股関節の運動学(バイオメカニクス)

股関節の靭帯

股関節には、腸骨大腿靱帯、恥骨大腿靱帯、そして坐骨大腿靱帯の3つの強力な関節包靱帯によって補強されています。これらは、それぞれの靭帯の名前が示す部分から起こり、全て転子間線に停止を持っています。

そのため、大腿骨頚の95%は関節包によって覆われています。(関節包に覆われていない部分は、大腿骨頚後部にあります)。

これら三つの関節包靭帯は、中立位において捻れた状態にあるため、股関節伸展位において緊張(伸張)し、屈曲位において弛緩します。

股関節中立位における関節包靭帯の状態
股関節中立位における関節包靭帯の状態
股関節屈曲位における関節包靭帯の状態
股関節屈曲位における関節包靭帯の状態

従って、股関節は最大伸展位において最も安定しています。一方、屈曲に内転を加えたポジションが最も不安定になります(関節の遊びが大きい)。 

股関節の関節包靭帯は伸展位で緊張し屈曲位で弛緩

腸骨大腿靱帯

腸骨大腿靱帯は股関節前上部をY字状に広がっています。そのため、この靭帯はBigelowのY靭帯とも呼ばれています。

腸骨大腿靱帯と恥骨大腿靱帯
腸骨大腿靱帯と恥骨大腿靱帯(右股関節全面図)

AIIS(下前腸骨棘)、寛骨臼上縁から転子間線に向かって二又に分かれて伸びる人間の身体の中で最も強い靭帯です。股関節の過伸展を防いでいるのと同時に伸展位における外旋の制限要素にもなっています。

従って、この靭帯の拘縮は股関節を屈曲、内旋させることになります。また、恥骨大腿靱帯と共に大腿骨頭の前方脱臼を防いでいます。

腸骨大腿靱帯の拘縮により股関節は屈曲+内旋

恥骨大腿靱帯

恥骨大腿靱帯は恥骨から外下方へと伸び、股関節の関節包前下部と癒合しています。また、腸骨大腿靱帯の一部とも癒合しています。

股関節の伸展、外転、外旋の制限要素となっています。この靭帯は、その下層にある関節包と隣接しているため、関節包を直接的に補強しています(特に前下部)。

坐骨大腿靱帯

坐骨大腿靱帯は寛骨臼縁(坐骨部)から大腿骨頚(大転子内側)後部に伸びる靭帯です。股関節内旋の制限要素となっています。また、股関節屈曲位において内転の制限要素にもなります。

坐骨大腿靱帯
坐骨大腿靱帯(右股関節全面図)
靭帯 伸張位の股関節のポジション
腸骨大腿靱帯 伸展、外旋
恥骨大腿靱帯 伸展、外転、外旋
坐骨大腿靱帯 内旋、内転(股関節屈曲位)

寛骨臼上の大腿骨の運動

股関節は大腿骨頭と寛骨臼によって構成されている球関節です。股関節には、以下の3°の自由度があります。

  1. 屈曲・伸展(矢状面)
  2. 外転・内転(冠状面)
  3. 外旋・内旋(横断面)

また股関節の安定性に影響を与える構造的要因は以下の通りです。

  1. 寛骨臼の形状(深さ)
  2. 関節唇
  3. 軟部組織(靭帯、筋肉)

屈曲・伸展

大腿骨の屈曲/伸展では、大腿骨頭の中心と大腿骨頚を結ぶ軸における回旋運動です。屈曲により大腿骨頭には後方回転が生じ、伸展では前方回転が生じます。

屈曲・伸展の運動軸
屈曲・伸展の運動軸

また、膝屈曲位における股関節屈曲の可動域は約120°ありますが、膝伸展位では80°になります (Roach KE, 1991, http://bit.ly/2P9UI7R)。一方、股関節伸展の可動域は10°から30°です (Norkin G, 2003, http://bit.ly/2Nmn2S9)

外転・内転

股関節の外転/内転では、大腿骨頭の回転と滑り運動が生じています。外転の時、大腿骨頭では上方回転と下方滑り、内転では下方回転と上方滑りが生じます。

大腿骨の運動 関節内運動
外転 上方回転+下方滑り
内転 下方回転+上方滑り

股関節外転の可動域は45°から50°、内転は20°から30°あります (Norkin G, 2003, http://bit.ly/2Nmn2S9)。 外転は恥骨筋、内転は大腿筋膜張筋、腸脛靭帯が制限要素となります。

外旋・内旋

股関節の外旋・内旋でも大腿骨頭の回転と滑り運動が生じています。外旋では外方回転と内方滑り、内旋では内方回転と外方滑りが生じます。

大腿骨の運動 関節内運動
外旋 外方回転+内方滑り
内旋 内方回転+外方滑り

制限要素は股関節のポジションによって変化します。股関節中立位における外旋の制限要素は、恥骨大腿靱帯と関節包前部、内旋では坐骨大腿靱帯と関節包後部です。

また、股関節90°屈曲位における外旋の制限要素は、腸骨大腿靱帯と関節包上部、内旋では坐骨大腿靱帯(上部)と関節包下部です。股関節の外旋では大腿骨頭の挙上、内旋では大腿骨の下制が伴います(股関節90°屈曲位)。

股関節のポジション 外旋の制限要素 内旋の制限要素
中立位 恥骨大腿靱帯

関節包前部

坐骨大腿靱帯

関節包後部

90°屈曲位 腸骨大腿靱帯

関節包上部

坐骨大腿靱帯(上部)

