ジャンパー膝 (Jumper’s knee)の原因、症状、検査法、治療法について

ジャンパー膝は、膝蓋靭帯炎(または膝蓋腱炎)とも呼ばれています(膝蓋靭帯は膝蓋骨から脛骨粗面に下行している靭帯(図1))。

しかし、実際は膝蓋靭帯には炎症反応が認められないことが多く、腱症(膝蓋靭帯の変性)に近い状態と考えられています。

図1 膝蓋靭帯 
起始は膝蓋骨尖、停止は脛骨粗面にある

 

バスケットボールやバレーボールなどのジャンピングスポーツの選手に好発します。また、サッカー選手やウエイトリフター、競輪選手などにもしばしば見られます。

症状

膝蓋靭帯の痛みが主な自覚症状です。痛みは膝蓋靭帯の起始周辺(図2)に局在し、ジャンプやランニング、スクワットなどで痛みの増悪が認められます。

また階段の昇降時にも痛みが自覚されます。特に階段を降りる時、大腿四頭筋には伸張性収縮が起こっているため、特に強い痛みが現れます(伸張性収縮は短縮性収縮よりも大きな負荷がかかる)。

図2 ジャンパー膝の症状 
痛みは膝蓋靭帯の起始(膝蓋骨尖)に局在する

原因

機械的要因

膝関節の反復動作(大腿四頭筋の過剰な伸縮)が主要は発生メカニズムです(Kujala UM, 1989; Ferretti A, 2002)。

しかし、ジャンパー膝は全てのアスリートに見られる疾患ではありません。従って、膝関節の反復動作以外にも様々な原因が考えられます。以下に代表的なものを列記しておきます。

  • 膝蓋骨のサブラクセーション(膝蓋骨高位(Pattela alta)または膝蓋骨低位(Patellar baja))
  • Qアングルの増加
  • 大腿四頭筋の機能低下
  • 足関節や膝関節の運動障害

慢性的なジャンパー膝では、膝蓋骨尖と膝蓋靭帯のインピンジメントが発生していることがわかっています(Johnson DP, 1996)。

症状の慢性化により、膝蓋靭帯(起始部)と膝蓋骨尖の肥厚が起こり、さらにインピンジメントを悪化させます。

病生理学的要因

ジャンパー膝の痛みは、膝蓋靭帯の中に発達した病理的血管(pathological blood vessels)に起因している可能性があります(Andres and Murrell, 2008; Danielson et al., 2008; Gisslén and Alfredson, 2005)。

膝蓋靭帯内の新生血管形成に伴い、神経線維も新たに形成されます。これらの神経線維に負荷がかかることにより、痛みが発生すると考えられます(Danielson et al., 2008; Gisslén et al., 2007; Knobloch, 2008; Lian et al., 2006)。

また、ジャンパー膝の患者には、新生血管形成が頻繁に認められることがわかっており(Gisslén and Alfredson, 2005; Gisslén et al., 2007)、腱症の主要な病生理学的所見であると考えられています(Knobloch, 2008)。

検査

運動検査

膝関節伸展の抵抗運動検査を行います。膝蓋骨尖の痛みが増悪した場合、ジャンパー膝の疑いがあります。抵抗運動検査では膝関節を30°、90°、120°の三つの屈曲角度において行うようにします。

触診検査

先述したように、ジャンパー膝の症状の特徴は、膝蓋骨尖の圧痛です。触診検査では、膝蓋骨尖の圧痛の有無を確認します。局所的な鋭い痛みが触診された場合、ジャンパー膝の可能性があります。

膝蓋骨尖の圧痛の原因構造には、膝蓋靭帯以外に以下のようなものもあります。

  • 膝蓋骨軟骨
  • 脂肪体
  • 関節包
  • 伏在神経
  • 皮神経

治療

膝蓋靭帯

先述したように、ジャンパー膝患者の膝蓋靭帯には変性が起こっています。変性に伴い膝蓋靭帯には線維化が起こっています。線維化の改善のためには、膝蓋靭帯のリリースが効果的です。

膝蓋大腿関節

膝蓋骨のサブラクセーションが、ジャンパー膝の原因になっていることもあります。膝蓋骨のサブラクセーションは、膝関節伸展位においてより顕著になります。

その原因は、膝関節内側の構造(内転筋群や内側広筋)と外側の構造(外側広筋や腸脛靭帯)の不均衡です。多くのケースにおいて、内側構造の筋力低下と外側構造の過緊張が起こっています。

