ベンチプレスの正しいフォーム

ベンチプレスの正しいフォームを知らないトレーニーは意外と多いです。ほとんどの人は「自分がやりやすい上げ方」でベンチプレスをしていますが、それが大きな間違いです。

そもそも、筋トレを効果的にするためには「いかに非効率的にウエイトを動かすか」ということが大切です。従って、私たちが普段の生活で使っている身体の使い方とは真逆になります。

いかに非効率的に身体を使えるかが筋トレのカギ
ベンチプレスでのターゲット筋は、大胸筋です。従って、ベンチプレスのフォームを決める際は、運動中の大胸筋の負荷のかかり具合を常に監視する必要があります。
上げ下げの間、大胸筋から負荷が逃げないように努めることが大切です。その目的を達成させるためには、ベンチプレスのフォームについていくつか基本的なことがあります。
本記事では、その基本的事項について解説していきます。なお、ベンチプレスのフォームには、当然ながら個人差があります。
これから解説することは、あくまでもベンチプレスのフォームに関する基本的な内容です。
これらの基本を踏まえた上で、後は個々がベンチプレスのフォームを微調整していかなければならなりません。
それでは、本題に入っていきましょう。

ベンチプレスのフォームについての具体的なポイントは以下の通りです。

  1. グリップ幅
  2. バーを下す位置
  3. 手首の状態(ポジション・姿勢)
  4. ボトムでの脇(上腕)の角度
  5. トップでの肩の位置
  6. 肩関節、肘関節、手関節の位置

グリップ幅

グリップ幅を狭くすると、負荷は上腕三頭筋と三角筋(肩)に移ります。一方、広げると大胸筋に移りますが、これも程度の問題です。

それでは、適切なグリップ幅はどのようにして決めればよいのでしょうか?それは、各自で検証する以外方法はありません。

グリップ幅を「ナロー(狭い)」、「ミディアム(中程度)」、「ワイド(広い)」の3種類を選びます。それぞれのグリップでベンチプレスを行い、大胸筋にもっとも強い刺激が入るグリップを採用します。

バーの大部分はギザギザになっていますが、ちょうど81㎝のところにツルツルのラインが入っています。

81㎝のところに中指がかかるようにバーを握ったときをミディアム(中程度)とします。そして、親指をラインに合わせて握ったときをワイド(広い)グリップ、小指をラインに合わせて握ったときをナロー(狭い)グリップとして、それぞれ試してみてください。

ワイドグリップ=親指を81㎝ラインに合わせて握る
ミディアムグリップ=中指を81㎝ラインに合わせて握る
ナローグリップ=小指を81㎝ラインに合わせて握る

バーを下す位置

バーを下ろす位置もトレーニーの体格によって、個人差があります。ここでは便宜的に乳首の高さをミディアム(中間)として、みぞおちから約2㎝上(人差し指と中指を合わせた幅程度)の高さをハイ(高い)、そしてみぞおちの高さをロー(低い)とします。

ハイ(高い)バー=乳首から約2㎝上の高さ
ミディアムバー=乳首の高さ
ローバー=みぞおちの高さ

上記の3通りを実際に試してみましょう。その際の選定基準は以下の2つです。

  1. 大胸筋に力が入りやすいこと
  2. バーを下ろしたとき大胸筋のストレッチ感が強いこと
  3. 肩関節への負担が小さいこと
  4. 大胸筋に負荷が乗っていること

