膝関節は大腿骨、脛骨、膝蓋骨の3つの骨によって構成されており、大腿脛骨関節と膝蓋大腿関節の2つの関節があります。
大腿脛骨関節は大腿骨遠位部と脛骨近位部によって、また膝蓋大腿関節は膝蓋骨後面と大腿骨遠位部前面によって形成されています。
大腿脛骨関節では、主に屈曲と伸展の運動が生じます。また、屈曲・伸展に伴い、回旋(内旋・外旋)と内反・外反(内転・外転)の副次的運動(カップリングモーション)も生じています。
回旋が生じる際、脛骨の内果または外果では、前後方向の滑り運動も発生しています。また内反または外反では、内外方向への滑り運動が生じています。
これらの副次的運動は小さな動きですが、膝関節の運動に大きな影響を及ぼします。
屈曲・伸展
脛骨が固定された状態で大腿骨が屈曲する場合(閉鎖性運動連鎖)、脛骨顆上を大腿骨顆部が後方に回転します。
しかし、大腿骨顆部の後方回転のみが生じた場合、膝関節後部においてインピンジメントが発生するか、もしくは大腿骨の後方脱臼が起こってしまいます。
大腿骨の後方脱臼が起こることなく膝関節が屈曲するためには、大腿骨顆の前方への滑り運動が不可欠となります。
屈曲の初動時には、大腿骨顆ではほぼ後方回転のみが発生していますが、その後、前方滑りの運動比率が高まっていくことで、大腿骨顆の前方への動きはほとんどなくなり、その場でスピンをしている状態になります。
伸展では全く逆の運動が起こります。伸展の初動時には、主に大腿骨顆の前方回転が発生しますが、伸展がさらに進むと後方滑りが起こり始めます。その後、大腿骨顆の後方への動きはなくなり、屈曲と同様、スピンをしている状態になります。
以上は脛骨が固定された状態での関節の運動です。一方、大腿骨が固定され脛骨側が運動を起こす場合(開放性運動連鎖)、以下のようになります。
大腿脛骨関節の屈曲に伴い、脛骨は大腿骨顆上を後方回転、後方滑りしています。
伸展では、脛骨は大腿骨顆上を前方回転、前方滑りしています。
関節の遠位部が固定された状態で起こる運動連鎖のこと。例えば、スクワットは立位において遠位部(足部)を固定した状態で行うので閉鎖性運動連鎖です。
開放性運動連鎖
関節の遠位部が自由に動ける(固定されていない)状態で起こる運動連鎖のこと。レッグエクステンションは遠位部(足部)が自由に動く状態で行うので開放性運動連鎖になります。
内旋・外旋
膝関節では屈曲・伸展に伴い、軸回旋運動も生じています。この時の運動軸は、脛骨の内側顆間結節近辺であると考えられています。
従って、脛骨内側顆を中心にして脛骨外側顆が大腿骨顆上で弧を描くように運動することになります。
膝関節の屈曲/伸展に伴う脛骨の回旋(外旋/内旋)運動(左脛骨の断面図) ;脛骨内側顆を中心に弧を描くように脛骨外側顆が運動する。
膝関節が屈曲する時、脛骨内側顆ではわずかな前方滑りが生じています。それと同時に、脛骨外側顆では、前方への回旋が生じています。また、膝関節が伸展する時は、脛骨では全く反対方向への運動が生じます。
このように脛骨内側顆が運動軸となるのは、脛骨内側顆は外側顆に比べ、関節面の隆起領域の面積が大きいことに起因しています。
脛骨 | 脛骨内側顆 | 脛骨外側顆 | |
屈曲 | 内旋 | 後方滑り | 前方回旋 |
伸展 | 外旋 | 前方滑り | 後方回旋 |
膝関節屈曲/伸展に伴う脛骨の運動
内反・外反
膝関節が完全伸展位の時、脛骨には約8°の内反・外反の可動域があります。また、膝関節が20°の時、この値は約13°になります。
この可動域の制限要素は、十字靭帯と側副靱帯です。また膝関節を交差している筋肉も内反・外反の制限要素になります(図5)。
内反の制限要素
- 後十字靭帯
- 外側側副靭帯
- 外側広筋
- 腸脛靭帯
- 関節包外側
外反の制限要素
- 前十字靭帯
- 内側側副靭帯
- 内側広筋
- 関節包内側
スクリューホームメカニズム
膝関節の伸展に伴い、脛骨では外旋が発生します。この脛骨の外旋運動は、伸展の最後可動域(150~180° )で発生するため終末強制回旋運動とも呼ばれています。
膝関節伸展の最終可動域において、脛骨外側顆は後方へと回旋していきます。ある程度まで後方回旋すると止まりますが、これは脛骨内側顆よりも先に起こります。
脛骨外側顆が止まった後、内側顆の前方滑りが起こり始め(脛骨の外旋)、完全伸展位においてこの運動も止まります。以上は膝関節が非荷重位(開放性運動連鎖)の時のメカニズムですが、荷重位の時は大腿骨の内旋が起こります。
膝関節完全伸展位から屈曲が起こる時、脛骨の内旋が自動的に発生します。この時、脛骨内側顆では後方滑りが生じています。後方滑りが終了直後、脛骨外側顆の前方回旋が開始され、さらに脛骨の内旋が継続します。
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