肩鎖関節の運動学

肩鎖関節の関節運動学と関連症状

肩鎖関節は鎖骨遠位端と肩峰端(烏口突起)によって形成される関節です。鎖骨はS字状をしており、遠位1/3の領域でカーブが入れ替わります。

鎖骨の上面は胸鎖乳突筋鎖骨部の停止以外は滑らかな面を持っています。一方、下面には、鎖骨下筋の付着部位のための細長い溝、遠位1/3後部には僧帽筋の停止と円錐靱帯結節、そこから前外方へ伸びる菱形靱帯線、前部には三角筋の停止などがあります。また、近位2/3前部には大胸筋の停止があります。

機能解剖

肩鎖関節は、前後と上下方向に4°の自由度を持つ平面関節です。最深部に滑膜があり、その外側は関節包で覆われ、関節の間には関節円板があります。

関節円板は退行変性の好発部位であり、40歳代以上では全く機能していないと言われています。

肩鎖関節には、静的安定化構造と動的安定化構造が、それぞれあります。静的安定化構造には、肩鎖靱帯(上、下、前、後)、烏口鎖骨靱帯(菱形靱帯、円錐靱帯)、烏口肩峰靱帯があり(図1)、動的安定化構造には、三角筋と僧帽筋が含まれます(表1)。

この中でも肩鎖関節の関節包靱帯は、鎖骨遠位端の前後方向の安定性にとって大変重要な役割を果たしています ( Fukuda K, 1986)。

特に肩鎖靱帯の上部は下部に比べ頑強にできています。これは、肩鎖靱帯の上部が他の領域と比べ厚みがあること、また僧帽筋と三角筋の筋膜と癒合していること等からも推察できます 。

肩鎖関節周辺にあるこれらの軟部組織は、互いに協調して作用し、肩鎖関節の安定性に寄与しています ( Debski RE, 2003; Lee KW, 1997)。

静的安定化構造 動的安定化構造
肩鎖靱帯 烏口鎖骨靱帯 烏口肩峰靱帯 三角筋 僧帽筋

表1 肩鎖関節周辺にある静的安定化構造と動的安定化構造

図1 肩鎖関節周辺の靱帯

肩鎖関節包靱帯複合体

 実際に肩鎖関節包靱帯を断裂させ肩鎖関節に生じる後方不安定性を検証したリサーチがあります ( Klimkiewicz JJ, 1999)。

そのリサーチによると、肩鎖関節包靱帯の下部と前部を断裂させた場合、後方不安定性は生じなかったが、上部と後部を断裂させた場合、著しい後方不安定性が認められている。

それにより、鎖骨遠位端と肩甲骨の衝突が発生することとなる。

烏口鎖骨靱帯

烏口鎖骨靱帯は、鎖骨遠位端の後方および上方への変位を防いでいる主要構造です ( Fukuda K, 1986) 。 特に円錐靱帯は上方への変位を防ぎ、菱形靱帯は後方への変位を防ぎ、肩鎖関節への圧迫力を維持する作用も持っています。

またDebskiらの研究によると、鎖骨遠位端に前方、後方、上方へ負荷(70N)を与えたところ、5.1mm、5.6mm、4.2mmの変位が認められています Debski RE, 2000)。

円錐靱帯は前方および上方への変位を防ぎ、菱形靱帯は後方への変位を防いでいると結論付けています (Debski RE, 2003)。このような二つの靱帯の作用の違いは、線維の走行方向の違いによるものだと思われます。

またこの靱帯は、鎖骨遠位端の上下方向の安定性にとって重要な靱帯です。また肩甲上腕関節の運動にも関与しています。

烏口突起と鎖骨は、1.1cmから1.3cm離れていますが ( Bearden J, 1973)、X線画像において、この距離を測定することにより、肩鎖関節の脱臼を鑑別することが可能です。

烏口肩峰靱帯

烏口肩峰靱帯は、肩甲上腕関節の安定性にとって重要な構造であり、上腕骨頭の前上方への変位を防いでいます(この傾向は、特にローテーターカフの慢性的な機能低下において顕著となる)。

