顎関節症の原因・症状・治療法

顎関節症(Temporomandibular disorder=TMD)は、咀嚼筋や顎関節(TMJ)とそれらに関連する構造に起因する障害のことです(Okeson, 1996)。また顎関節周辺にある筋骨格系の疾患でもあります(Laskin et al., 1982)。

人口の20~25%が罹患し(Gerard, D. A, 2002)、その60%が両側性と言われています。特に20~40歳の女性に好発します(Detamore, M. S., 2003)。

本記事では顎関節症の原因や症状、治療法について解説してあります。

原因

顎関節症の原因には以下のようなものがあります。

  • 怪我(傷害)
  • 歯ぎしり
  • 関節円板の変位
  • 変形性関節症
  • リューマチ性関節炎
  • オーバーユース

これらの原因の中でも、特に関節円板の変位が重要です。

関節円板の変位

顎関節は下顎骨の下顎頭(関節突起)と側頭骨の下顎窩によって形成される関節です(下図)。

顎関節の間には線維軟骨性組織である関節円板があり、衝撃吸収や顎関節の運動をスムーズにする役割を持っています。

 

関節円板の変位は顎関節症のもっとも多い原因です。顎関節症患者の70%に関節円板の脱臼が存在することが報告されています(Detamore and Athanasiou,2003)。

関節円板の変位により、顎関節の関節面の一部が直接的に接触するようになり負荷が増大します(Tanaka et al., 2000)。そのため、その状態が長期間続くと関節軟骨の摩耗が起こり、変形性顎関節症へと進行していきます。

関節円板の変位は主に4つに分類されます。

  1. 前方
    1. 前内方
    2. 前外方
  2. 内方
  3. 外方
  4. 後方

前方、内方、外方でほぼ90%を占めており、後方変位は非常にまれです。顎関節症患者の場合、関節円板は前方変位を起こしていることが多いです。

メカニズム

顎関節症患者では、初期(口を閉じた状態のとき)において関節円板は前方変位を起こしています。

口を開けると関節円板がさらに前方に変位しますが、そのタイミングで顎関節の痛みや捻髪音が発生します。

軽度から中程度の顎関節症の場合、関節円板の自動整復が起こります(このタイミングでも顎関節の痛みや捻髪音が発生します)。

しかし、関節円板に自動整復が起こらず脱臼してしまうと、顎関節にはロッキング(可動域制限)が生じます。これは、顎関節症がかなり進行していることを示唆しています。

顎関節障害のメカニズム

顎関節障害には以下の2つのメカニズムがあります。

  1. 自動整復メカニズム
  2. ロッキングメカニズム

自動整復メカニズム

  1. 閉口時に関節円板の前方変位
  2. 開口時に関節円板のさらなる前方変位
  3. 捻髪音の発生
  4. 関節円板の自動整復

ロッキングメカニズム

  1. 閉口時に関節円板の前方変位
  2. 開口時にさらなる前方変位
  3. 関節円板の前方脱臼
  4. 顎関節のロッキング

顎関節症の進行

  1. 関節円板の前方変位+自動整復
  2. 関節円板の前方変位+ロッキング
  3. 関節円板の前方変位+変性
  4. 変形性顎関節症

顎関節症と外側翼突筋

頭部前突位は外側翼突筋を伸張させます。外側翼突筋は顎関節の関節円板前部に付着しているため、この筋肉が伸張されることで、関節円板は前方に変位を起こします。

正常な顎関節では、口を開けた時に関節円板は前方滑りします。そのため、頭部前突位の患者では開口時に関節円板が過剰に前方滑りを起こし、それが顎関節症を引き起こします。

症状

顎関節症の代表的な症状には、顎関節の運動に伴う痛みや捻髪音があります。また、咀嚼筋の圧痛も伴うことが多いです。

症状の進行に伴い、顎関節の可動域制限やロッキングなどの症状を訴えるようになります。

  1. 外側翼突筋
  2. 内側翼突筋
  3. 咬筋
  4. 側頭筋

咀嚼筋については、以下の記事を参考にしてください。

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顎関節症の症状を以下の段階別にまとめておきます。

  1. 初期
  2. 前中期
  3. 中期
  4. 後中期
  5. 終期

初期

初期では顎関節の運動障害はありません。また痛みや可動域制限も

前中期

前中期では軽度の運動障害が起こり始めます。また顎関節の軽い痛みを訴えます。

中期

中期になると顎関節には重度の運動障害があります。また可動域制限も起こります。

後中期

後中期では顎関節の運動障害がさらに進行します。この段階になると症状が慢性化しており、顎関節の変性が徐々に起こり始めます。

終期

終期では顎関節の機能不全が起こり、強い痛みと可動域制限を訴えます。

検査

触診検査

顎関節症患者の顎関節には鋭い圧痛が触診されます。また、咀嚼筋にも圧痛が触診されます。

  • 咀嚼筋
  • 顎関節

運動検査

患者に口の開閉(下顎骨の下制・挙上)を行ってもらい、下顎骨の可動域と運動の軌道を確認します。

正常であれば、開口時に指3本分のスペースがあります。

また、開口していく時、下顎骨は患側へ変位する傾向があります。

治療法

アジャスメント

顎関節と上部頚椎のアジャスメントを行います。上部頚椎は顎関節に強い影響を及ぼします。また、関節円板のアジャスメントも行うようにします。

筋膜リリース

  • 後頭下筋群(大後頭直筋、小後頭直筋、上頭斜筋、下頭斜筋)
  • 顎関節の関節包

関連症状

前方頚椎症候群

前方頚椎症候群の原因は、猫背(胸椎過剰後弯曲)による代償性の下部頚椎前方変位によるものです。猫背により、下部頚椎は屈曲(または前方回旋)変位が生じます。

下部頚椎の屈曲(または前方回旋)が様々な自覚症状を引き起こします。

頭部が前突位になると、下部頚椎は屈曲し上部頚椎は伸展します(下図)。

下部頚椎の屈曲により、肩こりや首の痛み、さらに胸郭出口症候群に伴う上肢痛(痺れや痛みなどの感覚異常)が現れます。

頭部前突位は外側翼突筋を伸張させます。外側翼突筋は顎関節の関節円板前部に付着しているため、この筋肉が伸張されることで、関節円板は前方に変位を起こします。

正常な顎関節では、口を開けた時に関節円板は前方滑りします。そのため、頭部前突位の患者では開口時に関節円板が過剰に前方滑りを起こし、それが顎関節症を引き起こします。

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上位交差性症候群

上位交差性症候群では、上半身の前後筋肉のバランスに問題が生じています(下図)。

このような筋肉のバランスの問題により、脊柱のアライメントには以下の3つの問題が起こります。

  1. 胸椎の過剰後弯曲
  2. 頭部の前突
  3. 上腕骨頭の前方変位

これらの症状に伴い上部僧帽筋の拘縮が起こり、第1肋骨フィクセーション症候群が誘発されます。

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