正中神経の走行・機能・絞扼箇所・関連症状

  • 2019年7月8日
  • 2020年6月20日
  • 神経
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概要

正中神経は文字通り、上肢の真ん中を走行している神経です。上肢の神経の中でもっとも絞扼されるリスクが高い神経です。

運動、知覚の両方の機能を備えているため、絞扼によりそれらの機能低下が起こります。代表的な疾患には手根管症候群や回内筋症候群などがあります。

機能

正中神経の知覚支配領域は、手掌側の母指、示指、中指、環指(外側)にあります。従って、正中神経麻痺では対応する領域に知覚障害(痛み、痺れ、感覚鈍麻)が現れます。

運動機能は、前腕の回内、手関節や指の屈曲、母指の屈曲と対立です。運動障害が現れている場合、症状が進行(慢性化)していることを意味しています。特に母指球筋の委縮が顕著になります。正中神経支配の筋肉は以下の通りです。

正中神経支配の筋肉

  • 円回内筋
  • 橈側手根屈筋
  • 長掌筋
  • 方形回内筋
  • 浅指屈筋
  • 深指屈筋
  • 母指対立筋
  • 短母指外転筋
  • 短母指屈筋
  • 長母指屈筋
  • 虫様筋

 

分枝

正中神経は前骨間神経と正中神経掌枝に分枝します。

前骨間神経

前骨間神経は肘関節の遠位で正中神経から分岐しています。支配筋は長母趾屈筋、方形回内筋、深指屈筋(母指側1/2)です。母指と示指で輪を作ることが困難になるのが、前骨間神経障害の特徴です。

正中神経掌枝

正中神経掌枝は、前腕遠位(手根管の近位)において正中神経から分岐しています。長掌筋腱と橈側手根屈筋腱の間を下行し、母指周辺の皮膚の知覚を支配(皮枝)しています。掌枝はさらに外側枝と内側枝に分岐しています。

走行

正中神経は腕神経叢から枝分かれした後、小胸筋の下層を遠位に向かって走行し腋窩に入ります。腋窩においては、腋窩動脈と並走しています。

腋窩を出た後、上腕部に入ります。上腕部では、内側二頭筋溝を上腕動脈(腋窩動脈の遠位)と並走していますが、上腕の近位1/3において正中神経は上腕動脈の外側、遠位2/3では内側を走行しています。正中神経の絞扼は、特に内側二頭筋溝の遠位2/3で好発します。

肘関節のすぐ遠位では、正中神経はStruthers靭帯の下側を走行し、さらにその遠位では円回内筋の2つの筋腹(尺骨頭と上腕頭)の間を下行しています。

その後、正中神経は深指屈筋と浅指屈筋の間を走行し、手根管をくぐり抜けて手掌部(母指球筋)から指(母指、示指、中指、環指外側1/2)に向かって伸びていきます。

Struthers靭帯

  • 人口の1.0%
  • 上腕骨の上顆突起と内側上顆を結ぶ
  • 上顆突起は内側上顆の近位3cmから5cmの上腕骨前内側にある
  • 上顆突起は烏口腕筋と円回内筋の起始となる

Struthers靭帯の検査法

  • 上顆突起の触診→圧痛
  • 肘関節伸展+回内/回外
  • 正中神経に頭方または足方へテンション

 

絞扼箇所

正中神経の絞扼箇所は以下の7か所です。

  1. 腋窩(小胸筋管)
  2. 内側二頭筋溝
  3. Struthers靭帯
  4. 円回内筋
  5. 浅指屈筋と深指屈筋の間
  6. 手根管

 

腋窩においては、小胸筋によって正中神経が圧迫を受けることがあります(小胸筋管症候群)。

また、内側二頭筋溝においては、特に遠位2/3が正中神経絞扼の好発部位です。

Struthers靭帯は全人口の約1%にしか見られない構造です。この靭帯がある場合、Struthers靭帯が正中神経を圧迫する可能性があります。

円回内筋の2つの筋腹(尺骨頭と上腕頭)の間で正中神経が圧迫されることがあります(回内筋症候群)。手根管症候群に次いで多い正中神経絞扼症候群です。

浅指屈筋と深指屈筋の間でも正中神経が圧迫を受けます。これらの筋肉の筋腹は前腕の近位1/2にあるため、正中神経の絞扼は前腕の近位1/2にある浅指屈筋と深指屈筋の間でおこります。

手根管で正中神経が圧迫されると、手根管症候群と呼ばれます。正中神経絞扼症候群でもっとも多い原因です。

関連疾患

正中神経の代表的な絞扼症候群には、回内筋症候群と手根管症候群があります。

手根管症候群

手根管は屈筋支帯(横手根靭帯)を天井とするトンネル構造になっています。手根管症候群は、手根管における正中神経の絞扼症候群です。

主な症状は、手や指(母指、示指、中指、環指外側1/2)の知覚障害(痛みや感覚鈍麻)です。慢性化すると母指の対立や手関節の屈曲の弱化などの運動障害が現れます。

回内筋症候群

円回内筋には尺骨頭と上腕頭に分かれており、これら2つの筋腹の間を正中神経が走行しています。この部分で正中神経が圧迫されることで、回内筋症候群が引き起こされます。

知覚障害、運動障害は手根管症候群と同じですが、円回内筋に局所的な圧痛が触診されることが多いです。

まとめ

機能 運動;前腕の回内、手関節や指の屈曲、母指の対立

知覚;手掌側の母指、示指、中指、環指(外側)

神経根 C6~T1
分枝 前骨間神経、正中神経掌枝
絞扼箇所 腋窩(小胸筋管)、内側二頭筋溝、円回内筋、Struthers靭帯、浅指屈筋と深指屈筋の間、手根管
関連疾患 回内筋症候群、手根管症候群

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