2019年6月27日
  • 2020年6月18日
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股関節インピンジメント症候群では、大腿骨近位部(大腿骨頭~大腿骨頚)と寛骨臼が衝突(インピンジメント)することにより股関節の可動域制限が起こっています。

インピンジメントの反復により、関節唇や関節軟骨の損傷や変性が起こることがあります。このようなケースでは、変形性股関節症に至ることもあります。

症状

痛みは鼡径部に現れます。特に股関節の屈曲や内旋の最終可動域において、鼡径部痛は増悪します。

股関節のロッキングやクレピタス(捻髪音)なども見られます。また、関節唇断裂が併発している場合、股関節の不安定性が現れることがあります。

これらの症状は運動や長時間の歩行などによって増悪し、デスクワークや車の運転などによる長時間の座位によっても悪化することがあります。

原因

構造的要因

構造的要因には先天性のものと後天性のものの2種類があります。先天性の構造要因には、大腿骨頭や寛骨臼の形成不全があります。

また、後天性の構造的要因の代表的なものには、変形性股関節症があります。軟骨の摩耗や骨棘の形成により、股関節のインピンジメントが発生します。

構造的要因の部位により、インピンジメントのタイプは以下の3つに分かれます。

カム型インピンジメント(図1B)

カム型インピンジメントでは、大腿骨頭から大腿骨頚の前上部の形状に異常が見られます(寛骨臼は正常)。

正常である場合、大腿骨頭から大腿骨頚の前上部はやや凹んだ形状をしています。しかし、カム型インピンジメントの場合、この部位が平坦もしくは凸状に盛り上がっています。

そのため、股関節の運動(特に屈曲)に伴い、大腿骨頭と寛骨臼縁で衝突(インピンジメント)が発生します。その際、寛骨臼側の関節軟骨(寛骨臼縁の前上部)の損傷(または摩耗)が起こります。

関節軟骨の損傷は、関節唇の剥離や断裂を引き起こします。このような状態が慢性化している場合、股関節の運動の度に大腿骨頭と寛骨臼との間でインピンジメントが反復されるため、骨棘の形成が促されます(変性の進行)。それが、さらに患者の主訴の悪化につながっていきます(図1B)。


カム型インピンジメントにおける大腿骨頭から大腿骨頚にかけての構造的異常の原因については、まだ明確な見解は示されていません。

臨床的には症状がはっきり表れる前の大腿骨頭すべり症であるとする説もありますが、最近では大腿骨頭と大転子の成長骨端の発達異常が、大腿骨頭から大腿骨頚における構造的異常の原因ではないかと言われています。

股関節の運動の度に大腿骨頭と寛骨臼との間でインピンジメントが反復されるため、骨棘の形成が促されます(変性の進行)。それが、さらに患者の主訴の悪化につながっていきます。
カム型インピンジメントにおける変性進行のメカニズム

図1 カム型インピンジメントにおける変性進行のメカニズム

 

ピンサー型インピンジメント(図1C)

ピンサー型インピンジメントでは、寛骨臼側に構造的異常が見られます(大腿骨頭は正常)。寛骨臼の構造的異常には、寛骨臼後捻(Acetabular retroversion)や寛骨臼突出(Protrusio acetabulum)などがあります。

いずれの症状も大腿骨頭が寛骨臼の中に深くはまり込んだような状態になっているため、股関節の運動に伴いインピンジメントが発生しやすくなっています。

このタイプにおける変性の好発部位は関節唇です。関節唇の変性が進行すると骨化が起こるため、大腿骨頭に関節唇がさらに覆いかぶさるようになりインピンジメントが悪化します(図1C)。

インピンジメントは股関節前部で発生すると同時に、関節軟骨の損傷は反対側にある寛骨臼後下部で起こります(図2)。

一般的に寛骨臼側における関節軟骨の損傷部位は局所的であるため、損傷程度も軽度であることが多いです。その一方、カム型インピンジメントの場合、損傷が深いところまで届いている場合が多く、広範囲にわたる関節唇の断裂も併発しています。

複合型インピンジメント(図1D)

複合型インピンジメントでは、大腿骨頭から大腿骨頚にかけての構造的疾患と寛骨臼の構造的疾患を両方とも持っているパターンです。また、股関節インピンジメント症候群の中でもっとも好発するタイプです。

図1

 

Contre-Coupメカニズム(図2)

カム型もしくはピンサー型インピンジメントでは、ともに関節唇の損傷が認められます。関節唇の損傷は、寛骨臼前上部が好発部位となっていますが、寛骨臼の後下部にも損傷が認められるケースが報告されています。

