立方骨の運動学(バイオメカニクス)

機能解剖学

立方骨は足の外側に位置するピラミッド型の骨です。この骨の前側で第4、5中足骨と、内側で外側楔状骨、舟状骨と、そして後側において踵骨と関節を形成しています。

立方骨と踵骨が形成する関節は踵立方関節と呼ばれ、横足根関節(またはショパール関節)の一つです(もう一つは距舟関節)(図1)。

図1 横足根関節
横足根関節は踵立方関節と距舟関節によって構成されている。

また、様々な筋肉や靭帯の付着部となっています。立方骨に付着する筋肉には、対立筋、小趾屈筋、母趾内転筋斜頭、短趾屈筋、後脛骨筋があります。

靭帯には足根中足靭帯、楔立方靭帯、立方舟靭帯、踵立方靭帯があります(背側と底側)。さらに、長足底靭帯、底側踵立方(短足底)靭帯は立方骨の足底部に付着しています。

また、舟状骨と外側楔状骨の間には骨間靭帯があります。立方骨の外側面には溝には長腓骨筋腱が走行しており、腱鞘を介して立方骨と癒合しています。

立方骨の運動学(バイオメカニクス)

歩行時、舟状骨と立方骨は一緒に動くため、踵立方関節は横足根関節(距舟関節と踵立方関節)からの影響を強く受けます ( Hardy RH, 1951)。

踵立方関節では、踵骨隆起を中心とする前後方向へ伸びる軸を中心に回転運動が生じます。2, 3 この回転運動は回内または回外と呼ばれます。

踵立方関節の関節面は凹凸状になっています。立方骨側の関節面は凸状(円錐状または突起状)になっており、それが踵骨側関節面(凹面)と噛み合っています(図2)。

立方骨の運動軸は、この突起を長軸方向に延びています。突起は立方骨内側から後方へ向かって(踵骨へ向かって)伸び、先端はやや下方を向いています。立方骨側の関節面はこの突起の背外側になります。

この部位が踵骨側の関節面(底内側)と合わさっています(さらに底側踵立方靭帯により補強)。

図2 踵立方関節の関節面の形状と立方骨の回旋の運動軸

以上の説明からもわかる通り、踵立方関節では立方骨の突起を運動軸とする回旋運動(回内/回外)が生じます。この回旋運動の可動域は約25°あり ( Blakeslee TJ, 1987) 、運動軸は地面に対して52°の角度で後下方から前上方へ伸びています(図2)。

中立位において、踵立方関節は完全に噛み合っておらず、緩みの位置となっています。しかし、立方骨が回内すると踵骨側の関節面と完全に噛み合うようになります(締りの位置)。

従って、ここで立方骨の回内制限が起こります。さらにこの時、踵立方靭帯が伸張されることで、より強固な関節の安定化が生じます。

一方、回外では逆のことが起こります。つまり、回外の主要な(一次的)制限要素は踵立方靭帯であるため、この靭帯が伸張されることにより立方骨の回外は制限されます。

しかし、回外位において踵立方関節は完全な締りの位置とはなっておらず、若干の関節の遊びが残っています。

横足根関節は荷重位(歩行時)において重要な役割を担っています。踵接地(ヒールコンタクト)の瞬間、横足根関節には遊び(可動性)がある状態です。

それにより衝撃吸収が行われます。逆に足趾離地(プッシュオフ)では関節が締まることで安定性が増します ( Suckel A, 2008)。

立方骨と舟状骨の可動性が減少したとしても、踵骨外反位の時には前足の可動性は増大しています ( Suckel A, 2008) 。

スタンスフェーズの初期において踵骨は外反位となり、前足はある程度の可動性を確保していますが、足趾離地では踵骨は内反位となり、前足の可動性は制限され安定性が増します(表1) ( Suckel A, 2008) 。

