SICK肩甲骨症候群の原因と症状

SICKは、Scapular malposition, Inferior medial border prominence, Coracoid pain and malposition, dysKinesis of scapular movementの頭文字を取って命名されています。

SICK
Scapular malposition=肩甲骨の変位
Inferior medial border prominence=肩甲骨下内側縁の突出
Coracoid pain and malposition=烏口突起の痛みと変位
dysKinesis of scapular movement=肩甲骨の運動障害

肩甲骨が下制変位する理由

この症候群の特徴は、利き手側の肩甲骨が中立位において下制位になっていることです。このような肩甲骨の変位には、いくつかの原因が考えられます。

一つ目は、肩甲骨周辺筋群の機能低下です。前鋸筋や菱形筋、僧坊筋などの機能低下により、肩甲骨に不安定性が生じているケースです。

次に関節の運動障害があります。特に肩甲骨の上方回旋は、肩鎖関節の状態によって大きな影響を受けます。

さらに、固有受容感覚(Proprioception)の異常があります。これは、中立位における肩甲骨のポジション(関節位置覚)、また運動時における肩甲骨の安定性(運動覚)に問題が生じています。これらは全て肩甲骨の運動障害の原因となり得ます。

肩甲骨下制変位の3つの要因
1.肩甲骨周辺筋群の機能低下
2.肩鎖関節の運動障害
3.固有感覚受容器の機能低下

異常な運動パターン

SICK肩甲骨症候群に見られる肩甲骨の運動障害(異常な運動パターン)は、上肢の運動(挙上)に伴う肩甲骨の突出部位によって3つに分類できます。

タイプ1とタイプ2は関節唇に損傷があるケースで認められることが多く、タイプ3はインピンジメント症候群やローテーターカフの傷害が主な原因となります。

タイプ 異常な運動パターン 主な原因
タイプ1 下内側縁 関節唇損傷
タイプ2 内側縁 関節唇損傷
タイプ3 上内側縁 インピンジメント症候群
ローテーターカフ(腱板)傷害

症状

患者の主訴は肩関節前部と上部の痛み、肩甲骨後上部の痛み、上腕近位外側部の痛みです。また、肩甲骨後上部から同側頚部への関連痛や胸郭出口症候群の症状(同側上肢から前腕、手にかけての関連痛)を訴えるケースも見られます。

SICK肩甲骨症候群の主症状(好発順)
1.肩関節前部(烏口突起)の痛み
2.肩甲骨後上部の痛み
3.上腕近位外側部(肩峰下)の痛み
4.肩関節上部の痛み
5.胸郭出口症候群の症状

これらの自覚症状は徐々に現れてくる傾向があります。上記の主訴の中でもっともよく見られるのが、肩関節前部の痛みです。

特に烏口突起の痛みが特徴的であり、この部位には鋭い圧痛が触診されます(烏口突起の圧痛は、その外側よりも内側において触診されますが、この部位は小胸筋の停止となっています)。

肩甲骨後上部の痛みは、次に多く見られる主訴です。また、上腕近位外側部(肩峰下)の痛みと肩関節上部の痛みは比較的まれな症状です。

メカニズム

SICK肩甲骨症候群の患者の肩甲骨は、前傾に加え外転に変位しています。従って、烏口突起は前下方、さらに外方へ変位しています。

このとき、烏口突起に付着部位を持つ小胸筋と上腕二頭筋短頭は緊張(伸張)していますが、これらの筋肉の緊張は肩甲骨の異常変位をさらに促しています。

肩甲骨の前傾変位の原因として考えられるのが、前鋸筋の機能低下と小胸筋の硬縮です。特にインピンジメント症候群や上肢の挙上を過剰に反復する傾向のある患者に多く認められます (Borstad, JD, 2009, http://bit.ly/2N95MzN; Ludewig P, 2000, http://bit.ly/2RT8nhD; McClure PW, 2004, http://bit.ly/2KFSPuh).

また肩甲骨後上部痛を訴える患者の場合、特に肩甲骨上角に強い圧痛が触診される傾向があります。これは、肩甲骨の異常変位に伴い、肩甲挙筋が慢性的に伸張され緊張した結果として生じています。

上腕近位外側部(肩峰下)の痛みも肩甲骨の異常な運動パターンが原因となっています。上肢挙上に伴い、鎖骨遠位端は挙上し、さらに後方回旋が起こりますが、このとき肩甲骨には後傾が発生します。

鎖骨遠位端の後方回旋と肩甲骨の後傾が生じることで、肩峰下スペースが確保され、インピンジメントの発生が回避されています。

しかし、SICK肩甲骨症候群の患者の場合、肩甲骨の後傾制限があるため、上肢挙上に伴いインピンジメントが発生します。

これが肩峰下痛の原因となります。最後に胸郭出口症候群の症状についてですが、これは肩甲骨の下制と前傾に伴い、鎖骨遠位端が前下方に変位することで鎖骨下のスペース(第1肋骨と鎖骨の間)が狭窄することが原因となります。

参考文献

  1. Borstad JD, Szucs K., Navalgund A: Scapula kinematic alterations following a modified push-up plus task. Hum Mov Sci. 2009 Dec;28(6):738-51 (http://bit.ly/2N95MzN).
  2. Ludewig, P, Cook T. Alterations in shoulder kinematics and associated muscle activity in people with symptoms of shoulder impingement. Phys Ther. 2000 Mar;80(3):276-91 (http://bit.ly/2RT8nhD).
  3. McClure, P.W., Bialker J, Neff, N., Williams, G., Karduna, A.: Shoulder function and 3-dimensional kinematics in people with shoulder impingement syndrome before and after a 6-week exercise program. Phys Ther. 2004 Sep;84(9):832-48 (http://bit.ly/2KFSPuh).

 

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【ボディビル歴33年】大学入学と同時にボディビルを開始。その後、現在までウエイトトレーニングを続けている。国内・海外でのボディビル大会での優勝・入賞歴多数。
【瞑想歴19年】33歳の時、インドに3か月滞在。1日12時間のヴィパッサナー瞑想を行う。それ以来、朝晩の瞑想は欠かしていない。
【カイロプラクティック歴22年】大学卒業と同時に渡米。カリフォルニア州のカイロプラクティック免許を取得しLAにて10年臨床経験を積む。オリンピック帯同経験あり。2007年に帰国。プロフィール詳細はこちら

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