多裂筋の解剖学と関連症状

多裂筋は背中にある深層筋です。

一つ一つの筋腹はとても小さく三角形をしており、関節を動かす機能は強くありません。しかし、脊柱(特に腰椎)の安定性には重要な役割を果たしています。

本記事では多裂筋の解剖学と関連症状について解説してあります。

多裂筋の解剖学(起始・停止・作用・神経支配)

起始;仙骨後面及び全腰椎乳頭突起及び副突起、胸椎横突起、頚椎4~7の関節突起

停止;隣接する2~4椎骨上の棘突起

作用;脊椎の回旋、側屈、伸展

神経支配;脊髄神経後枝

 

多裂筋は頚椎から胸椎、腰椎(C4からL5)、そして仙骨まで伸びています。腰椎付近で筋腹がもっとも厚くなっています。

頚椎から腰椎にかけては、横突起に起始を持ち、2つから4つ上の棘突起に停止を持っています。また骨盤領域ではPSISや後仙腸靭帯に起始を持っています。
腰部多裂筋に関するリサーチに興味深いものがあります。それによると「L4/5の椎間関節の安定性の2/3は多裂筋によるもの」と報告されています(MacDonald. David A., Moseley, G. Lorimer, Hodgesa, Paul, W. The lumbar multifidus: Does the evidence support clinical beliefs? Review. Manual Therapy. 2006.)。

慢性腰痛と多裂筋の機能低下

腰部多裂筋は腰椎の安定性にとって重要な役割を果たしており、多裂筋の機能低下と腰痛は非常に密接に関連しています。

腰痛によって多裂筋の機能低下が引き起こされることがわかっています。

また、多裂筋の機能低下は腰痛が消失した後も継続するため、腰椎の不安定性が残り慢性腰痛へと症状が進行する傾向があります。

多裂筋の機能低下は、多裂筋への脂肪細胞の浸潤によってMRIにより確認することが可能です(下写真)。

従って、慢性腰痛の改善には多裂筋の活性化が必須となります。

多裂筋からの関連痛

下部腰椎の多裂筋からの関連痛は、同側のPSIS周辺に強く現れ、仙骨の上から坐骨にかけて広がる傾向があります(下図)(Simons and Travell, 1983)。

 

また、L5にある多裂筋に生理食塩水を注射したところ、以下の図に示してある領域に関連痛が現れています(Kellgren, 1938, Bogduk and Munro, 1979)。

 

 

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