変形性股関節症は男性に比べ女性に好発する疾患です。
また変形性股関節症になると、股関節の痛みのためにモビリティの低下が起こり、それが下肢の筋力低下を助長します。
下肢の筋力低下は股関節の不安定性の原因となるため、それがさらに変形性股関節症を進行させてしまいます。
症状
股関節痛
変形性股関節症の痛みは、股関節周辺に現れます。
股関節の後側では筋肉の拘縮により、重たい痛みが自覚されることが多いです。一方、股関節の前側では靭帯や関節包などの深部の構造が痛みの原因となるため、比較的鋭い局所的な痛みが自覚されます。
股関節前側の痛みは鼡径部に現れます。特に股関節の屈曲や内旋の最終可動域において、鼡径部痛は増悪します。
股関節の可動域制限
股関節のロッキングやクレピタス(捻髪音)なども見られます。また、関節唇断裂が併発している場合、股関節の不安定性が現れることがあります。
これらの症状は運動や長時間の歩行などによって増悪し、デスクワークや車の運転などによる長時間の座位によっても悪化することがあります。
また、朝起きた直後にはこわばり感が強くなる傾向があります。
原因
構造的要因
構造的要因には先天性のものと後天性のものの2種類があります。
先天性構造要因
先天性の構造要因には、大腿骨頭や寛骨臼の形成不全があります。先天的に股関節に不安定性があるため、成人以降、変形性股関節症の発症リスクが高くなります。
先天性の場合、幼少期から股関節の捻髪音や痛みなどをを訴えるケースが多いです。
後天性構造要因
傷害や過剰な反復動作により、関節軟骨の摩耗が進行することで発症します。
筋肉の機能障害
股関節後側には、多くの筋肉があります(表層部には大殿筋、その下層には外旋筋群)。従って、股関節の後方への安定性は筋肉の状態から影響を受けます。股関節の機能に特に影響を及ぼすと思われる筋肉について解説していきます。
大殿筋
大殿筋は股関節周辺にある筋肉の中で最大のものです。股関節の伸展と外旋の機能を持っています。
大殿筋の機能低下が起こることで、股関節は外旋位を保てなくなり内旋位に維持されます。この傾向は深くしゃがんだときやジャンプなど大きな負荷が股関節に加わることでより顕著になります。
また、股関節が内旋位に維持されることで、膝関節には外反方向への負荷が増し、内側側副靭帯や半月板、前十字靭帯などの損傷や膝蓋骨の外方脱臼などのリスクが高くなります。
中殿筋
中殿筋は前部線維束と後部線維束に分けられ、前者は股関節の屈曲と内旋、後者は同関節の伸展と外旋の作用を持っています。また、両線維束が一緒に作用することにより股関節の外転が起こります。
さらに中殿筋には股関節を安定化させる役割もあります。特に片足立ちの時に中殿筋の安定化機能が強く働きます(トレンデレンブルグ兆候)。
従って、中殿筋の機能低下は股関節の不安定性を引き起こし、それが変形性股関節症を誘発する可能性があります。
外閉鎖筋
外閉鎖筋の作用は股関節の外旋です。よって、外閉鎖筋の拘縮により股関節は外旋位に変位します。
股関節が外旋位のとき、内転筋群の機能低下が生じます。さらに、内転筋群の機能低下は骨盤底筋の機能低下につながり、骨盤周辺の機能的不安定性を引き起こします。
関節の機能障害
股関節は球関節(Ball and socket joint)に分類されます。球関節では挙上動作に伴い関節内では、上方回旋と下方滑りの2つの運動が生じています(下図)。
これら2つの運動がバランスよく生じることで、大腿骨頭は寛骨臼内でずれることなく動くことができます。
しかし、大腿骨頭の関節内運動に不具合が生じると、上腕骨頭と寛骨臼の間で摩擦が生じ、関節軟骨の摩耗を引き起こします。
それにより、変形性股関節症が発症する場合があります。
神経の機能障害
股関節(関節包)の神経支配は、部位によって異なります。前部は大腿神経、下部は閉鎖神経の前枝、後上部は上殿神経、外側部は坐骨神経による神経支配(それぞれの神経の関節枝)を受けています。
これらの神経の絞扼障害は、股関節の運動障害(不安定性)を引き起こすため、変形性股関節症の発症リスクを高めます。
検査
可動域検査
股関節の可動域検査では制限が見られます。特に内旋と屈曲に可動域制限が起こります(股関節の関節包パターン)。
また、内旋の可動域は屈曲位と内転位においてさらに制限が強くなります。カム型インピンジメントの場合、他動的屈曲、内転そして内旋において痛みが誘発される傾向があります。
触診検査
変形性股関節症では関節包の拘縮が併発しています。特に股関節前側の関節包拘縮が起こりやすく、触診により圧痛の有無を確認してみてください。
また、股関節後部の殿筋、股関節外旋筋群の圧痛も触診します。
X線検査
殿筋の機能低下により股関節の不安定性が起こりますが、それにより関節軟骨への圧迫負荷が増加します。
関節軟骨への圧迫力増加は、特に荷重位(立位)のおいて顕著となり、それが関節軟骨の摩耗を進行させ変形性股関節症を引き起こします。 これは典型的な変形性股関節症のレントゲン写真です。
変形性股関節症に特徴的な「関節スペースの減少」と「骨棘」が認められます。 関節スペースの減少は、関節軟骨の摩耗によるものです。また、摩耗した骨を過剰に修復された結果、骨棘が形成されます。
治療
アジャスメント
変形性股関節症では、関節内運動障害が起こっています(大腿骨頭の滑り運動と回転運動のバランスの問題)。
従って、股関節のアジャスメントでは、この点に留意する必要があります。例えば股関節を屈曲すると、関節内では大腿骨頭の上方回転と下方滑りが起こっています。
しかし、変形性股関節症の場合、上方回転に対して下方滑りの割合が少なくなっています。
従って、アジャスメントは以上の問題を考慮して行うようにします。このケースで考えられる運動障害は以下の通りです。
- 過剰な上方回転
- 下方滑りの増大
- ①、②の両方
軟部組織のリリース
股関節の運動に影響を及ぼす筋肉(大殿筋、中殿筋、外閉鎖筋、大腰筋など)を中心にリリースを行います。さらに、股関節の関節包に硬縮や癒着が認められる場合、関節包のリリースも行います。
ホームエクササイズ
股関節の可動域改善のためのストレッチを行います。特に股関節の屈曲と内旋の可動域改善は、変形性股関節症の症状改善にとって重要です。
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