大胸筋に力が入りやすいこと

バーを下ろす位置を決める際、もっとも大切なのが「大胸筋に力が入りやすいこと」です。勘違いして欲しくないのは、これは重たい重量が上げられることではありません。

重たい重量が上げられることと大胸筋に力が入りやすいこととは異なります。特に筋トレを始めたばかりの頃は、ベンチプレスの挙上重量は気になるものです。

そして、多くのトレーニーは競い合うようにして重たい重量を上げようとします。しかし、その際のフォームは「自分が上げやすい上げ方」をしているだけ。

肩(三角筋)が強いトレーニーは三角筋を使って上げ、腕(上腕三頭筋)が強いトレーニーは上腕三頭筋を使って上げています。

これでは、ベンチプレス本来の目的である「大胸筋を鍛える」ことが、しっかりできていません。

また、大胸筋よりも小さな三角筋や上腕三頭筋を優位に使って挙上し続けると、将来的に何らかの問題が出てきます。

  1. 肩(三角筋)を優位に使ってベンチプレスをやり続けると、肩を痛める可能性がある
  2. 腕(上腕三頭筋)を優位に使ってベンチプレスをやり続けると、肘を痛める可能性がある
  3. 筋トレ初期でまだ扱う重量が軽い場合は良いかもしれないが、将来的に高重量を扱い始めると上記2つのリスク(肩と肘を痛めるリスク)は高くなる
  4. 肩や腕の筋肉は大胸筋に比べ小さな筋肉なので、ベンチプレスの挙上重量がすぐに頭打ちになる

あくまでも大胸筋に負荷が乗っている感覚を最優先に考え、バーを下ろす位置を判断してください。

バーを下ろしたとき大胸筋のストレッチ感が強いこと

バーを下ろしていくと、大胸筋はストレッチされます。そして、ボトムのポジションでもっともストレッチされた状態になります。

このとき、しっかりと大胸筋に負荷が乗っていれば、大胸筋がストレッチされる感覚があるはずです。従って、もし大胸筋にストレッチ感がないのなら、大胸筋から負荷が逃げていることになります。

その場合は、先述したように「グリップの幅」や「バーを下ろす位置」、「脇の角度」などを変えて検証するとよいでしょう。

また、ベンチプレスを行うときは、大胸筋の伸縮を想像しながら、そして感覚を追いかけながら行うと、より大胸筋に負荷を乗せることができるようになります。

何度も反復してウエイトの感覚をとらえられるようになってください。

肩への負担が小さいこと

ベンチプレスで肩を痛めるトレーニーは多いです。ベンチプレスをやっているとき、肩の痛みや違和感を覚えるようならすぐにストップしてフォームを見直す必要があります。

ここまで説明してきたことの繰り返しになりますが、肩への負担が増すベンチプレスのフォームは以下の通りです。

  1. バーを下ろしていったとき、脇の角度が広すぎる(90°に近づくほど肩への負担は増していきます)ベンチプレス
  2. グリップ幅が狭すぎるベンチプレス

肩に負荷がかかっているベンチプレスでは、この種目の目的である大胸筋にしっかりと負荷が乗っていません。

大胸筋に負荷が乗っていること

このことについても、何度も言及していますが、ベンチプレスをする上で大切なことなので、再度説明します。

ベンチプレスでは大胸筋を鍛えることを目的としています。従って、ベンチプレスを行っている間は、バーベルの負荷が大胸筋に乗っていなくてはなりません。

例えば、100kgのベンチプレスができるトレーニーAとトレーニーBがいたとします。Aは100kgの内50kgの負荷を大胸筋に乗せてベンチプレスを行っています。一方、Bは100kgの内80kgの負荷を大胸筋に乗せてベンチプレスを行っています。

この二人は100kgのベンチプレスを同じレップス数(回数)できますが、見た目はまったく異なります。Bの方が大きく大胸筋を発達させているはずです。

筋力は同じなのに、筋量は異なるのです。その理由は明らか。Bの方が毎回の筋トレで大胸筋により強い刺激を入れることができるからです。

一方、トレーニーAは100kg中50kgの負荷しか大胸筋に乗せることができません(ベンチプレスのフォームや感覚への意識に問題があるのです)。

それでは、残りの50kgはどこにいったのでしょうか?それは、肩や肘、手首などの関節、上腕三頭筋や三角筋などの大胸筋以外の筋肉へ逃げています。

このような筋トレを続けて行くと、将来的には肩、肘、手首などの関節や上腕三頭筋や肩などの筋肉を痛めることになります。

手首の状態(ポジション・姿勢)

ベンチプレス中の手首は、まっすぐ立った状態である必要があります。例えるならば、物干し竿を物干し受けに乗せるような感じです。

多くの間違いは、バーを持ったときに手首を寝かせてしまうこと(向かって左側にある写真のような状態)。これでは、大胸筋に負荷が伝わりませんし、手首を痛めるリスクもあります。