  踵接地 (ヒールコンタクト) 立脚中期 (スタンスフェーズ) 足趾離地 (トーオフ)
立方骨 回内位 回外位 回内位
踵骨 内反位 外反位 内反位
踵立方関節 締りの位置 緩みの位置 締りの位置

表1 踵接地から立脚中期にかけて踵立方関節のロッキングが解除(緩みの位置)することにより衝撃吸収が行われ、足趾離地においてロッキングされることで安定性を確保します。

これは、距舟関節と踵立方関節の運動軸が影響しています。つまり、踵骨が外反位の時、これら二つの関節は平行となり前足の可動性が増大し (Elftman H, 1960)、 一方、踵骨が内反位の時(足趾離地)、横足根関節の運動軸は広がるため前足の可動性制限が起こります。

踵接地から立脚中期にかけて、踵骨は内反位から外反位へと変位します。その後、踵離地にかけて重心が内方へと移るに従い、踵立方関節への負荷が増加していきます。

このタイミングで関節の運動障害が好発します。踵離地から足趾離地にかけて立方骨では回内が生じますが、立方骨が回内位のとき踵立方関節は締りの位置となるためロッキングが起こります。

その後、すぐに距舟関節も締りの位置となるので、これによって横足根関節が完全にロックされるため、後足と中足が一体となって動き始めます。

これは、足趾離地における安定性にとって、またWindlassメカニズムが正常に機能するためにも重要なバイオメカニクスです。

足趾離地では足部の強固な安定性が要求されるので、このタイミングで横足根関節が締りの位置にない場合、靭帯や腱などの軟部組織、さらに関節に大きな負荷を与えることになります。

扁平足の場合、足趾離地において立方骨の過剰回内が起こります。また足底腱膜による安定化が起こらないため踵骨の過剰外反、さらに立方骨の下制が起こります。

立方骨の過剰回内と下制により、楔状骨と舟状骨の間で働いていたロッキングメカニズムが解除され、それに伴い前足の外反、中足骨の回外、1st Rayの下制と外転が起こります。

また、この時脛骨は内旋位となるため、膝関節には内反の負荷が加わります。このような負の運動連鎖は仙腸関節や腰椎へも伝達されるため脊柱の弯曲に変位をもたらすこともあります。

従って、立方骨のサブラクセーションが仙腸関節の痛みの原因になっているということも十分考えられるわけです。

関連記事

機能解剖 第1中足骨頭の足底部には2つの種子骨があります。これらの種子骨は母趾内転筋腱と短母趾屈筋腱の中にあります。その機能は、以下の通りです (Aper R, 1996, http://bit.ly/33Eq61D; Aper RL, […]

1st ray

長腓骨筋腱と立方骨

長腓骨筋は腓骨の近位1/3に起始を持ち、その腱は立方骨の外側から足底にかけて走行し、第5中足骨底と内側楔状骨に停止があります。(図3a, 3b) ( Bojsen-Moller F, 1979; Sutherland DH, 2001) 。

図3A 長腓骨筋腱と立方骨の解剖学的関係 (右足外側面)

 

図3B 長腓骨筋腱と立方骨の解剖学的関係 (冠状面)

長腓骨筋は立脚中期(ミッドスタンス)から足趾離地(トーオフ)にかけ強い収縮が起こります。この時、長腓骨筋腱により立方骨は回内方向へ促されます(立方骨は長腓骨筋腱にとって滑車の役割を担っている) (Blakeslee TJ, 1987; Johnson CH, 1999; Jonsson B, 1971; Houtz SJ, 1959) 。

足趾離地において踵骨は内反位になっていますが、この時、長腓骨筋は前足の動的安定化構造として働いています。

しかし、足趾離地において踵骨が外反位である場合、長腓骨筋は通常よりも強い短縮が起こるため、立方骨はより強く回内方向へ促されるようになります。

従って、踵骨の外反が大きくなればなるほど長腓骨筋の収縮による影響が増大し、それに伴い踵立方関節の不安定性も増します ( Blakeslee TJ, 1987)。

立方骨症候群

立方骨症候群は踵立方関節におけるサブラクセーションと定義されます。立方骨にサブラクセーションが生じることで関節包や靭帯、長腓骨筋腱などに負荷が加わります (Blakeslee TJ, 1987)。

