仙腸関節の解剖学と関連症状

仙腸関節は仙骨と寛骨によって形成されています。

仙腸関節の主要な機能は、体幹部の安定化と上半身と下半身の間の緩衝作用(衝撃吸収作用)です。

仙腸関節の安定性は主に靭帯によって維持されています。

 

仙腸関節の構造と機能

仙腸関節は滑膜性関節でありわずかながらに可動性があります。線維性の関節包によって覆われており、関節内は滑液で満たされています。

仙腸関節の関節軟骨

仙骨側の関節面(耳状面)は硝子軟骨(hyaline cartilage)によって覆われており、寛骨側の関節面は線維軟骨(fibrocartilage)によって覆われています。

人間の身体には3種類の関節軟骨があります。それらは、硝子軟骨、線維軟骨、そして弾性軟骨です。

硝子軟骨はⅡ型コラーゲンであり、関節軟骨の中でもっとも弱い軟骨です。

一方、線維軟骨はⅠ型コラーゲンであり、関節軟骨の中でもっとも強い軟骨です。

仙腸関節面の形状

仙腸関節は凹凸状になっています。

また子供の頃は仙腸関節は平面になっていますが、20代、30代と年を経るごとに寛骨側の関節面は盛り上がり(凸状)、仙骨側の関節面(耳状面)はへこんできます(凹状)。

このような特徴的な仙腸関節面の形状のため、仙腸関節はロッキングメカニズムにより安定化しています。

仙腸関節の機能は、上半身と下半身の間の力の伝達です。従って、脊椎と下肢の間の衝撃吸収作用があります。

仙腸関節の関節包

仙腸関節上部の関節包は、腸腰靭帯が肥厚したものです。

仙腸関節前部の関節包は前仙腸靭帯が肥厚したものであり、関節包と前仙腸靭帯は癒合しており区別することが難しくなっています。また、比較的薄いため傷害の好発部位となっています。

仙腸関節後部の関節包は、骨間仙腸靭帯と後仙腸靭帯が肥厚したものです。

仙腸関節(仙骨)の運動

仙骨の主要な動きには、ニューテーション(Nutation)とカウンターニューテーション(Counter-Nutation)があります。

寛骨に対し仙骨底が前下方へ変位する場合をニューテーションと呼びます。一方、寛骨に対し仙骨底が後上方へ変位する場合をカウンターニューテーションと呼んでいます。

仙骨のニューテーションとカウンターニューテーションの可動域は、2㎜から4㎜程度です。

仙腸関節の安定化構造

仙腸関節の主要な安定化構造は靭帯です。以下が仙腸関節を安定化させている5つの靱帯です。

  1. 骨間仙腸靭帯
  2. 後仙腸靭帯
  3. 仙結節靭帯
  4. 仙棘靱帯
  5. 前仙腸靭帯

骨間仙腸靭帯は仙腸関節を補強している靭帯の中で最強の靱帯です(人間の身体の中で最強の靱帯でもあります)。仙骨が前下方へ変位するのを防いでいます。

後仙腸靭帯はPSISからS3/4付近の間を走行しています。この靭帯はカウンターニューテーションに対して抵抗(伸張)します。

また、後仙腸靭帯の遠位部では仙結節靭帯と癒合しています(下図)。仙結節靭帯はニューテーションに対して抵抗します。

仙棘靱帯は仙結節靭帯の前側を交差しています。仙棘靱帯は坐骨棘から仙骨外側へ向かって走行しており、大坐骨孔と小坐骨孔を形成しています。ニューテーションに対して抵抗します。これら2つの靭帯は仙骨に対する寛骨の屈曲と回旋を制限します。

また、仙結節靭帯と仙棘靱帯の間には陰部神経が走行しており、これらの靭帯の間で絞扼されることがあります(下図)。また、陰部神経は陰部神経管においても絞扼されることがあります。いずれの場合も、会陰部の知覚異常が主症状です。

前仙腸靭帯は、仙腸関節前下部の関節包が肥厚したものであり、境界が明確ではありません。前仙腸靭帯はもっとも薄い靭帯であり、傷害の好発部位となっています。

  1. 骨間仙腸靭帯
  2. 後仙腸靭帯
  3. 仙結節靭帯
  4. 仙棘靱帯
  5. 前仙腸靭帯

 

仙腸関節の発生学

妊娠の8週目には仙腸関節が明確になってきます。この頃には、仙腸関節の前側に関節包が発達し始めます。関節の安定性は後仙腸靭帯によってなされています。関節面はスムーズであり、全ての方向に滑り運動が可能です。

妊娠5カ月目になると、仙腸関節には線維性の中隔(fibrous septum)が発達してきます。37週目では、関節包の内側に滑膜ができてきます。

仙骨側関節面の関節軟骨は、寛骨側の3倍から5倍ほどの厚みがあります。

10歳頃までの仙腸関節面は凹凸がなくフラットになっています。そのため、全ての方向への動きがスムーズです。

20代や30代になると、仙腸関節面は凹凸状になってきます。また寛骨側の関節面はへこみ、仙骨側の関節面は隆起してきます。この頃になると、仙腸関節の可動性は著しく制限されてきます。

