スクワットで腰を痛めた(腰痛)経験のあるトレーニーは多いと思います。私自身も過去に何度もスクワットで腰を痛めています。
しかし、スクワットで腰を痛める経験を何度か繰り返した後、似たようなシチュエーションで腰を痛めていることに気づきました。そのことに気づいて以来、スクワットで腰を痛めることはまったくなくなりました。
本記事では、33年間の私自身の筋トレ経験、さらに医学博士(スポーツ医学)としての学術的見地から、スクワットで腰を痛める原因とその予防法(対策)についてお話ししていこうと思います。
やや難しい専門的な内容も含まれていますが、なるべく平易な表現を心がけました。
スクワットで腰を痛める原因(メカニズム)
スクワットによる腰痛の予防法を知る前に、その原因を理解する必要があります。
スクワットで腰を痛める原因には、様々なものがあります。また、個々のトレーニーによっても、腰痛になる原因は異なります。
従って、これから説明することを各自よく吟味・検討してみる必要があります。ただし、全ての原因は多かれ少なかれ誰でも持っているもの。
大切なのは、どの原因が自分の腰痛に大きな影響を及ぼしているのかを探り出すことです。スクワットで腰を痛めた状況を思い出しながら読み進めていってください。
スクワットで重すぎる重量をセット
ある程度、筋トレを経験を積んでいくと、スクワットで扱える重量が増えていきます。これは自然なプロセス。
そして、筋トレに対する欲も出てきて、「もっと重たい重量でスクワットをやりたい」と思うようになります。この欲(意欲)は決して悪いものではありません。
むしろ、筋トレではある程度の意欲は必要なものです。
しかし、その意欲が裏目に出ることがあります。自分の能力を超えた重量でスクワットをやってしまうという暴挙に出てしまうのです。
私がスクワットで腰を痛める原因の最たるものが、このパターンでした。実際は重すぎる重量のために、正しいフォームが維持できずに腰を痛めていました。詳細は次のセクションを読み進めてください。
スクワット中の姿勢に問題
スクワット中の姿勢の問題によって、腰を痛めてしまうケースは非常に多いです。おそらく、ほとんどの方は鏡を見てスクワット中の姿勢をチェックしていると思います。
スクワットを開始して最初の数レップスは、正しい姿勢を維持しているのですが、問題はレップスを重ねた後に現れます。
徐々にスクワット中の姿勢が崩れてくるのです。その原因はいろいろあります。「集中力の欠如」や「無理なフォームでの挙上」などがあります。
個人的には後者の「無理なフォームでの挙上」で、よく腰を痛めていました。
これは、レップスを重ねていくにつれて筋肉疲労が蓄積していき、スクワット中のフォームよりも挙上することが目的になってしまうことで起こります。
この点については、以下の「ターゲット筋に負荷が維持できていない」のセクションで詳しく説明したいと思います。
それでは、具体的な姿勢の問題についてお話します。大きく、「前後の姿勢」と「左右の姿勢」に分けてみました。
前後の姿勢
スクワットで腰を痛める場合、前後の姿勢に問題があることが多いようです。
少し専門的な話になってしまうのですが、背骨は頚椎、胸椎、腰椎、仙骨(+寛骨、尾骨)に分けることができます。
前後の姿勢で問題になるのが、腰椎と仙骨の部分です。スクワット中、腰椎の前弯曲が減少し、同時に仙骨が後傾してしまうと腰を痛めるリスクが高くなります。
もう少しわかりやすく説明してみます。腰の部分の悪い姿勢を作ってみてください。腰が丸くなっていませんか?その姿勢のことです(典型的な悪い姿勢です)。
特にスクワットでしゃがんだとき、腰が丸くなり(腰椎前弯曲減少+仙骨後傾)、そこから切り返して立ち上がる瞬間に腰を痛めることが多いです。
左右の姿勢
鏡の前に立ちバーベルを担いで立ってみてください。そのとき、左右のバーベルの高さは同じになっていますか?もし、同じでないならば左右の姿勢に問題があります。
前後の姿勢の問題と同様に、最初は左右揃っていても、レップスを重ねて苦しくなってくると左右の姿勢の問題が現れる場合が多いです。
しかし、鏡を見ても左右の姿勢の問題を維持できないことがあります。その場合、何か根本的な問題があるかもしれません。
