骨化性筋炎

骨化性筋炎(Myositis ossificans)の原因、症状、治療法について

骨化性筋炎(こっかせいきんえん)では、骨格筋の中に硬結(血腫が骨化したもの)が生じることで、痛みや可動域制限などの症状が現れます。骨化の好発部位は中間広筋や上腕筋ですが、内転筋群にも現れることがあります。

また、患者は若い年齢層に多く、運動中(特にコンタクトスポーツ)の打撲が原因になることが多いです (Devilbiss Z, 2018, http://bit.ly/2yF2knY)。

原因

骨化性筋炎は筋肉の中にできる血腫が骨化(石灰化)したものです。多くの場合、打撲などの傷害後に発生します。しかし、骨化性筋炎の中には、まれに非傷害性のケースもあります(感染症、血友病など)。

骨化性筋炎には、その原因によって以下の3つのタイプに分類されます。

  1. 進行性骨化性筋炎
  2. 非外傷性骨化性筋炎
  3. 限局性(外傷性)骨化性筋炎

進行性骨化性筋炎は、先天的(遺伝的)要因によるものです。進行性骨化性線維異形成症(FOP=Fibrodysplasia Ossificans Progressiva)とも呼ばれています。

FOPは筋肉や筋膜、腱、靱帯などの全身の軟部組織が骨化してしまう難病です。軟部組織の骨化により、関節可動域の著しい制限が生じます。

また非外傷性骨化性筋炎は、火傷や血友病、神経系障害などが原因になります。限局性(外傷性)骨化性筋炎は、打撲などの傷害後に生じます。

これらの中で限局性(外傷性)骨化性筋炎が、もっとも割合が多く、全体の60~75%を占めています (McCarthy EF,, 2005, http://bit.ly/2YBQfuk)。その多くのケースが四肢の骨化性筋炎(特に大腿と前腕)です。

症状

通常、打撲(打ち身)により内出血が生じても、急性期の処置(RICE)を行うことで数日内に症状は寛解していきます。

しかし、骨化性筋炎の場合、受傷後から患部の痛みが徐々に増悪していきます。関節可動域も時間の経過とともに制限されていきます。

また、炎症反応(熱感や腫脹)は認められないことが多いです。受傷の数週間後には、患部に硬結(しこり)が現れ、押すと鋭い痛みが生じます。

病生理学

骨化性筋炎では、打撲などの傷害により骨細胞の産生が高まることで患部の局所的な骨化が起こります (Micheli A, 2009, http://bit.ly/2ODVcmn)。

受傷後の最初の1週間は、線維芽細胞の増殖が顕著に認められます。そのとき、患部の中心には線維芽細胞の活発な増殖が起こっており、そのすぐ外側(中間層)には、成熟過程にある骨芽細胞が散見されます。最外層は完全な骨組織によって覆われています。

中心部;線維芽細胞の活発な増殖
中間層;骨芽細胞
最外層;骨組織

また、3週から4週目には、中心部の石灰化が起こり始め、6週から8週目には最外層に皮質骨の形成が確認できます。

検査

骨化性筋炎の検査では、特に問診と触診が重要です、以下にそのポイントをまとめておきます。

問診

骨化性筋炎の診断には、問診が重要です。特に以下の3つの質問の答えにより、およその見当は付きます。

  1. 傷害時の状況はどうであったか?
  2. 受傷したのは、いつか?
  3. 受傷後はどのような処置を行ったか?

傷害時の状況はどうであったか?

骨化性筋炎の場合、打撲(打ち身)の受傷歴があります。受傷後に内出血があったかどうかも確認すると良いでしょう。

受傷したのはいつか?

受傷後から数週間経過していても痛みが残っている場合、骨化性筋炎の可能性が高くなります。

受傷後はどのような処置を行ったか?

受傷後にアイシングやストレッチをすることで、骨化性筋炎を予防することができます。従って、受傷後にそれらの処置を怠っている場合、骨化性筋炎の可能性が高くなります。

触診

問診の次に大切なのが、触診検査です。特に以下の2点に注意して触診してみてください。

  1. 硬結
  2. 圧痛

患部には硬結が触診されます。硬結は血腫が骨化したものです。大きさは、米粒大から小豆大まで様々です(大きいものはうずらの卵大)。また形も楕円形や線状のものもあります。

硬結を見つけたら圧迫してみてください。鋭い圧痛が現れます。

画像診断

受傷から3,4週間後、X線やMRIにより患部の筋肉内に骨化が認められるようになります(実際はX線だけで十分です)。

以下のX線画像は、中間広筋にできた骨化性筋炎(矢印)です。

骨化性筋炎(中間広筋)

治療

打撲などの受傷直後は、患部を伸張位(ストレッチポジション)にした状態でアイシングをしてください。

例えば、中間広筋の骨化性筋炎の場合、膝関節屈曲位においてアイシングを行います。そうすることで、骨化性筋炎になるリスクを小さくすることができます。

筋膜リリース

骨化性筋炎は徒手療法により改善が可能な症状です。特に筋膜リリースは効果的な治療法になります。

ただし、急性期の症状(熱感や腫脹)が現れている場合、治療により症状を悪化させてしまうことがありますので、治療の強度は調整してください。

また、治療は受傷から2週間以上経過した後に開始してください。

ホームエクササイズ

ホームエクササイズでは、主に患部のストレッチを行います。筋膜リリースと合わせて行うとより効果的です。

中間広筋の骨化性筋炎の場合、膝関節屈曲のストレッチを行います。また、上腕筋では肘関節伸展のストレッチを行ってください。

急性期の処置

急性期は対象部位を伸張させた状態でアイシングを行ってください。

アイシングは10分から15分程度で十分です。

また、アイシングの後、ストレッチも必ず行うようにします。

骨化性筋炎

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参考文献

  1. Devilbiss Z, Hess M, Ho GW. Myositis Ossificans in Sport: A Review. Current sports medicine reports. 2018 Sep 1;17(9):290-5 (http://bit.ly/2yF2knY).
  2. McCarthy EF, Sundaram M. Heterotopic ossification: a review. Skeletal Radiol, 2005;34:609–19 (http://bit.ly/2YBQfuk).
  3. Micheli A, Trapani S, Brizzi I, et al. Myositis ossificans circumscripta: a paediatric
    case and review of the literature. Eur J Pediatr 2009;168:523–9 (http://bit.ly/2ODVcmn).

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