デフォルトモードネットワーク(以下DMN)という言葉を聞いたことはありますか?
DMNと脳疲労とはとても密接な関係があります。
さらに、うつ病やアルツハイマー病などの病気とも関りがあります。
本記事では、まずはDMNについての説明。そして、脳疲労とうつ病、アルツハイマー病との関係、さらに脳疲労を改善(または予防)する方法について解説していきます。
デフォルトモードネットワークとは「脳のアイドリング状態」のこと
『最高の休息法』の著者によると、DMNのことをこんな感じで説明しています。
内側前頭前野、後帯状皮質、楔前部、そして下頭頂小葉などからなる脳回路であり、意識的な活動をしていない時に働く脳のベースライン活動のこと
何だか難しいですが、最後の「意識的な活動をしていない時に働く脳のベースライン活動のこと」というのが、DMNの肝になるところです。
つまり、何か考え事をしていたり、本を読んでいたり、誰かと会話していたり、などの脳活動が伴わない、ボーッとしているときの脳の状態のことをDMNと言います。
例えるならば、「脳のアイドリング状態」のことを指します。
車のギヤをニュートラルに入れて、エンジンを入れたままのことを「アイドリング状態」と言いますね。このときも、(少ないですが)ある程度のガソリンは消費しています。
つまり、脳みそがアイドリング状態のときも、わずかながらにエネルギーを消耗しているのです。
脳疲労とDMNはとても密に連動している
それでは、車のエンジンがアイドリング状態のときに、アクセルを踏み込んだらどうなりますか?
エンジンの回転数が上がり、ガソリンをさらに消耗します。燃費も悪くなりますし、エンジンにも負担をかけることになります。
さらに、排気ガスの量も増えるので、環境にも良くないですね。
脳のDMNもまったく同様です。先ほども書きましたが、DMNとは脳のアイドリング状態のこと。
DMNが無駄に大きい(アイドリング状態でアクセルを踏み込んでいる状態)と、脳への負担は大きくなるのは火を見るよりも明らか。
これが、脳疲労と言われるものです。
つまり、脳疲労はDMNの回転数が大きいと起こります。
脳疲労のサイン
それでは、脳疲労のサインについてお話ししていきます。
とりあえず、典型的なものを列挙しておきます。
- 睡眠障害(不眠、睡眠の質低下、日中の異常な眠気、朝起きられないなど)
- 食欲不振
- 過食
- 偏食(特に甘いものへの強い欲求)
- 胃腸障害(便秘、下痢、おならが臭い)
- やる気がない
- 楽しくない
- 人と会うのが面倒
- いつもイライラしている(怒りっぽい)
- うつ傾向(気分の落ち込み、くよくよなど)
- 慢性頭痛
- 神経過敏
- ネガティブ思考
- 自己嫌悪感・自己否定感が強い
- 心配性・不安症
以上15個が典型的な脳疲労のサインです。
全体を通して共通しているのが、「自律神経系のバランスが崩れている」と起こる症状です。
もし、5個以上当てはまるものがあったら、脳疲労している可能性が高いです。
その場合、何らかの対策が必要です(後で書きます)。
DMNが高回転しているとき脳は何を考えているのか?
DMNの高回転状態のとき、脳では反芻思考が起こっています。
反芻思考というのは、同じことをグルグルぐるぐる延々と繰り返す思考のことです。
例えば、誰かにバカにされるような仕打ちを受けたとします。
殆どの人は「むかつく」かまたは「落ち込む」かのどちらかだと思います。
そのことを一日中、もしかしたら数日、数週間経っても忘れずに考え続けているなら、反芻思考のトラップ(罠)にはまっています。
そのときのあなたのDMNは相当な回転数となっていることでしょう。
こんな状態がずっと続いたら、疲れませんか?
つまり、反芻思考をする⇒DMNの回転数が上昇⇒脳疲労、という具合です。
ちなみに、DMNのエネルギー消費量は、脳の全エネルギー消費の実に60%から80%を占めていると言われています(参考:『最高の休息法』)。
うつ病の人は反芻思考から抜け出せなくなっている
うつ病の人、うつ傾向の人は、この反芻思考が染みついてしまっています。
つまり、反芻思考が癖になってしまい抜け出せなくなっています。
完全に袋小路。自力での脱出はとても難しい状況。
やっかいなのは、反芻思考は反芻すればするほど、その思考が増強されてくること。ネガティブな反芻思考なので、本人はとても苦しい。苦しいけどやめられない。
車のアクセルを思いっきり踏みつけておいて、「どうやったらエンジンの回転数を落とせますか?」と聞いているようなものです。
アクセルに置いている足を離せばよいだけなのですが、そのやり方がわからないのです。
はたから見たら、とても滑稽なのですが、本人は大真面目です。
しかし、私たちは多かれ少なかれ、似たようなことをしています。
アルツハイマー認知症はDMNのオーバーワークが原因
アルツハイマー病患者の脳を調べると、海馬という領域が委縮していることがわかっています。
海馬というのは、記憶を司っている部分です。
アルツハイマー病の人の認知機能が低下するのは、この海馬にある神経細胞がやられてしまうからです。
DMNのオーバーワーク
若い頃からDMNを使い過ぎると、アルツハイマー病に罹るリスクが上がるとも言われています。
前出の『最高の休息法』の著者は、
アルツハイマー患者は長年に渡ってDMNを使い過ぎたために、この回路が耐久年数を超えてしまったのではないか
と私見を述べています。
事実、アルツハイマー病患者のDMNは著しく低下していることがわかっています。
おそらく、DMNのオーバーワークによる機能低下が原因と思われます。
脳の疲労物質アミロイドβタンパク質