これは、Contre-Coupメカニズムによって発生していると思われます。Contre-Coupとは対側衝撃のことを意味しています。

通常、これは脳震盪などによって衝撃が加わった部位の反対側に損傷が起こる場合に使われますが、似たようなことが股関節インピンジメントでも発生することがあります。

大腿骨頭が寛骨臼前上部に衝突(一番目のインピンジメント)すると、その部分を支点にして大腿骨頭が持ち上がり、その反対側である寛骨臼後下部にぶつかります(二番目のインピンジメント)。この現象はピンサー型もしくは複合型のインピンジメントで好発します。

図2 Contre-Coupメカニズム

機能的要因

股関節の機能障害の要因には3つの側面が考えられます。それらは、筋肉、関節、神経の機能障害です。

筋肉の機能障害

股関節後側には、多くの筋肉があります(表層部には大殿筋、その下層には外旋筋群)。従って、股関節の後方への安定性は筋肉の状態から影響を受けます。股関節の機能に特に影響を及ぼすと思われる筋肉について解説していきます。

大殿筋

大殿筋は股関節周辺にある筋肉の中で最大のものです。股関節の伸展と外旋の機能を持っています。

大殿筋の機能低下が起こることで、股関節は外旋位を保てなくなり内旋位に維持されます。この傾向は深くしゃがんだときやジャンプなど大きな負荷が股関節に加わることでより顕著になります。

また、股関節が内旋位に維持されることで、膝関節には外反方向への負荷が増し、内側側副靭帯や半月板、前十字靭帯などの損傷や膝蓋骨の外方脱臼などのリスクが高くなります。

大殿筋、中殿筋、小殿筋

中殿筋

中殿筋は前部線維束と後部線維束に分けられ、前者は股関節の屈曲と内旋、後者は同関節の伸展と外旋の作用を持っています。また、両線維束が一緒に作用することにより股関節の外転が起こります。

さらに中殿筋には股関節を安定化させる役割もあります。特に片足立ちの時に中殿筋の安定化機能が強く働きます。従って、中殿筋の機能低下は股関節の不安定性を引き起こし、それがインピンジメントへとつながる可能性があります。

外閉鎖筋

外閉鎖筋の作用は股関節の外旋です。よって、外閉鎖筋の拘縮により股関節は外旋位に変位します。

股関節が外旋位のとき、内転筋群の機能低下が生じます。さらに、内転筋群の機能低下は骨盤底筋の機能低下につながり、骨盤周辺の機能的不安定性を引き起こします。

関節の機能障害

股関節は球関節(Ball and socket joint)に分類されます。球関節では挙上動作に伴い関節内では、上方回旋と下方滑りの2つの運動が生じています。

これら2つの運動がバランスよく生じることで、大腿骨頭は寛骨臼内でずれることなく動くことができます。


しかし、変形性股関節症などで下方滑りの可動性が減少している場合、股関節屈曲に伴い前方インピンジメントが起こります。また、このようなことは関節包の変性によっても引き起こされることがあります。

神経の機能障害

股関節(関節包)の神経支配は、部位によって異なります。前部は大腿神経、下部は閉鎖神経の前枝、後上部は上殿神経、外側部は坐骨神経による神経支配(それぞれの神経の関節枝)を受けています。

これらの神経の絞扼障害は、股関節の運動障害を引き起こし、インピンジメントの原因になることがあります。

検査

股関節の可動域検査では制限が見られます。特に内旋、外転さらに屈曲に可動域制限が起こります。

また、内旋の可動域は屈曲位と内転位においてさらに制限が強くなります。カム型インピンジメントの場合、他動的屈曲、内転そして内旋において痛みが誘発される傾向があります。

治療

股関節の機能障害を改善させることで、疼痛や可動域制限などの自覚症状を改善させることを目指します。

アジャスメント

股関節インピンジメント症候群では、関節内運動障害が起こっています(大腿骨頭の滑り運動と回転運動のバランスの問題)。

従って、股関節のアジャスメントでは、この点に留意する必要があります。例えば股関節を屈曲すると、関節内では大腿骨頭の上方回転と下方滑りが起こっています。

しかし、股関節の前部にインピンジメントが生じる場合、上方回転に対して下方滑りの割合が少なくなっています。従って、アジャスメントは以上の問題を考慮して行うようにします。このケースで考えられる運動障害は以下の通りです。

  • 過剰な上方回転
  • 下方滑りの増大
  • ①、②の両方

軟部組織のリリース

股関節の運動に影響を及ぼす筋肉(大殿筋、中殿筋、外閉鎖筋、大腰筋など)を中心にリリースを行います。さらに、股関節の関節包に硬縮や癒着が認められる場合、関節包のリリースも行います。

ホームエクササイズ

下肢の不安定性が認められる場合、バランストレーニングを行います。典型的な不安定性のパターンでは、ランジやスクワットにおいてしゃがんでいくとき、股関節の内旋、膝関節の外反、足関節の回内が過剰に起こります。

バランストレーニングでは、鏡などを見ることで正しいフォームをフィードバックさせながら(フィードフォワード)、行うようにします。また、反復回数は20回以上を目安にします。

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