烏口肩峰靱帯は烏口突起の前縁に起始を持ち、V字型に拡がり、烏口突起に向かって前下方に伸びています ( Edelson JG, 1995; Gagey N, 1993; Hunt JL, 2000; Ogata S, 1990)。透明な膜により、内側帯と外側帯の二つの線維帯に分かれています。

外側帯は烏口突起に付着する腱と癒合しています (Hunt JL, 2000)。これらの腱には、上腕二頭筋腱と烏口腕筋腱があります (Hunt JL, 2000) 。

また、Edelsonらによると、烏口突起外側部において三角筋筋膜との結合が認められています  Edelson JG, 1995)。さらに、烏口突起内側では鎖骨胸筋筋膜との結合があります (Hunt JL, 2000) 。

烏口肩峰靱帯は、烏口肩峰アーチを形成しており、肩のインピンジメント症候群にも関係しています。

肩鎖関節の骨棘や烏口突起の構造的な異常がないのであれば、烏口肩峰靱帯がインピンジメント症候群の原因であることが多いです ( Uhthoff K, 1998)。

この場合、烏口突起の前縁部にある烏口肩峰靱帯の付着部には骨棘が形成され、それがインピンジメント(衝突)を引き起こします ( Bearden J, 1973; Burns WC II, 1993; Gohlke F, 1993)。

外科的には、烏口突起の前縁部を切除することにより烏口肩峰スペースを広げ、症状の改善を試みます ( Neer CS, 1972)。

関節運動学

鎖骨遠位端には挙上・下制、前突・後退、後方・前方回旋の3方向の運動があります。

 

 

鎖骨の長軸方向の運動軸は、胸鎖関節と肩鎖関節を結ぶ線になります(下図)。

 

 

  1. 挙上・下制
  2. 前突・後退
  3. 後方・前方回旋

また、肩鎖関節には、約5°から8°の可動性があることがわかっています。 上肢の外転に伴い、鎖骨遠位端には挙上と後方回転が生じます。これらの運動は、肩甲骨の上方回旋と連動しています。

上肢の外転に伴い、鎖骨には挙上が起こります。鎖骨の挙上は、上肢外転の初動時に既に生じており、およそ90°で完結します。

この運動は胸鎖関節において発生し、上肢外転10°に対し、鎖骨では約3°から4°の挙上が生じています。つまり、上肢外転に伴う胸鎖関節の挙上は約30°ということになります。

胸鎖関節における鎖骨の挙上が完結した後、運動軸を中心に肩鎖関節における後方回転(約40°から50°)が始まります。

上肢を180°外転させた時、肩甲骨の上方回旋は60°起こり、上肢では120°の外転が生じています(肩甲上腕リズム)。

従って、上肢が90°外転した場合、肩甲骨の上方回旋は30°となりますが、これは鎖骨が(胸鎖関節において)挙上することによって生じています。

肩鎖関節の後方回転は、肩甲骨の上方回旋と連動しています。上肢外転に伴い、肩甲骨には上方回旋が起こりますが、それに伴い烏口鎖骨靱帯が伸張されます。

烏口鎖骨靱帯は鎖骨遠位端に付着している靱帯であるため、伸張されることで鎖骨遠位端に下方への牽引力が作用します。それが、肩鎖関節の後方回旋を促すことになります。

後方回旋によって、鎖骨遠位端にはさらに30°の挙上が起こります。つまり、肩甲骨上方回旋の60°の内、最初の30°は胸鎖関節の挙上によって発生し、最後の30°は肩鎖関節の後方回旋によって発生していることになります(下図)。

また、肩甲骨の前突または後退運動では、肩鎖関節には大きな運動は生じておらず、主に胸鎖関節において発生しています。表2に上肢の外転に伴う、各関節の可動域についてまとめてあります。

 

外転 胸鎖関節 肩鎖関節 肩甲胸郭関節 肩甲上腕関節
90° 30°(挙上) 30°(上方回旋) 60°(外転)
180° 30°(後方回転) 30°(上方回旋) 60°(外転)