立方骨症候群は足関節の過剰回内障害や内反捻挫、オーバーユースなど様々な要因によって引き起こされますが (Blakeslee TJ, 1987; Jennings J, 2005; Khan K, 1995; Marshall P, 1992; Mooney M, 1994) 、特に足関節内反捻挫の最大40%のケースにおいて立方骨症候群が併発していると言われています (Houtz SJ, 1959)。

傷害のメカニズムは、踵骨内反位における立方骨の急激な外反です。それにより、踵立方関節のアライメントに問題が生じます (Blakeslee TJ, 1987; Marshall P, 1992; Mooney M, 1994) 。

足関節の内反捻挫では長腓骨筋腱が伸張されることで、前足には後外方への牽引力がかかり、立方骨には内下方(回内方向)への牽引力がかかります。

そのため、立方骨は回内位にサブラクセーションが生じます。従って、この筋肉が立方骨症候群のメカニズムに重要な役割を果たしていると考えられます (Blakeslee TJ, 1987; Marshall P, 1992; Mooney M, 1994; Caselli MA, 2004) 。

また長腓骨筋の機能低下は踵立方関節の安定性に影響を与えることがあります。18 足関節に回内変位がある場合、長腓骨筋の収縮による影響が強まるため、立方骨症候群のリスクが高いと考えられます (Blakeslee TJ, 1987; Omey ML, 1999) 。

立方骨症候群の症状は足関節捻挫と似ています。痛みは踵立方関節から第五立方中足関節にかけての足外側に広がり、関連痛が足指にまで広がっている場合もあります (Blakeslee TJ, 1987; Marshall P, 1992; Jennings J, 2005)。

また、立方骨にサブラクセーションがある場合、立方骨の底側に軽度の腫れが触診されることもあります (1987; Marshall P, 1992; Mooney M, Omey ML, 1999; MacIntyre J, 2000)。

さらに、長腓骨筋腱、長腓骨筋腱溝、短趾伸筋の起始、立方骨の後外側や底側に圧痛が触診されます (Blakeslee TJ, 1987; Marshall P, 1992; MacIntyre J, 2000)。

足関節の自動的/他動的可動域は痛みのために制限され (Marshall P, 1992; Mooney M, 1994) 、外反または内反への抵抗運動では痛みが誘発されます (Jennings J, 2005)。

立方骨症候群の検査には、横足根関節の内転検査と回外検査の二つがあります (Jennings J, 2005)。

内転検査では、一方の手で踵骨を固定し、もう一方の手で立方骨をつかみ他動的に内転させます(図4)。

図4 立方骨の内転検査

この時、踵立方関節の内側面が圧迫され外側面には牽引力が働きます。回外検査では、立方骨を他動的に内反、底屈させます(図5)。

 

図5 立方骨の回外検査

 

また、立方骨を他動的に上方または下方へ動かし可動性を検査することもできます。いずれの検査においても立方骨にフィクセーションがある場合、関節の可動域制限や動作痛が現れます。

関節運動学のおすすめ書籍

以下の2冊は関節運動学を理解するためにとてもよい教材となります。

カパンジーで関節運動学の基礎を学び、「筋骨格系のキネシオロジー 原著第3版」でさらに詳細を理解するのがおすすめです。

関節運動学の基礎を理解しているなら、最初から「筋骨格系のキネシオロジー 原著第3版」の一択でも大丈夫です。個人的には一冊目の「筋骨格系のキネシオロジー 原著第3版」が一押しの参考書です。

 