意外と多いのが「側弯症」という症状を持っているケースです。側弯症とは脊柱が傾いてしまう疾患です。詳細は以下の関連記事を参照していただければ幸いです(かなり専門的な内容になっています)。
側弯症では脊椎に側屈と回旋、また特に胸椎には後弯が加わっています。脊椎で生じる変位により、胸郭にも捻れが生じます。 通常、側屈凹側(側屈側)の胸郭が後方に隆起し幅が狭くなり、側屈凸側(側屈の反対側)の胸郭は幅が広くなってい[…]
側弯症と診断されるためには、いくつか基準があります。しかし、診断されるほどのレベルでなくても、私たちの脊柱は多かれ少なかれ傾いているものです。
ターゲット筋に負荷が維持できていない
スクワットのターゲット筋は、大腿四頭筋と大殿筋です(大腿四頭筋は太ももの前側になる筋肉、大殿筋はでん部にある一番大きな筋肉 )。
スクワット中は、これらの筋肉(特に大腿四頭筋)が常に緊張状態、つまりバーベルの負荷がしっかり乗っている状態である必要があります。
また、ターゲット筋ではありませんが、スクワット中の姿勢を維持するために脊柱起立筋や広背筋も常に緊張している必要があります。
もし、スクワット中、これらの筋肉から負荷が抜けてしまったら、その負荷はどこに行ってしまうのでしょうか?
筋肉から逃げた負荷のほとんどは、周辺にある関節に逃げていきます。つまり、腰椎の関節(椎間関節と言います)や骨盤の関節(仙腸関節)、さらに股関節や膝関節の負荷が大きくなります。
当然、これらの関節を痛めるリスクが急激に高まります。この場合、関節を保護している靭帯や関節包(靭帯の下層にある軟部組織)を痛めることになります。
体幹部(コア)に不安定性がある
体幹部というのは腰回りの部分のことです。
スクワット中はバーベルの負荷を支えるために、体幹部が安定している必要があります。従って、体幹部に不安定性がある場合もスクワットで腰を痛めるリスクがあります。
体幹部が不安定になってしまう原因は主に2つあります。
- 神経系の伝達障害
- 筋バランスの問題
神経系の伝達障害
神経系の伝達障害とは、「体幹を安定化させるために収縮すべき筋肉が収縮しない。または適切なタイミングで収縮しない状態のこと」です。
ちなみに「適切なタイミングで収縮しない」というのは、筋収縮の遅延のことを意味しています。体幹部の場合、収縮が遅延してしまう筋肉は腹横筋です。
従って、体幹部のバランストレーニングでは、腹横筋が適切なタイミングで収縮するのを促しています(深層部にある筋肉なので運動中に意識するのは難しいです)。
筋バランスの問題
体幹部の不安定性のもう一つの原因が、筋バランスの問題です。
拮抗筋という言葉を聞いたことがあるでしょうか?拮抗筋とは、「相反する機能を持つ筋肉のこと」です。
体幹部の場合、腹筋群と背筋群が拮抗筋同士です。従って、腹筋群と背筋群の筋バランスの問題があると、体幹部の不安定性が起こります。
【背筋群】脊柱起立筋、広背筋
スクワットで腰を痛めないための予防策(対応策)
スクワットで腰を痛める原因について理解できたら、次はその予防策について考えていきましょう。
私自身、以下の予防先を講じて以来、スクワットでまったく腰を痛めなくなりました(最後に腰を痛めてから、もうかれこれ8年以上が経過しています)。
スクワット中のわずかな異常に気付くようにする
スクワット中に気づくべきわずかな異常には以下の2つがあります。
- 姿勢
- 感覚
異常な姿勢に気づく
先にも書きましが、異常な姿勢というのは、「前後の姿勢」と「左右の姿勢」のことです。
スクワット中にこれらの姿勢の崩れに気づいたら、すぐにストップしてください。それ以上無理して続けると、レップスを重ねる度に腰を痛める確率が上がっていきます。
「ここまで追い込んだのにもったいない」という気持ちはよく理解できます。しかし、腰を痛めて筋トレをしばらく休まなければならないことを考えれば、ここは一歩譲歩するのがおすすめです。
異常な感覚に気づく
痛みはもちろん異常な感覚ですが、できればはっきりした痛みの手前の「違和感」の段階で気づくようにしたいものです。
何だか難しそうですが、感覚に意識を向けるようにすれば、次第にちょっとした異常な感覚に気づけるようになります。
異常な感覚は、フォームが崩れていなくてもキャッチできることがあります。疲労が蓄積しているときなどが、多いかもしれません。
