正中神経の解剖学と圧迫の好発部位について

走行

正中神経はC4-T1脊髄神経由来の神経です。

腕神経叢の内側神経束と外側神経束が合流した後、上腕部で正中神経となります。

その後、前腕部を下行し前骨間神経と正中神経掌枝に分岐します。

前骨間神経は方形回内筋に終始しています。一方、正中神経掌枝は手掌部の皮枝となります。

機能

正中神経には知覚と運動の機能があります。

それぞれの機能について解説します。

知覚

手掌の第1指から第4指外側までの知覚支配領域を持っています。

 

 

運動

正中神経は前腕の前側にある筋肉への支配を持っています。従って、主に手関節屈曲の機能を持っています。また円回内筋への支配を持つため、前腕回内の機能もあります。

正中神経の支配筋は以下の通りです。

  • 円回内筋
  • 橈側手根屈筋
  • 長掌筋
  • 浅指屈筋
  • 深指屈筋
  • 方形回内筋
  • 短母指外転筋
  • 母指対立筋
  • 長母指屈筋
  • 虫様筋
  • 短母指屈筋

絞扼箇所

正中神経の絞扼箇所を以下の3部位に分けて解説します。

  1. 上腕
  2. 前腕
  3. 手首

上腕

正中神経は上腕部において内側二頭筋溝を走行しています。内側二頭筋溝は上腕二頭筋と上腕三頭筋の間隙にできる溝のことです(下図)。

正中神経は内側二頭筋溝を下行していますが、特に遠位1/2が絞扼の好発部位となります。

前腕

前腕では以下の部位で絞扼が起こります。

  1. 円回内筋
  2. 浅指屈筋と深指屈筋の間

円回内筋

円回内筋は上腕頭と尺骨頭の2つの筋腹で構成されています。正中神経はこれら2つの筋腹の間を走行しており、この部位で絞扼を受けることがあります。

正中神経が円回内筋の二頭の間で絞扼を受けると円回内筋症候群になります。

浅指屈筋と深指屈筋の間

正中神経は浅指屈筋と深指屈筋の間を走行しており、この部位で絞扼を受けることがあります。

手首

手首の前側には屈筋支帯があり、その下側のスペースは手根管と呼ばれています。正中神経は手根管を走行しており、この部位で絞扼されると手根管症候群と呼ばれます。

まとめ

  • 正中神経は腕神経叢の内側神経束と外側神経束が合流してできた神経です
  • 上腕では内側二頭筋溝(上腕二頭筋と上腕三頭筋の間隙)を上腕動脈と一緒に下行しています
  • 正中神経は内側二頭筋溝の遠位部で絞扼されることがあります。
  • 正中神経は上腕筋と上腕二頭筋の間を下行した後、円回内筋の二頭(上腕頭と尺骨頭)の間を走行しています
  • 正中神経が円回内筋において絞扼を受けると円回内筋症候群と呼ばれます
  • 正中神経は前腕において浅指屈筋と深指屈筋の間を走行しており、この部位で絞扼されることがあります
  • 正中神経は手根管(屈筋支帯の下側)を走行しており、この部位で絞扼されると手根管症候群と呼ばれます
  • 正中神経は前腕において前骨間神経と正中神経掌枝に分岐しています
  • 前骨間神経は深指屈筋と長母指屈筋の間を下行し方形回内筋に終始しています
  • 正中神経掌枝は手根管の前側を下行し手掌部の皮枝となります

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