また、アルツハイマー病患者の脳には、アミロイドβタンパク質の蓄積があります。アミロイドβタンパク質というのは、脳のオーバーワークによって合成される疲労物質です。
このことからも、アルツハイマー病患者は、若い頃から反芻思考によりDMNの回転数が高い状態が続いていたことがわかります。
つまり、先ほど説明した「脳疲労のサイン」がある人は、将来的にアルツハイマー病になるリスクが高いと言えるでしょう。
アミロイドβタンパク質を除去する方法
アミロイドβタンパク質は、脳に溜まったゴミですから、除去する必要があります。方法は以下の2つ。
- 睡眠の質を上げる
- アミロイドβタンパク質が溜まらないような生活を心がける
もちろん、両方とも実践した方が良いに決まってます。
睡眠の質を上げる
アミロイドβタンパク質は寝ている間に除去されます。だから、質の良い睡眠はとても大切です。
寝ている時、DMNはもっとも回転数が下がっている状態です。
神経細胞が鎮まっているので、細胞間により大きなすき間ができています。
よって、神経細胞の間に溜まったアミロイドβタンパク質が、流れ出やすくなっています。
一方、眠らないと神経細胞間のすき間が詰まった状態が続くので、アミロイドβタンパク質は(物理的に)流れにくくなっています。
だから、アミロイドβタンパク質を溜めないようにするためには、質の良い睡眠はとても大切なのです。
アミロイドβタンパク質が溜まらないような生活を心がける
アミロイドβタンパク質は、DMNが高回転数のときにどんどん合成され蓄積されていきます。
つまり、アミロイドβタンパク質が溜まらないようにするためには、DMNの回転数を下げれば良いのです。
それでは、DMNの回転数が上がっているときというのは、どういう時でしょうか?もうわかりますよね。
反芻思考をしているときにDMNは高速回転で回っています。
だから、反芻思考を止めれば良いのです。
「それができないから困っている」という声が聞こえてきそうですが・・・(笑)。
反芻思考を止める方法
ここから本記事の本題に入ります。反芻思考を止める(または少なくする)ことは、人生を大きく変える可能性さえあります。
『野生の猿』を飼い慣らせ!
脳みそが反芻思考をしているときというのは、例えれば『野生のサル』を野放しにしている状態とも言えます。野生の猿は、自分の気の赴くままにせわしく動き回ります。そこには、秩序もコントロールもありません。
反芻思考を完全に止めるためには、サルを飼い慣らす必要があります。
ただ、このレベルまで到達するのは不可能ではありませんが、なかなか難しいでしょう。
しかし、反芻思考を和らげDMNの回転数を下げることは十分可能です。
反芻思考が和らげば、感情に振り回されることがなくなるのでストレスも減り、毎日が「楽しい」と感じられるようになります。
さらに、反芻思考が減ることで集中力が高まり、圧倒的にパフォーマンスがあがります。
なぜなら、頭が反芻思考でいっぱいのとき、脳みそはかなりのスピードで回転している(DMNは高回転で回っている)からです。
反芻思考を止めるためには意識を感情から引き離す
脳で反芻思考が生じているとき、私たちの意識は感情に張り付いています。
例えば、「昨日のあいつの態度が気に入らない」といつまでも怒りの感情に支配されていたり、「あのとき、やめておけばよかった」と後悔の感情に縛られている状態です。
つまり、反芻思考を止めるためには、感情に張り付いている意識をそこから引き離せばよいのです。
しかし、引き離した意識はそのままでは宙ぶらりんなので、このままではすぐに元の感情に引き寄せられてしまいます。
それを防ぐためには何か張り付かせる対象が必要です。
その対象にもってこいなのが、身体です。具体的には身体の感覚と動きです。
意識を身体に張り付かせる
意識を身体に張り付かせると言っても、何だかよくわからないかもしれません。
先ほど書いたように、具体的には身体の感覚と動きに意識を張り付かせる感じです。
呼吸の感覚
息を吸ったり吐いたりしたときに、鼻口の辺りを意識してみてください。
すると、鼻の穴を空気が行ったり来たりしているのがわかると思います。
そのとき、鼻の周辺が空気と触れる感覚があるはずです。
その感覚をひたすら観察してみてください。科学者が実験するときに観察するような感じで。
「吸う時の空気よりも吐く時の空気の方が温かいなあ」とか「息を吐いたときに鼻の下に空気が当たってむずむずするなあ」といった具合です。
目をつぶって行うと、より感覚に集中しやすくなりますので、試してみてください。
もしかしたら、呼吸の感覚を観察していると、知らぬ前に反芻思考をしているかもしれません。
それに気づいたら、すぐに呼吸の観察に戻ってください。
呼吸の動き
もう一つが呼吸の動きの観察です。
呼吸の動きでは、息を吸ったり吐いたりするときのお腹の動きを観察します。
息を吸うとお腹が膨らみ、そして息を吐くとお腹がへこみますね。
この動きに意識をとどめます。
もし、お腹の動きがよくわからないという人は、両手をお腹に当てるとわかりやすいかもしれません。
「お腹の膨らみとへこみ」に意識を張り付かせます。
これができているときは、少なくとも反芻思考はしていない状態です。
まとめ
デフォルトモードネットワークの話から、最後は瞑想的なお話になってしまいました。ただ、ここに書いたことは私自身が20年以上も実践してきたことばかりです。
今は毎日が楽しいですし、何よりストレスらしいストレスがないです。何の不満もありません。
同じことをして同じような結果となるかどうかは、わかりません。
後はこれを読んだ皆さん一人一人が検証してみるしかありません。
早速、検証作業をしてみませんか?