従って、膝関節の伸展に伴い、膝蓋骨には外方のサブラクセーションが生じます。膝蓋骨のサブラクセーションの改善には、内側構造の機能改善と外側構造のストレッチが効果的です。

運動療法

大腿四頭筋とハムストリングの柔軟性と筋力の低下が、ジャンパー膝の発症と相関性があることが分かっています (Cook JL, 2004.; Crossley KM, 2007; Witvrouw E, 2001)。

従って、これらの筋群の機能改善がジャンパー膝の症状改善にとって大切であると思われます。

また、バレーボール選手(被験者10名中7名の健常群と3名のジャンパー膝群)を使った研究によると、ジャンパー膝群は、スパイク後の着地時に生じる膝関節の屈曲角度が健常群に比べ大きかったことがわかっています。

つまり、ジャンパー膝の患者は、ジャンプ後の着地時により大きな膝関節と股関節の屈曲が生じる傾向があります。

そのため、より大きな負荷が膝蓋靭帯にかかるため、ジャンパー膝を発症しやすいことが推察されます。

従って、大腿四頭筋と大殿筋の機能改善が重要となります(これら筋肉の筋力強化と膝関節・股関節の運動パターンの改善)。

また、膝蓋靭帯の線維化の改善のためには、伸張性収縮運動が効果的です。レッグエクステンションにおいて、伸張性収縮を意識したトレーニングを行うと良いでしょう。1セット15レップスを3セット/日を週3回程度行います。

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参考文献

  1. Kujala UM, Aalto T, Osterman K, Dahlström S. The effect of volleyball playing on the knee extensor mechanism. Am J Sports Med 1989;17:766-769 (http://bit.ly/2VpGVfA).
  2. Ferretti A, Conteduca F, Camerucci E and Morelli F., Patel-lar tendinosis: A follow-up study of surgical treatment. J Bone Joint Surg Am volume 84, 2002, 2179-2185 (http://bit.ly/2Wjh06w).
  3. Johnson DP, Wakeley CJ, Watt I. Magnetic resonance imaging of patellar tendonitis. J Bone Joint Surg Br 1996;78:452-457 (http://bit.ly/2HDk3Tc).
  4. Andres, B.M. and Murrell, G.A.C., Treatment of tendinopathy: What works, what does not, and what is on the horizon. Clinical Orthopaedics and Related Research 466, 2008, 1539-1554 (http://bit.ly/2IQ3Hr6).
  5. Danielson, P., Andersson, G., Alfredson, H. and Forsgren, S., Marked sympathetic component in the perivascular innervation of the dorsal paratendinous tissue of the patellar tendon in ar-throscopically treated tendinosis patients. Knee Surgery Sports Traumatology Arthroscopy 16, 2008, 621-626 (http://bit.ly/2GKXf13).
  6. Gisslén, K. and Alfredson, H., Neovascularisation and pain in jumper`s knee: a prospective clinical and sonographic study in elite junior volleyball players. British J Sports Med 39, 2005, 423-428 (http://bit.ly/2GQsOGS).
  7. Knobloch, K., The role of tendon microcirculation in Achilles and patellar tendinopathy. J Ortho Surg 3, 2002, 18-30 (http://bit.ly/2IOJFx9).
  8. Lian, O.B., Dahl, J., Ackermann, P.W., Frihagen, F., Engebretsen, L. and Bahr, R.  Pronociceptive and antinociceptive neuro-mediators in patellar tendinopathy. American J Sports Med 34, 2006, 1801-1808 (http://bit.ly/2J2XNCc).
  9. Knobloch, K. The role of tendon microcirculation in Achilles and patellar tendinopathy. J Ortho Surg 3, 2008, 18-30 (http://bit.ly/2IOJFx9).
  10. Cook JL, Kiss ZS, Khan KM, Purdam CR, Webster KE. Anthropometry, physical performance, and ultrasound patellar tendon abnormality in elite junior basketball players: a cross-sectional study. Br J Sports Med. 2004;38:206-209 (http://bit.ly/2GAh8aX).
  11. Crossley KM, Thancanamootoo K, Metcalf BR, Cook JL, Purdam CR, Warden SJ. Clinical features of patellar tendinopathy and their implications for rehabilitation. J Orthop Res. 2007;25:1164-1175 (http://bit.ly/2IKfEhG).
  12. Witvrouw E, Bellemans J, Lysens R, Danneels L, Cambier D. Intrinsic risk factors for the development of patellar tendinitis in an athletic population. A two-year prospective study. Am J Sports Med. 2001; 29:190-195 (http://bit.ly/2PuwZvQ).

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