ハムストリング肉離れの原因・症状・治療法

ハムストリング(Hamstrings)は、大腿後面にある筋肉です。外側に大腿二頭筋、内側に半腱様筋と半膜様筋があります。

ハムストリングの肉離れはスプリンター(短距離の陸上選手)、格闘家(相撲取り、柔道家など)、スキーのジャンパーやスピードスケートの選手に好発します。

本記事ではハムストリング肉離れの原因・症状・治療法について解説してあります。

原因

ダッシュやランニングの遊脚相(swing phase)後半において、ハムストリングには伸張性収縮が生じています。

伸張性収縮とは、筋肉が伸張している時に負荷がかかっている状態であり、筋肉への負荷が最大(筋肉線維の損傷が最大)になります。

この時、ハムストリングには強い収縮が起こっていますが、同時に大腿四頭筋は弛緩した状態である必要があります。

ハムストリングの肉離れは、このタイミングにおいてハムストリングと大腿四頭筋の筋収縮バランスが崩れることで発生する可能性があります。

ハムストリングの中でも特に大腿二頭筋が肉離れの好発部位になります。

ハムストリング肉離れのリスク要因

  • 加齢
  • ハムストリング肉離れの過去歴
  • ハムストリングの硬さ
  • 疲労の蓄積
  • 体幹部の不安定性
  • 筋力の不均衡
  • 股関節屈筋(大腿四頭筋、腸腰筋)の硬縮
  • 寛骨の前傾変位(下図)

症状

ハムストリング肉離れの症状は、程度によって差はあります。重度の場合、痛みのために歩行が困難になることもありますし、荷重位(立位)になれないこともあります。

以下が具体的な症状です。

  • 大腿後面の鋭い痛み(前屈で痛み増悪)
  • 内出血
  • 熱感
  • 坐骨結節から大腿後面への関連痛

 

ハムストリング肉離れの分類

ハムストリング肉離れの症状は、痛み、筋力低下、可動域によって3段階に分類されます。

グレード1(軽度)

筋線維の軽度の損傷(断裂)が起こっていますが、筋力や持久力に影響はないレベルです。ハムストリングの硬さが主訴になります。また、受傷直後は軽度の腫脹が認められることもあります。膝関節・股関節の可動域は正常です。

グレード2(中程度)

筋線維の部分断裂が起こっています。ハムストリングの鋭い痛みと腫脹が主訴になります。歩行により痛みの増悪があります。

グレード3(重度)

筋線維の完全断裂(またはそれに近い断裂)が起こっています。重度の腫脹と痛みが主訴です。また、強い痛みのために荷重位(立位)は不可能になります。完全断裂の場合、手術が必要となります。

検査

触診検査

触診により大腿後面の圧痛部位を確認します。もっとも圧痛が強い領域を特定します。

一般的に圧痛部位と坐骨結節との距離は、回復までの時間と反比例します(坐骨結節に近いほど回復に時間がかかる傾向がある)。

可動域検査

股関節と膝関節の可動域検査を行います。特に他動的SLRは、ハムストリングの柔軟性を検査するためによく使われます。

正常な他動的SLRでは、股関節屈曲は80°以上(無痛)あります。これを基準にハムストリング肉離れの状態を把握することが可能です。

ただし、柔軟性は個体差があるので、健側との比較も行うようにします。

治療法

アジャスメント

寛骨の前傾変位はハムストリング肉離れのリスクを高めます。従って、必要に応じて寛骨のアジャスメントを行います。

筋膜リリース

ハムストリングのリリースを行います。急性期で痛みが強い場合、テンションを調整してリリースを行うようにします。

神経リリース

坐骨神経のリリースを行います。

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