表2 上肢の外転に伴う、各関節における運動とその可動域

肩鎖関節のサブラクセーション

鎖骨は胸骨と肩甲骨を結合している支柱のような役割をしています ( Kibler WB, 2010)。

従って、肩鎖関節のサブラクセーションは、体幹と肩関節の間の運動連鎖を阻害し、肩関節全体の機能低下を引き起こす可能性があります ( Kibler WB, 2010; Matsumura N, 2010)。

また、臨床的には肩関節の可動域制限や痛み、脱力感等の症状の原因になります。可動域制限はオーバーヘッドモーション(上肢の挙上)において認められることが多く、痛みは局所的な鋭い痛みが肩鎖関節に現れます。

Okiらの研究によると、肩鎖関節に不安定性がある場合、肩関節内旋位において外転することで、肩甲骨の後傾は起こらず前傾が生じたとしています ( Oki S, 2010)。

さらに、肩甲骨の上方回旋制限も認められています。しかし、鎖骨の運動には顕著な変化は認められなかったことから、肩鎖関節では運動障害が生じていることを示唆しています。

肩外転時における肩甲骨の上方回旋制限と前傾は、烏口肩峰スペースの狭窄(インピンジメント症候群)を引き起こします ( Ludewig PM, 2000; Lukasiewicz AC, 1999)。

従って、肩鎖関節に不安定性がある場合、肩甲骨の運動障害が発生し、インピンジメント症候群へと発展する可能性があります。

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参考文献

  1. Debski RE, Parsons IM, Fenwick J, et al Ligament mechanics during three degree of freedom motion at he acromioclavicular joint. 2000 28:612-618 (http://bit.ly/2xmuhQC).
  2. Fukuda K, Craig EV, An KN, et al Biomechanical study of the ligamentous system of the acromioclavicular joint. 1986 68:434-440 (http://bit.ly/2J03lwV).
  3. Lee KW, Debski RE, Chen CH, et al Functional evaluation of the ligaments at the acromioclavicular joint during anteroposterior and superoinferior translation. 1997 25:858-862 (http://bit.ly/2RKcv32).
  4. Klimkiewicz JJ, Williams GR, Sher JS, et al The acromioclavicular capsule as a restraint to posterior translation of the clavicle: A biomechanical analysis. 1999 8:119-124 (http://bit.ly/2Yvh6Jn).
  5. Debski RE, Parsons IM, Woo SL, et al Effect of capsular injury on acromioclavicular joint mechanics. 2003 83:1344-1351 (http://bit.ly/323MHUn).
  6. Bearden J, Hughston J, Whatley G Acromioclavicular dislocation:Method of treatment. 1973 1:5-17 (http://bit.ly/2IYcqGc).
  7. Edelson JG, Luchs J Aspects of coracoacromial anatomy of interest to the arthroscopic surgeon. 1995 ;11:715-719 (http://bit.ly/2Yp9MPk).
  8. Gagey N, Rayaud E, Lassau JP Anatomy of the acromial arch:correlation of anatomy and magnetic resonance imaging. 1993 ;15:63-70 (http://bit.ly/2Xiav8e).
  9. Hunt JL, Moore RJ, Krishnan J The fate of the coracoacromial ligament in arthroscopic acromioplasty: an anatomical study. 2000 ;9:491-2 (http://bit.ly/2LteVlJ).
  10. Ogata S, Uhthoff HK Acromial enthesopathy and rotator cuff tear. A radiologic and histologic postmortem investigation of the coracoacromial arch. 1990 ;254:39-48 (http://bit.ly/2Ymg5TD).
  11. Uhthoff K, Hammond Dl, Sarkar K, Hooper GJ, Papoff WJ The role of the coracoacromilal ligament In the impingement syndrome. 1998 :04 (http://bit.ly/2YvhyHz).
  12. Burns WC II, Whipple TL  Anatomic relationships in the shoulder impingement syndrome. 1993 ;294:96-102 (http://bit.ly/2IY779P).
  13. Gohlke F, Barthel T, Gandorfer A The influence of variations of the coracoacromial arch on the development of rotator cuff tears. 1993 ;113:28-32 (http://bit.ly/2Xa46af).
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