胸郭出口症候群の原因・症状・治療法

胸郭出口症候群は腕神経叢や鎖骨下動静脈の絞扼症候群です。頚部から肩にかけての領域で絞扼されることで、上肢の痛みや痺れ、感覚鈍麻などの症状を引き起こします。

こちらがLindgrenらによる胸郭出口症候群の定義です。

上肢に痛み、感覚麻痺、筋力低下と不快感があり、上肢の挙上や頭頚部の運動に伴い症状の悪化が認められる状態のこと(Lindgren and Oksala, 1995)

胸郭出口症候群の発症率は、全人口の8%(Davidovic et al., 2003)であり、子供には稀な症状ですCagli et al., 2006)。

また女性の発症率は男性の2倍から4倍となっています(:1(Gockel at al., 1994; Davidovic at al., 2003; Demondion et al., 2003; Degeorges et al., 2004)。

原因

胸郭出口症候群では、以下の3つの構造が影響を受けます。

  1. 腕神経叢
  2. 鎖骨下動脈
  3. 鎖骨下静脈

また胸郭出口症候群には以下の4種類があります。

  1. 斜角筋症候群
  2. 頚肋症候群
  3. 肋鎖症候群
  4. 小胸筋症候群

それぞれの症候群の原因について解説していきます。

斜角筋症候群

姿勢の問題、特に胸椎の過剰後弯曲(猫背)があると代償的に頭部は前突位になります(下図)。

このとき、前斜角筋と中斜角筋は拘縮(短縮)しています。従って、これら2つの筋肉の間隙には狭窄が起こっています。

斜角筋症候群では、中斜角筋よりも前斜角筋の拘縮が原因となっているケースが多いです。

頚肋症候群

第7頚椎のTP(横突起)が肥大化したものが、頚肋と呼ばれています。

頚肋症候群では、頚肋によって腕神経叢や鎖骨下動脈が絞扼されることが原因となります。

肋鎖症候群

腕神経叢と鎖骨下動静脈が、前斜角筋と中斜角筋の間隙を抜けた後、鎖骨と第1肋骨の間を走行しています。

肋鎖症候群では腕神経叢や鎖骨下動静脈が、鎖骨と第1肋骨の間(肋鎖)で絞扼されることが原因となります。

下図において、青色の破線で示した部分が鎖骨と第1肋骨の間隙です。

小胸筋症候群

鎖骨と第1肋骨の間を抜けた後、腕神経叢と鎖骨下動脈は小胸筋の下側を走行しています。

小胸筋の過緊張などにより腕神経叢や鎖骨下動静脈が絞扼を受けると、小胸筋症候群となります(下図)。

症状

胸郭出口症候群の主症状には、上肢の痛み、痺れ、感覚鈍麻などがあります(Cooke,2003; Ssamarasam et al., 2004; Barkhordarian, 2007)。

腕神経叢が影響を受けている場合、C8/T1脊髄神経の絞扼が好発します。その場合、上肢内側に知覚異常が現れます。

その次に多いのが、C5/C6脊髄神経の絞扼です。この場合、上肢外側に知覚異常が現れます。

胸郭出口症候群と肩甲骨の変位

胸郭出口症候群の患者の多くに、肩甲骨の下制変位が認められています(Kenny et al., 1993; Walsh, 1994; Pascarelli and Hsu, 2001; Skandalakis and Mirilas, 2001)。

肩甲骨の下制変位により、頸椎や胸郭出口のアライメントに変化が生じ(Telford and Mottershead,1948; Kaietal.,2001; Skandalakisand Mirilas, 2001)、それが胸郭出口症候群を引き起こしている場合があります。

 

  • 肩甲骨下制により、神経、血管、筋肉に牽引力が作用する。
  • 鎖骨の下制が生じることで、肋鎖間の狭窄が発生する。
  • つまり肩甲骨の下制変位の改善がTOSの改善につながる。
  • 肩甲骨下制の患者では、肩甲骨の上方回旋の可動域制限が認められる。
  • また肩甲骨の前方傾斜もみられる。

検査法

触診

前斜角筋と小胸筋の触診を行い、圧痛の有無を確認します。

また、これらの筋肉へ持続圧を加え上肢の症状の増悪が認められた場合、胸郭出口症候群の可能性があります。

整形外科的テスト

胸郭出口症候群の整形外科的テストの内、ここではライトテストをご紹介します。

最初に手首の脈を取ります。そのまま同側の上肢を挙上+外旋させます。

このポジションにおいて手首の脈の減弱が認められたら陽性となります。

治療法

徒手療法

斜角筋

斜角筋症候群の場合、前斜角筋の拘縮が原因のことが多いです。その場合、前斜角筋の筋膜リリースを行います。

小胸筋

小胸筋症候群の原因は小胸筋の過緊張です。従って、小胸筋の筋膜リリースを行います。

鎖骨

肋鎖症候群では鎖骨の可動域制限が起こっている場合があります。特に上肢を挙上したときに、上肢の症状(痛みや痺れなど)が増悪する場合、鎖骨の後方回旋の可動域制限が起こっている可能性があります。

第1肋骨

また、肋鎖症候群では第1肋骨の上方変位が起こることで、腕神経叢や鎖骨下動静脈を絞扼していることがあります。そのような場合、第1肋骨のアジャスメントを行います。

ホームエクササイズ

斜角筋と小胸筋のストレッチを行うようにします。

また、胸椎の過剰後弯曲(猫背)と頭部前突位を改善するためのエクササイズも行うようにすると良いでしょう。

具体的なエクササイズ法については、以下の記事を参照ください。

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