本記事では腰方形筋の以下の3項目について解説してあります。
- 解剖学(起始・停止・作用・神経支配)
- 筋線維の走行
- 関連症状
それでは、腰方形筋の解剖学から解説していきます。
腰方形筋の解剖学
起始;腸骨稜
停止;第12肋骨、肋骨突起(L1-L4)
作用;腰椎の側屈・伸展
神経支配;T12-L3(脊髄神経)
筋線維の走行
腰方形筋の筋線維の走行は3種類あります。
- 縦方向
- 外下方
- 外上方
縦方向
第12肋骨から腸骨稜(内側)に向かって縦方向に走行している線維束です。 腰椎の屈曲で伸長、伸展で収縮します。
外下方
腰椎の肋骨突起(先端)から腸骨稜に向かって伸びている線維束です。 腰椎の屈曲+同側回旋+反対側屈で伸長、伸展+反対回旋+同側回旋で収縮します。
外上方
第12肋骨から腰椎の肋骨突起に向かって伸びている線維束です。 腰椎の屈曲+反対回旋+反対側屈で伸長、伸展+同側回旋+同側側屈で収縮します。
症状の特徴
腰方形筋に起因する症状の特徴について解説します。
最初にギックリ腰について。
ギックリ腰は俗称であり、医学的には明確な症状を示しているわけではありません。
腰方形筋からの関連痛
腰方形筋の関連痛領域は下の写真の通りです。 ちょうどベルトのラインに沿って横に広がります。
ギックリ腰
ギックリ腰は言い換えれば「急性腰痛」となります。つまり、突発的・急激に発症する腰痛のことです。
ギックリ腰の原因は様々あり、腰方形筋はその内の一つになります(具体的には腰方形筋の「肉離れ」に近い状態)。
また、腰方形筋以外の原因構造には以下のようなものがあります。
- 仙腸関節
- 腰椎の椎間関節
- 椎間板
- 腰部深層筋
仙腸関節
仙腸関節は寛骨と仙骨の間にできる関節です。ギックリ腰では仙腸関節にサブラクセーション(関節のズレ)が起こっています。
腰椎の椎間関節
椎間関節のサブラクセーションもギックリ腰の原因になります。この場合、サブラクセーションが起こっている部位の局所的な鋭い痛みが現れます。
また、椎間関節起因の関連痛が腰部からでん部にかけて広がります。
椎間板
椎間板起因の問題には以下の2つがあります。
- 椎間板ヘルニア
- 線維輪の断裂
椎間板ヘルニア
腰椎の椎間板ヘルニアでは、椎間孔の狭窄による神経根の圧迫が起こるケースが多いです。
好発部位はL5/S1またはL4/5の椎間板です。
従って、坐骨神経痛が主症状になります(でん部から大腿部後面、下腿部後面、足底にかけての痛みや痺れ、感覚麻痺)。
線維輪の断裂
椎間板は髄核と線維輪によって構成されています。 髄核の周囲を取り囲み安定化させている構造が線維輪であり、層構造になっています(下図)。 椎間板ヘルニアでは線維輪の断裂が起こっています。
線維輪の断裂は傷害によって発生する場合と変性の進行による場合の2通りがあります。
椎間板ヘルニアでは線維輪の断裂により髄核が変位することにより、神経根を圧迫することで下肢の痛みや痺れが生じますが、線維輪そのものにも知覚支配(脊椎洞神経)がありますので、痛みとして自覚されることがあります。
線維輪の損傷による痛みは、局所的な鋭い痛みであることが多く、下肢への関連痛症状は伴いません。
腰部深層筋
腰部の深層筋には、多裂筋や回旋筋などがあります。これらの筋肉もギックリ腰の原因構造となることがあります。
慢性腰痛の患者を調べたところ、多裂筋に脂肪細胞の嵌入が顕著にあることがわかっています。
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