顎関節の関節運動学と関連症状

下顎骨の運動では、左右両側の顎関節が同時に動きます。従って、片側の顎関節の運動は、反対側の顎関節の運動に影響を及ぼします。

本記事では顎関節の関節運動学と関連症状について解説してあります。

解剖学

顎関節は下顎骨(下顎頭)と側頭骨(下顎窩)の間にできる関節です(下図)。

顎関節の間には関節円板が挟まっており、顎関節のスムーズな運動を促し、衝撃吸収の役割を果たしています。

また、関節円板の前側は外側翼突筋の付着部となっています。従って、外側翼突筋の過緊張は関節円板の前方への過剰な変位を促します。

 

関節運動学

顎関節の運動には、以下の3つがあります。

  1. 前突・後退
  2. 側方滑り
  3. 挙上・下制

前突・後退

下顎骨の前突では、下顎頭の前方滑りが起こっています(下図)。関節面(下顎窩)に沿って運動が起こるため、やや下方に向かって前方滑りが起こります。

前突は口を開ける時に起こる運動の要素の一つです。

また前突によって関節円板は前方に変位します。

一方、下顎骨の後退では下顎頭の後方滑りが起こっています(下図)。関節面にそってやや上方に後方滑りが起こります。

後退は口を閉じる時に起こる運動の要素の一つです。

また後退によって、関節円板は後方に変位します。

側方滑り

側方滑りは、下顎骨の横方向への滑り運動です(下図)。側方への滑り運動と回転運動が起こっています。

 

初動において横滑りが起こり、終動で回転が起こります。回転運動では、同側の下顎頭が運動の中心軸となります(下図)。

 

  1. 初期;下顎頭の側方への滑り運動
  2. 終期;下顎頭(反対側)の回転運動

挙上・下制

口を開ける時、下顎骨の下制が起こります(下図)。正常な顎関節であれば、下顎骨を最大に下制したとき指3本分のスペースが開きます。

下顎骨の下制の初期では後方回転、終期では前方滑りが起こります(挙上では逆方向の運動が起こります)。

 

口を閉じる時、下顎骨の挙上が起こります(下図)。

 

 

  1. 初期;下顎頭の後方回転
  2. 終期;下顎頭の前方滑り

関節円板の運動学

関節円板は下顎窩(側頭骨)と下顎頭(下顎骨)の間にあります。

下顎頭には回転と滑りの2つの運動があります。開口(下制)の初期では、下顎骨は前方回転します。また終期では、前方滑りが起こります。

これらの運動と関節円板の運動には以下のような連動があります。

  1. 下顎頭が回転運動をする時、関節円板には運動は起こらない
  2. 下顎頭が滑り運動をする時、関節円板は同じ方向へ滑り運動が生じる

 

 

 

 

関連症状

顎関節症

顎関節症の原因は、下顎頭(下顎骨)と下顎窩(側頭骨)の間に挟まれている関節円板のサブラクセーションが原因です。

顎関節症では関節円板が前方に変位しており、開口時に関節円板がさらに前方へ変位を起こしています。

口を開閉した時に生じる痛みや捻髪音は、関節円板が自動整復するときに起こります。

前方頚椎症候群

上位交差性症候群は頚部筋肉のバランスに問題が生じています(下図)。

それに伴い、頭部が前突し、さらに下部頚椎の屈曲が起こっています(下図)。

下部頚椎では前方回旋変位(または屈曲)が起こっています。

特に慢性的な頚部痛には、しばしば見られる症状です。

前方頚椎症候群の症状は以下の通りです。

  • 頚部痛
  • 顎関節痛(TMD)
  • 上背部痛
  • 肩痛
  • 腕痛
  • 上肢の筋力低下

下部頚椎の屈曲に前方回旋、さらに側屈のサブラクセーションが併発している場合、同側上肢の筋力低下が生じることが多いです。

顎関節の痛みの原因の一つに外側翼突筋の過緊張があります。頭部前突位では外側翼突筋が伸張されており、そのため関節円板が前方に牽引されます。

そのため、関節円板の前方変位が発生し、それが顎関節の痛みや捻髪音を引き起こします。

また、前方頚椎症候群は上位交差性症候群や第一肋骨症候群と併発していることが多いです。

第一肋骨症候群については以下の記事を参照ください。

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