関節包下部

大腿骨上の寛骨の運動

股関節が荷重位の時、大腿骨は固定されています。従って、股関節では寛骨の運動が起こります。

前傾/後傾

骨盤の前傾/後傾は、大腿骨頭を運動軸とする矢状面での運動です。立位において股関節が中立位であると仮定した場合、ここから30°の骨盤の前傾が可能です。

骨盤の前傾
骨盤の前傾

同じ条件における骨盤後傾の可動域は約15°です。また、骨盤が前傾位の時は大腿骨は屈曲位、後傾位の時は伸展位となります(荷重位において)。

骨盤の後傾
骨盤の後傾

外転・内転

骨盤の外転・内転では、片足荷重位の場合と両足荷重位の場合の二通りが考えられます。片足荷重位における骨盤の外転/内転は、荷重位側の大腿骨頭を運動軸とする冠状面の運動です。

荷重位側寛骨の外転では、腰椎は反対側への側屈、さらに同側への回旋が生じています。

荷重位側寛骨の外転
荷重位側寛骨の外転

一方、荷重位側寛骨の内転では逆方向の運動が生じています。

荷重位側寛骨の内転
荷重位側寛骨の内転

この時、非荷重位側骨盤では反対方向の運動が生じています。

回旋

骨盤の回旋にも、片足荷重位の場合と両足荷重位の場合があります。両足荷重位の場合、脊柱を運動軸とする回旋が生じます。

一方、片足荷重位の場合、荷重位側の大腿骨頭を運動軸とする回旋運動が生じます。歩行時の骨盤の運動を考えてもわかる通り、片足荷重位における骨盤の回旋運動の方がより一般的です。

片足荷重位における骨盤の回旋では、非荷重位側の運動を指します。つまり、左側荷重位の場合、右側寛骨の運動を示しています。

例えば、左寛骨後方回旋の場合、右側荷重位において右股関節を外旋させることになります。

骨盤の後方回旋
骨盤の後方回旋

また、左寛骨前方回旋では右側荷重位において右股関節を内旋させることになります。

骨盤の前方回旋
骨盤の前方回旋

大腿骨~骨盤~腰椎の運動連鎖

立位において体幹の前屈を行った場合、二通りのシナリオが想定されます。一つ目は股関節の屈曲に伴い、脊柱の屈曲が生じる場合です。

二つ目は脊柱を中立位で維持したまま股関節の屈曲を行い前屈する場合です。前者は開放性運動連鎖(OKC = open kinetic chain)、後者は閉鎖性運動連鎖 (CKC = closed kinetic chain) になります。

OKC腰椎骨盤連鎖
股関節の屈曲に伴い脊柱の屈曲

CKC腰椎骨盤連鎖
脊柱を中立位において股関節の屈曲を行い前屈

OKC腰椎骨盤連鎖

大腿骨、骨盤(寛骨、仙骨)、腰椎が協調してすることで、より大きな可動域で動くことが可能となります。日常生活において体幹の前屈動作を行う際、通常起こるのがOKC運動連鎖の方です。

膝関節伸展位を維持したまま体幹の前屈を行った場合、初動時には寛骨の前傾(股関節の屈曲)、仙骨の屈曲(Nutation)、腰椎の屈曲が起こります (Lee. D, 1989, http://bit.ly/2ZqWDJ6; Mitchell FL. 1979, http://bit.ly/2Z7aGnU).。さらに、仙骨の屈曲には、寛骨の外旋も伴います。

OKC腰椎骨盤連鎖
OKC腰椎骨盤連鎖

また、前屈の終動において仙骨には伸展(Counter-Nutation)が起こります(Mitchell FL. 1979, http://bit.ly/2Z7aGnU)

仙骨屈曲に伴う寛骨の外旋
仙骨屈曲に伴う寛骨の外旋
OKC腰椎骨盤連鎖
1.寛骨の前傾(股関節の屈曲)
2.仙骨の屈曲(Nutation)
3.腰椎の屈曲
4.寛骨の外旋
(終動時に仙骨の伸展)

CKC腰椎骨盤連鎖

立位(荷重位)において脊柱を中立位で維持したまま体幹の前屈を行うことで、骨盤の前傾が起こります。この場合、仙骨(仙腸関節)には運動は起こっていません。従って、股関節の屈曲のみが生じています。

CKC腰椎骨盤連鎖
CKC腰椎骨盤連鎖
CKC腰椎骨盤連鎖
1.骨盤の前傾
2.股関節の屈曲

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参考文献

  1. Roach KE, Miles TP: Normal hip and knee active range of motion: The relationship to age. 1991 Sep;71(9):656-65 (http://bit.ly/2P9UI7R).
  2. Norkin G, White D, Measurement of joint motion: A guide to goniometry, 3rd ed., 2003, Philadelphia, FA Davis (http://bit.ly/2Nmn2S9).
  3. Lee. D, The Pelvic Girdle. P46-62. Edinburgh, 1989, Churchill Livingstone (http://bit.ly/2ZqWDJ6).
  4. Mitchell FL. Moran PS. Pruzzo NA, An Evaluation and Treatment Manual of Osteopathic Muscle Energy Procedures. 1979, Manchester. MO: Mitchell. Moran and Pruzzo. Associates (http://bit.ly/2Z7aGnU).

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