個人的には世界ベンチプレス選手権大会に日本選手団のスポーツドクターとして帯同した経験があるのですが、手首を痛めている選手が数名いました(彼らの挙上重量は300kg超なので、比較できないかもしれませんが)。

彼らのようなベンチプレスの専門家でさえ、手首を痛めることがあります。それだけ、ベンチプレスは手首の関節に大きな負荷がかかるということ。手首のポジションには細心の注意を払うようにしてください。

ボトムでの脇(上腕)の角度

ベンチプレスでバーベルを下に下ろしていくときの、脇の角度にも配慮が必要です。ただし、脇の角度は前項で説明した「グリップの幅」と「バーを下ろす位置」が決まると、自動的に決まります。

基本的には脇の角度が狭くなる程、刺激は腕(上腕三頭筋)に移っていきます。また、広げていくと刺激は肩(三角筋)に移っていきます。

脇の角度が狭くなると、刺激は上腕三頭筋へ
脇の角度が広くなると、刺激は三角筋へ

従って、腕(上腕三頭筋)の力が強い人は、脇の角度を狭くして(脇を閉めて)ベンチプレスをする傾向があります。白人のリフターに多く見受けられます。脇の角度を30°から45°位にしてバーを下ろして行き、上腕三頭筋で爆発的に上げるタイプです。

通常は60°程度に脇を開いてバーを下ろしていくと大胸筋に負荷が維持しやすいと思います(もちろん、個人差があるので各自検証が必要です)。90°だと肩関節への負荷が大きくなり、大胸筋から刺激が逃げてしまうでしょう。

脇の角度は約60°が大胸筋に効きやすい

トップでの肩の位置

よくある間違いは、バーを上げていったときに肩が前に徐々に出てしまう状態です。トップポジションでは、肩が前に出ているので猫背の姿勢になっています。

このような姿勢のとき、大胸筋からは完全に負荷が逃げています。そして、その逃げた負荷の多くは肩にかかっているので、このようなフォームでベンチプレスを続けると、いつか肩を痛めることになります。

バーを上げ切ったときの正しい姿勢は、猫背ではなく「胸を真に突き出し前に張った状態」です。そのとき、肩はベンチ台の上に残っているはずです。

トップポジションでは胸が張った状態

このような姿勢になってしまうのは、セット重量が重すぎるからです。また、「大胸筋に効かせる」ことよりも「バーベルを上げる」方に意識が強すぎてもこのようなフォームになります。

ベンチプレスをやっているときは、常に大胸筋に負荷が乗っていることを確認しながら行いましょう。

肩関節、肘関節、手関節の位置

結論から書くと、ベンチプレスを行っているとき、肩関節、肘関節、手関節は常に同じ面に乗っていなければなりません。

初心者トレーニーに多いのが、肘関節が下方(足方)にずれてしまうケースです。ベンチプレスを行っている間は、肘関節の前側が常に天井を向いているのが正しいフォームになります。

このような誤ったフォームでのベンチプレスは、肘関節に非常に強い負荷がかかります(肩や手首も同様です)。

また、ウエイトが大胸筋に効率的に伝達されないので、筋トレ効果も薄れてしまいます。

まとめ

ベンチプレスでは、大胸筋にしっかり負荷を乗せられるかどうかがカギです。そのために大切なのは「感覚」です。

大胸筋に負荷が乗っている感覚をとらえることができていれば、ベンチプレスのフォームなど考えなくても運動の軌道は決まってしまいます。

しかし、初心者の場合、なかなかウエイトが筋肉に乗っている感覚をとらえるのは難しいと思います。従って、本記事では、感覚的なことではなく、客観的にモニターして修正可能な部分にフォーカスして説明しました。

本記事が、皆さまの筋トレライフの一助になれたら幸いです。

 

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ボディビル歴33年。国内外のボディビル大会で優勝・入賞経験多数。自らの肉体を実験台にして、ウエイトトレーニングや食事(サプリメント)を実践。医学博士号(スポーツ医学)所持。プロフィール詳細。

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