肘関節の関節運動学と関連症状

肘関節は上腕骨、橈骨、尺骨の三つの骨によって構成されています。

これら3つの骨により、腕橈関節、腕尺関節、近位橈尺関節の三つの関節が形成されます。肘関節は滑膜、関節包によって覆われている滑膜性関節に分類されます。

  1. 腕尺関節
  2. 腕橈関節
  3. 上橈尺関節

 

関節運動学

腕尺関節

腕尺関節は上腕骨滑車(上腕骨遠位端)と滑車切痕(尺骨近位端)によって形成されています。

腕尺関節では矢状面における運動である屈曲・伸展が起こります。

屈曲では尺骨(滑車切痕)の前方回転と前方滑り、伸展では後方回転と後方滑りが起こります。

 

  1. 屈曲=前方回転+前方滑り
  2. 伸展=後方回転+後方滑り

腕橈関節

腕橈関節は上腕骨小頭(上腕骨遠位端)と橈骨頭(橈骨近位端)が合わさってできる関節です。

腕尺関節に比べ、肘関節への安定性への関与は小さいですが、外反への負荷に対して強い抵抗を持っています。

上腕骨に対して橈骨頭は同方向への回転と滑り運動が起こります。

  1. 屈曲=前方回転+前方滑り
  2. 伸展=後方回転+後方滑り

上橈尺関節

上橈尺関節は、橈骨頭と橈骨切痕(尺骨)の間にできる関節です。

橈骨頭は橈骨輪状靭帯によって補強されています。

上橈尺関節では主に前腕の回内・回外が起こります。

その際、橈骨頭ではスピン運動が発生します(下図)。

カップリングモーション

肘関節の屈曲に伴い、橈骨頭にはわずかな回旋運動が生じます。

屈曲の初期では橈骨頭は内旋し、終期では外旋が生じます。

また肘関節の外反により、尺骨に対して橈骨は遠位へ変位(約1.6㎜)します(Aust. J. Physiother. 27.5, October, 1981)。

  1. 屈曲初期=橈骨頭の内旋
  2. 屈曲終期=橈骨頭の外旋

 

関連症状

後方インピンジメント症候群

後方インピンジメント症候群では、肘関節伸展により肘頭(尺骨)と肘頭窩(上腕骨)の衝突(インピンジメント)が生じています。

投球動作やテニスのサーブ運動の反復が原因になります。

肘関節後部の鋭い局所痛(特に肘関節伸展時)や肘関節伸展の可動域制限、捻髪音などが主な症状です。この状態が慢性化すると、骨棘の形成、腫脹、離断性骨軟骨炎などを引き起こすことがあります。

外側上顆炎(テニス肘)

外側上顆炎では、外側上顆に付着している伸筋腱の腱症が起こっています。腱症とは腱の変性のことです。

手関節伸展の反復動作により、伸筋腱にマイクロトラウマが発生します。それに伴い、腱の線維化(変性)が進行し外側上顆炎に至ります。

外側上顆炎の好発部位は短橈側手根伸筋腱です。

主症状は肘外側の痛みです。局所的な鋭い痛みが特徴であり、しばしば前腕外側の関連痛を引き起こします。また、握力の低下や手で物を掴んで持ち上げる動作の時に痛みの増悪を訴えるケースが多いです。

内側上顆炎(ゴルフ肘)

内側上顆炎の痛みの原因構造には、尺側手根屈筋腱と円回内筋腱があります。稀に浅指屈筋腱が影響を受けていることもあります(ロッククライマーなど)。これらの腱は、ともに内側上顆に起始を持っています。

肘内側の内側上顆のすぐ遠位に局所痛が現れます。痛みは手首を捻る動作(腕相撲や雑巾絞りなど)によって、増悪します。

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