多裂筋は背中にある深層筋です。
一つ一つの筋腹はとても小さく三角形をしており、関節を動かす機能は強くありません。しかし、脊柱(特に腰椎)の安定性には重要な役割を果たしています。
本記事では多裂筋の解剖学と関連症状について解説してあります。
多裂筋の解剖学(起始・停止・作用・神経支配)
起始;仙骨後面及び全腰椎乳頭突起及び副突起、胸椎横突起、頚椎4~7の関節突起
停止;隣接する2~4椎骨上の棘突起
作用;脊椎の回旋、側屈、伸展
神経支配;脊髄神経後枝
多裂筋は頚椎から胸椎、腰椎(C4からL5)、そして仙骨まで伸びています。腰椎付近で筋腹がもっとも厚くなっています。
慢性腰痛と多裂筋の機能低下
腰部多裂筋は腰椎の安定性にとって重要な役割を果たしており、多裂筋の機能低下と腰痛は非常に密接に関連しています。
腰痛によって多裂筋の機能低下が引き起こされることがわかっています。
また、多裂筋の機能低下は腰痛が消失した後も継続するため、腰椎の不安定性が残り慢性腰痛へと症状が進行する傾向があります。
多裂筋の機能低下は、多裂筋への脂肪細胞の浸潤によってMRIにより確認することが可能です(下写真)。
従って、慢性腰痛の改善には多裂筋の活性化が必須となります。
多裂筋からの関連痛
下部腰椎の多裂筋からの関連痛は、同側のPSIS周辺に強く現れ、仙骨の上から坐骨にかけて広がる傾向があります(下図)(Simons and Travell, 1983)。
。
また、L5にある多裂筋に生理食塩水を注射したところ、以下の図に示してある領域に関連痛が現れています(Kellgren, 1938, Bogduk and Munro, 1979)。
関連動画
解剖学の勉強に必須の書籍
イラストの美しさと解剖学的正確さで世界的に定評のある『ネッター解剖学アトラス』の第6版。 今改訂では図の追加・入れ替えに加え、各章末に主要な筋の起始・停止などをまとめた表が掲載。
これまで以上により深い知識を得ることができるようになった。また、前版で好評であった学習サイトStudent Consult(英語版)も引き続き閲覧可能。
学生、研究者からすべての医療従事者に支持される解剖学アトラスの決定版(アマゾンより)
大好評のプロメテウス解剖学アトラス、解剖学総論/運動器系が待望の改訂。美麗なイラストに的確な解説文を組み合わせた従来の良さ・強みを残したまま、図版の配置や解説文の推敲を重ね、さらなるわかりやすさを追求している。医師・医学生にとどまらず、全ての医療職の方々から支持される理由は、手に取れば自ずと理解されるだろう。さらに洗練された解剖学アトラスの最高峰。プロメテウスの進化は止まらない(アマゾンより)。
関連記事
本記事では腰方形筋の以下の3項目について解説してあります。
- 解剖学(起始・停止・作用・神経支配)
- 筋線維の走行
- 関連症状
本記事では腰方形筋の以下の3項目について解説してあります。 解剖学(起始・停止・作用・神経支配) 筋線維の走行 関連症状 それでは、腰方形筋の解剖学から解説していきます。 腰方形筋の解剖学 起始;腸骨稜 […]
側弯症と診断されるケースの約20%は先天性側弯症もしくは神経筋原性側湾症に分類されます。残りの80%は特発性側弯症と呼ばれ、はっきりとした原因がわかっていません(遺伝的な要素が強いと思われる)。
側弯症では脊椎に側屈と回旋、また特に胸椎には後弯が加わっています。脊椎で生じる変位により、胸郭にも捻れが生じます。 通常、側屈凹側(側屈側)の胸郭が後方に隆起し幅が狭くなり、側屈凸側(側屈の反対側)の胸郭は幅が広くなってい[…]
脊柱管狭窄症でもっとも多い原因は、変性によるものです。従って、必然的に患者は中年(40歳代以上)以降の年齢が多くなります。腰椎(特に椎間関節)や椎間板が変性することにより、脊柱管に狭窄が生じます。
脊柱管狭窄症は、1954年にVerbiestによって初めて報告されました (Verbiest H, 1954)。脊柱管の狭窄により神経や周辺組織の圧迫によって引き起こされる症状のことです。 脊柱管狭窄症でもっとも多い原因は[…]
椎間板ヘルニアが脊髄神経を刺激しているなら、腰部からでん部、大腿後面、下腿後面、足にかけて関連痛(坐骨神経痛)が現れます。
腰椎には5つの椎骨(L1~L5)があります。それぞれの椎骨の間には椎間板があり、衝撃吸収の役割を持っています。 椎間板は線維輪と髄核の2つの構造によって構成されています(図1)。髄核はジェル状の構造で周囲を線維輪によって覆[…]
腰椎椎間関節関節症は特に下部腰椎(L4/L5/S1)で好発します。また慢性的な腰痛の原因となります。
2つの隣り合った椎骨は、椎間板と椎間関節によって支えられています。椎間関節は椎骨後部の左右に1つずつあり、滑膜性関節に分類されます(図1)。 図1 椎間関節 […]