異常な感覚に気づいたら(わずかであっても)、スクワットは中止しましょう。そのような場合、他の種目で代用すれば良いだけです。脚の筋トレはスクワット以外にもたくさんあります。
異常な感覚に気づけるようになると、スクワットで腰を痛める頻度は激減します(実際に私がそうでした)。激減するというよりも、ほぼゼロになります。
是非ともスクワット中の身体の感覚に意識を向けるようにしてください。
体幹(コア)トレーニングで体幹部を安定化させる
体幹部に不安定性がある場合、体幹(コア)トレーニングで体幹部を安定化させる必要があります。体幹トレーニングは、バランスボールやバランスパッドを利用して行うことができます。
ところで、体幹(コア)トレーニングは、筋トレのように筋力強化を目的としていません(これを勘違いしている人が多いです)。体幹(コア)トレーニングは、神経系の機能の改善を目的にしています。
従って、筋トレのように負荷を上げていき筋力アップを意識する必要はありません。体幹(コア)トレーニングでは、1レップ1レップのフォームがとても重要になります。
意識が大切
バランストレーニングを行うときに大切なのが、トレーニング中の姿勢です。最初は難しいかもしれませんが、正しい姿勢(フォーム)を維持しようとする意識が大切です。
運動中、その意識を働かせることにより、体幹部に安定感が出てきます。それを無視して続けたとしたら、悪い癖(姿勢)を強化することになり、百害あって一利なしです。
フィードフォーワードを利用する
先にも書いたように、体幹(コア)トレーニングで大切なことは、トレーニング中のフォームです。正確なフォームで運動を反復するのがカギです。
正確なフォームの維持のためには、運動中は鏡を使って常時フォームを確認します。鏡を見ながら正確な運動フォームを維持してください。このように、鏡でフォームをフィードバックさせながら行うことを「フィードフォーワード」と呼びます。
1セット当たりのレップ数は20レップス以上で行うようにしましょう。負荷は気にする必要はありません。
それでも腰を痛めてしまう場合
以上の予防策(対応策)を講じても、スクワットで腰を痛めてしまう場合、以下の2点の対応策があります。
- 腰部の根本的な問題を改善させる
- スクワットを筋トレ種目から外す
それでは、解説していきます。
腰部に根本的な問題がある可能性
既出ですが、側弯症がある場合、どうしてもスクワットで腰を痛めるリスクが高くなってしまいます。
また、椎間板ヘルニアや腰椎の椎間関節症、珍しいですが硬直性脊椎炎などの問題がある場合も同様です。
この場合の対処法は以下の2通りです。
- 根本的な腰部の問題を改善(治療)させる
- スクワットをやらない
治療が必要な状態の場合、スクワットによって悪化させてしまう可能性があります。従って、専門機関にて治療してもらうのが先です。根本原因を除去した後に身体の感触を確かめながらスクワットを開始してください。
2つ目の選択肢は単純明快です。そもそもスクワットをやらなければよいだけの話です。脚(大腿四頭筋)の筋トレはスクワット以外にもたくさんあります。
この件については、以下のセクションにて。
スクワットだけがトレーニングではない
一昔前とは違い、今はジムの施設が非常に充実しています。大腿四頭筋を鍛えるためのマシンもたくさん用意されています。
従って、スクワットに執着する必要はまったくありません。現に私の周りにも、スクワットせずに極太の脚を持っているビルダーの方がいます(全日本レベルのビルダーです)。
確かにスクワットは、キングオブトレーニング(King of Training)、トレーニングの王様と言われるくらい効果的な運動です。
しかし、腰を痛めて筋トレそのものができなくなってしまっては、本末転倒です。スクワット以外のトレーニングでとことん脚の筋肉を追い込みましょう!
まとめ
最後まで読んでいただきありがとうございました。途中、専門的な内容についても触れたので、難しかったかもしれません。
しかし、何かの対応策を講じる前にはその原因(メカニズム)を理解することがとても大切なので、難しい内容でも敢えて書かせていただきました。
この記事が、腰痛に悩んでいる筋トレ愛好家の皆さまの一助になれば幸いです。