肘関節後外方回旋不安定性の原因・症状・治療法

肘関節の後外方回旋不安定性(PLRI=Posterolateral rotatory instability)は、1990年代にO’Driscollらによって定義されました。

この疾患では、肘関節周辺靭帯の機能低下により橈骨頭の不安定性が発生しています。外側上顆炎の患者にも好発する運動障害です。

本記事では、肘関節の後外方不安定性の原因・症状・治療法について解説してあります。

原因

脱臼

肘関節(橈骨頭)の脱臼(または亜脱臼)は、手を付いて転倒した際に発生します。

転倒の際、肘はやや屈曲位、前腕は回内位である場合が多いです。この状態で上腕骨に急激な内旋が加わり(相対的に肘関節の外旋が生じる)、さらに肘関節に外反と外旋(回外)が加わることで、脱臼が発生します(下図)。

前腕部が固定された状態で上腕骨に内旋力が加わることで、前腕部には相対的に外旋(回外)力が加わることになる

 

また、上肢に急激な牽引力が働くことで橈骨頭の脱臼が起こることもあります。これは肘内障(Nursemaid’s elbow)と呼ばれています。

脱臼後に肘関節の後外方不安定性が起こります。

肘関節の脱臼では、外側側副靭帯の断裂が生じています。また95%以上のケースで橈骨頭の後外方不安定性が起こります(脱臼の再発率は15%から35%と言われています)。

反復負荷

長期に渡り肘関節周辺の軟部組織へ反復負荷が加わることで、靱帯や腱の機能は低下していきます。

また、外側上顆炎のケースでは外側側副靭帯に機能低下が認められることもあります。その場合、PLRIが併発していることもあります。

外側上顆炎(テニス肘)は短橈側手根伸筋腱に負荷(伸張性収縮)が反復されることが発症メカニズムとなっています。

医原性

外側上顆炎の手術(外側上顆周辺のリリース)などの肘関節外側の手術後、PLRIが発症する場合があります。

メカニズム

内側側副靭帯複合体の機能低下とPLRI

肘関節の後外方回旋不安定性の原因の一つに内側側副靭帯複合体の損傷(機能低下)があります。

しかし、多くのケースにおいて、この靭帯の一部にのみ機能低下が起こっているため、外反ストレステストでは不安定性が認められないこともあります。

また、PLRIが生じるためには、外側側副靭帯複合体の損傷が伴っている必要があるとする報告もあります。

それによると、外側側副靭帯複合体に加え前腕伸筋群の腱に機能低下がある場合、PLRIが好発すると報告されています。

ピボットシフトテストは、患者仰臥位において、肘関節完全伸展位において前腕を回外位にします。さらに肘関節の外反を維持しながら、他動的に屈曲させていきます。

この検査で陽性の場合、尺側側副靭帯複合体、特に外側尺側側副靭帯(LUCL=Lateral ulnar collateral ligament、尺側側副靭帯の後部線維束)の機能低下が、肘関節の後外方回旋不安定性の主要因であると言われています(下図)。

LUCLは関節包が肥厚したものです。外側上顆から回外筋稜(尺骨)に伸びており、肘関節外側の安定性の他、橈骨頭の後外方変位を防ぐ役割も担っています。

 

肘関節の内側側副靭帯複合体を全て除去した検体において、ピボットシフトテストを行った時の橈骨頭の変位を測定した研究報告があります。

これによると、橈骨頭の後方へのサブラクセーションは、肘関節の屈曲角度が増すに従い大きくなり、およそ90°において最大値(21㎜)に達します(下表)。

ピボットシフトテスト時における橈骨頭の変位(㎜)

外側側副靭帯複合体の機能低下とPLRI

外側側副靭帯複合体の機能低下がPLRIを引き起こすことがあります。

外側側副靭帯の機能低下は、脱臼などによる損傷、反復負荷によるマイクロトラウマ(微細外傷)、さらに手術などによる医原性などが原因となります。

20歳以下の患者の75%において、肘関節の脱臼による外側側副靭帯複合体の損傷がPLRIを引き起こしています。

一方、成人の場合、反復負荷による外側側副靭帯複合体の機能低下が、PLRIの原因となっている場合が多いです。

 

症状

PLRIの代表的な症状は以下の3つです。

  • 肘関節の痛み
  • 肘関節の捻髪音
  • 肘関節の不安定性(筋力低下)

PLRIには、その症状の程度に応じてステージがあります(下表)。

ステージ 損傷 症状
ステージ1
  • LUCLの損傷 
  • 橈側側副靭帯と(または)関節包後外側の損傷の可能性あり
  • 肘関節の捻挫で発生することが多い
  • 橈骨頭の後外方変位
  • 捻髪音
  • ピボットシフトテスト陽性

 

ステージ2
  • 外側側副靭帯複合体の損傷
  • 関節包前後部の損傷
  • 橈骨頭の後外方脱臼(または亜脱臼)
  • ピボットシフトテスト陽性
  • 肘関節内反の不安定性
  • 肘関節外反は安定(整復後)
ステージ3a
  • 内側側副靭帯後部線維束の部分断裂
  • 腕橈関節の圧迫により、橈骨頭の後方脱臼が発生
  • 内側側副靭帯前部線維束の損傷はなし
  • 臨床では稀にしか見られない
ステージ3b
  • 内側側副靭帯の完全断裂
  • 橈骨頭の脱臼後に認められることが多い

検査法(ピボットシフトテスト)

肘関節のPLRIは、前腕回外位において肘関節をやや屈曲させた時に増悪します(肘関節はこのポジションにおいて関節による安定性が最も小さくなるため)。

この時、肘関節に外反力を加えることで、橈骨頭の後外方への変位が促されます(下図)。肘関節をやや屈曲位+前腕回外位において肘関節を外反させることで、橈骨頭の後外方変位(+尺骨の回外変位)が発生します。

また、同時に尺骨の回外変位も生じます。従って、肘関節にPLRIがある場合、肘関節の運動に伴い橈骨頭の後外方への脱臼(または亜脱臼)が発生します。

  1. 患者は仰臥位
  2. 検査側の上肢を挙上
  3. 肘関節完全伸展位のまま前腕の回外
  4. 肘関節を外反させたまま、ゆっくりと屈曲させていく
  5. 橈骨頭のサブラクセーション、肘の痛みや捻髪音が陽性反応

治療法

アジャスメント

  • 腕橈関節
  • 腕尺関節

筋膜リリース

  • 短橈側手根伸筋
  • 長橈側手根伸筋
  • 回外筋
  • 関節包

神経リリース

  • 後骨間神経(橈骨神経)

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