仙腸関節の関節運動学と関連症状

仙骨は5つの仙椎が癒合してできた三角形の骨です。

また仙骨は脊柱の土台になっているため、脊椎の姿勢に大きな影響を及ぼします。

本記事では仙骨の関節運動学と関連症状について解説してあります。

機能解剖学

上側に腰椎5番との間に腰仙関節、下側に尾骨との間に仙尾関節、両側には寛骨との間に仙腸関節があります。

  1. 腰仙関節
  2. 仙尾関節
  3. 仙腸関節

仙腸関節はS1からS3にあり、寛骨との関節面はL字型になっています。この関節面を耳状面と言います(下図)。

耳状面は均一な平面ではなくでこぼこしているため、運動は不規則になります。

また仙腸関節の関節包は前部で肥厚しており、前仙腸靭帯、腸腰靱帯と癒合しています。

 

仙腸関節は上半身と下半身の連結部分にあり、とても大きな負荷がかかりやすくなっています。

しかし、直接的に仙腸関節を安定化させている構造は靭帯(前仙腸靭帯と後仙腸靭帯)と関節包しかありません。

従って、仙腸関節は傷害や反復負荷により不安定化しやすく、また変性の好発部位にもなっています。

仙腸関節面の形状

仙腸関節面の形状は、生まれてから年を経るごとに変化していきます。

幼児期では仙腸関節面は平面になっているため、あらゆる方向へ比較的自由に動くことができます。

しかし、20代から30代になると、寛骨側の関節面が盛り上がり(凸状)、仙骨側の関節面(耳状面)はへこんできます(凹状)。

それに伴い、仙腸関節ではロッキングが起こり、可動性の制限が起こります。

仙腸関節を補強している靭帯

仙腸関節を補強している靭帯には以下の5つがあります。

  1. 骨間仙腸靭帯
  2. 後仙腸靭帯
  3. 仙結節靭帯
  4. 仙棘靱帯
  5. 前仙腸靭帯

 

 

仙腸関節をもっとも強力に補強している靭帯は、骨間仙腸靭帯です。この靭帯は人間の身体の中でもっとも強度が高く、仙骨が前下方へ変位するのを防いでいます。

後仙腸靭帯はPSISからS3/4付近の間を走行しています。この靭帯はカウンターニューテーションに対して抵抗(伸張)します。

また、仙結節靭帯と仙棘靱帯の間には陰部神経が走行しており、これらの靭帯の間で絞扼されることがあります(下図)。また、陰部神経は陰部神経管においても絞扼されることがあります。いずれの場合も、会陰部の知覚異常が主症状です。

仙棘靱帯は仙結節靭帯の前側を交差しています。仙棘靱帯は坐骨棘から仙骨外側へ向かって走行しており、大坐骨孔と小坐骨孔を形成しています。ニューテーションに対して抵抗します。これら2つの靭帯は仙骨に対する寛骨の屈曲と回旋を制限します。

また、仙結節靭帯と仙棘靱帯の間には陰部神経が走行しており、これらの靭帯の間で絞扼されることがあります。その場合、会陰部の知覚異常が現れます。

前仙腸靭帯は、仙腸関節前下部の関節包が肥厚したものであり、境界が明確ではありません。前仙腸靭帯はもっとも薄い靭帯であり、傷害の好発部位となっています。

  1. 骨間仙腸靭帯
  2. 後仙腸靭帯
  3. 仙結節靭帯
  4. 仙棘靱帯
  5. 前仙腸靭帯

仙腸関節の変性

仙腸関節は加齢(変性)に伴い可動域の制限が起こります。

50歳以上の女性、40歳以上の男性の仙腸関節には多かれ少なかれ変性が起こっています。

これは、50~59歳の男性の100%に仙腸関節の骨棘が認めらていることからも明らかです(Bowen V, 1981)。

一方、子供の仙腸関節では、全ての方向へグライド運動が可能であった(Bowen V, 1981)のに対し、成人の仙腸関節では、数mmの可動性しか認められなかった(Walker JM, 1992)ことも報告されています。

従って、仙腸関節は中年期まで可動関節ですが、その後加齢と共に可動性が失われていきます(Sashin D, 1930)。

仙腸関節のサブラクセーション

仙腸関節に過剰な負荷がかかることで仙腸関節にはサブラクセーションが発生します。

仙腸関節のサブラクセーションにより凹凸面がかみ合うことで仙腸関節のロッキングが起こります。

従って、一旦サブラクセーションが起こると自力回復は困難になります。

仙腸関節のセルフロッキングメカニズム(安定化機構)

仙腸関節のロッキングメカニズム(安定化機構)には、フォームクロージャーとフォースクロージャ―があります。

フォームクロージャー

フォームクロージャーは仙腸関節面の凹凸による安定化機構です。

フォースクロージャー

一方、フォースクロージャーは靭帯や筋肉による安定化機構のことです。

フォームクロージャー+フォースクロージャ―

仙腸関節には、上記で説明したフォームクロージャーとフォースクロージャ―の2つの安定化機構が働いています。

 

仙骨の運動軸

仙骨の運動軸は5本あります(下図)。2本の斜軸と3本の横軸です。

それぞれの軸いおいて回転運動が起こります。

 

関節運動学

正常な仙腸関節では約4°の回旋運動(うなずき&起き上がり運動)が起こります。また仙腸関節面での滑り運動は約1.6㎜あります (Vleeming A, Clin Biomech 1991)。

また、仙腸関節における運動は複雑で可動域制限が強く、個体差があり、複数の運動軸が存在します(Monney V, 1997)。

仙骨の運動にはニューテーション(Nutation)とカウンターニューテーション(Counter-Nutation)があります。

  1. ニューテーション(Nutation)
  2. カウンターニューテーション(Counter-Nutation)

ニューテーション(Nutation)

ニューテーションは、仙骨の前屈(うなずき運動)のことです。体幹の前屈動作で起こります。

関節内運動は以下の通りです。

  1. 下方
  2. 後方

 

カウンターニューテーション(Counter-Nutation)

カウンターニューテーションは、仙骨の背屈(起き上がり運動)のことです。体幹の背屈動作で起こります。

関節内運動は以下の通りです。

  1. 前方
  2. 上方

関連症状

仙腸関節障害

仙腸関節障害では仙腸関節のサブラクセーションが起こっています。

症状は仙腸関節における鋭い局所痛です。また、でん部から下肢にかけて関連痛が広がる場合もあります(下図)。

 

恥骨結合炎

恥骨結合炎の原因には、感染症やスポーツ障害(傷害)、妊娠(産後)などがあります。

症状は恥骨結合の局所的な鋭い痛みです。

ダッシュやスクワットなどで痛みが増悪します。またサッカーでボールを蹴る瞬間に恥骨結合に鋭い痛みが現れる場合もあります。

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