仙腸関節への血液供給

総腸骨動脈は内腸骨動脈と外腸骨動脈に分岐しています。

内腸骨動脈は、L5~S2のレベル(仙腸関節の前上方)で分岐しています。また上殿動脈は、S2-S3のレベル(仙腸関節の後方)にあります。

仙腸関節には多くの血液供給があります。仙腸関節後部は、正中仙骨動脈による血液供給があります(正中仙骨動脈は内腸骨動脈から分岐した動脈)。

また仙腸関節前部は、腸腰動脈による血液供給があります(腸腰動脈は内腸骨動脈または総腸骨動脈から分岐した動脈)。

 

  1. 仙腸関節後部=正中仙骨動脈
  2. 仙腸関節前部=腸腰動脈

仙腸関節の神経支配

仙腸関節の神経支配は以下の通りです。

  • L4/5前枝
  • 上殿神経
  • L5~S2後枝

ただし、仙腸関節の神経支配は個体差がかなりあります。仙腸関節の関連痛領域に差があるのもそのためかもしれません。

仙腸関節と梨状筋

梨状筋の起始は仙骨の前側(前仙骨孔S2-S4)にあり、停止は大転子にあります。

停止側を固定した状態で梨状筋が収縮した場合、仙骨には反対側への回旋が生じます。

従って、左側の梨状筋が収縮すると仙骨には下図で示した斜軸(破線)を中心とした右回旋が起こります。

このように、梨状筋のコンディションは仙骨のアライメント、さらに仙腸関節の運動に影響を及ぼすことがありあます。

 

起始;前仙骨孔S2-S4の間

停止;大転子(上縁)

作用;股関節の外旋

神経支配;仙骨神経叢、L5-S2

仙腸関節の可動性亢進

仙腸関節起因の腰痛には傷害性のものと非傷害性のものがあります。

傷害性の場合、スポーツ傷害や自動車事故、また急激な動作、重たいものの挙上などが該当します。

一方、非傷害性の場合、座位や立位時の悪い姿勢、マイクロトラウマ(微細外傷)の蓄積とそれに伴う変性などが該当します。

仙腸関節の関連痛領域は、でん部から大腿後面、下腿後面にかけて存在します。仙腸関節自体の痛みは鋭い局所痛で、椅子から立ち上がる瞬間などに痛みが増悪します。

仙腸関節の可動性亢進の原因には以下のようなものがあります。

  1. 傷害性
  2. 先天性
  3. 体内ホルモンバランスの変化
  4. 脊椎のマルアライメント

傷害性

仙腸関節の損傷では、仙腸関節周辺の靱帯と関節包の損傷が起こっています。スポーツ傷害や交通事故などで高強度の負荷が加わった時に発生します。

また、反復性の負荷によるマイクロトラウマ(微細外傷)の蓄積によっても、仙腸関節の可動性亢進が起こります。

先天性

先天性の場合、仙腸関節だけでなく身体全体の関節の可動性亢進が起こっています(生まれつき身体が柔らかい人)。

また、マーファン症候群(Marfan syndrome)やエーラス・ダンロス症候群(Ehlers-Danlos syndrome)などでも仙腸関節の可動性亢進が起こります。

マーファン症候群は遺伝性の結合組織疾患、エーラス・ダンロス症候群はコラーゲン線維の形成異常が起こっています。

体内ホルモンバランスの変化

妊娠中、女性ホルモンのリラキシン(Relaxin)の作用により仙腸関節は弛緩します。

さらに、腰椎の前弯曲が増加するため、仙骨にはうなずき運動が起こり、仙骨周辺にある靭帯は伸張されます。

従って、妊娠中は仙腸関節の不安定化が起こり、腰痛を引き起こします。

脊椎のマルアライメント

脊椎のマルアライメントや左右の下肢長差などが、仙腸関節のセルフロッキングメカニズムの障害を引き起こし、それが仙腸関節の不安定化につながります。

仙腸関節が不安定な状態で反復負荷が加わると、仙腸関節面でのより大きな摩擦が生じ、炎症や痛みを誘発します。

また、仙腸関節面の摩擦増大が慢性化すると関節軟骨の摩耗が起こり、仙腸関節の変性が進行します。

仙腸関節炎

仙腸関節の炎症のことを仙腸関節炎と言います。

仙腸関節炎には、様々な原因があります。

上記で解説してきた仙腸関節の不安定性も仙腸関節炎の原因になります。

感染症による仙腸関節炎には、ブルセラ症があります。ブルセラ症は、ブルセラ属(Brucella) の細菌による感染症です。

また、炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease: IBD)や血清反応陰性脊椎関節炎(seronegative spondyloarthropathies)のような炎症性疾患が仙腸関節炎の原因になることもあります。

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