運動器障害における運動・動作分析の「準拠の枠組み」となるべく,900以上のカラーイラストや表とともに理路整然とした記述で説かれている世界的名著の原著第3版の完訳版

原著1st edから査読者をつとめてきたP.D.Andrew氏を新たな監訳者に迎え,すべての章を翻訳し直しており,より読みやすく,より的確で深い理解を得られる内容となった(アマゾンより抜粋)

 

豊富なイラストを用いた図解,わかりやすい解説によりまとめられた,世界的名著の原著第7版の完訳版.機能解剖学の名著として高い評価を得てきたシリーズ全3巻について,待望の完訳版を同時刊行!

骨・関節・筋の機能解剖学,生体力学,運動学について,簡明で理解しやすいイラストと明解な文章でわかりやすく解説した,機能解剖学の集大成!

「III 脊椎・体幹・頭部」では,「重心」「関節」に関する新項目が追加されたほか,各巻に「解剖学用語一覧」を掲載

リハビリテーション科医,整形外科医,理学療法士,作業療法士,柔道整復師など,臨床の現場で活躍する医療職に役立つのはもちろんのこと,機能解剖学・運動学のテキストとして養成校の学生にも活用いただける内容(アマゾンより抜粋)

参考文献

  1. Hardy RH, Observations on the structure and properties of the plantar calcaneo-navicular ligament in man. J Anat. ;1951, 85(2):135-139 (http://bit.ly/2KQu1Cj).
  2. Blakeslee TJ, Morris JL, Cuboid syndrome and the significance of midtarsal joint stability. J Am Podiatr Med Assoc. 1987, 77(12):638-642 (http://bit.ly/2XhzKmq).
  3. Suckel A, Muller O, Langenstein P, Herberts T, Reize P, Wulker N, Chopart’s joint load during gait in vitro study of 10 cadaver specimen in a dynamic model. Gait Posture. 2008, 27:216-222 (http://bit.ly/2Xlx2Rz).
  4. Elftman H, The transverse tarsal joint and its control. Clin Orthop. 1960,16:41-45. 12. Fagel VL, Ocon (http://bit.ly/2FXZWgf).
  5. Bojsen-Moller F, Calcaneocuboid joint and stability of the longitudinal arch of the foot at high and low gear push off. J Anat. 1979, 129:165-176 (http://bit.ly/2XeuD6x).
  6. Sutherland DH, The evolution of clinical gait analysis, part I: kinesiological EMG. Gait Posture. 2001, 14:61-70 (http://bit.ly/2J0Zu2q).
  7. Johnson CH, Christensen JC, Biomechanics of the first ray: part I. The effects of peroneus longus function: a three-dimensional kinematic study on a cadaver model. J Foot Ankle Surg. 1999, 38(5):313-321 (http://bit.ly/2Jgx9US).
  8. Jonsson B, Rundgren A, The peroneus longus and brevis muscles: a roentgenologic and electromyographic study. Electromyography. 1971, 11(1):93-103 (http://bit.ly/2Xj1f40).
  9. Houtz SJ, Walsh FP, Electromyographic analysis of the function of the muscles acting on the ankle during weight-bearing with special reference to the triceps surae. J Bone Joint Surg Am. 1959, 41:1469-1481 (http://bit.ly/2XEDqD3).
  10. Jennings J, Davies GJ, Treatment of cuboid syndrome secondary to lateral ankle sprains a case series. J Orthop Sports Phys Ther. 2005, 35(7):409-415 (http://bit.ly/2XjqG0e).
  11. Khan K, Brown J, Vass N, et al, Overuse injuries in classical ballet. Sports Med. 1995, 19(5):341-357 (http://bit.ly/2Xhy6RA).
  12. Marshall P, Hamilton WG, Cuboid subluxation in ballet dancers. Am J Sports Med. 1992, 20(2)169-175 (http://bit.ly/301XBZ4).
  13. Mooney M, Maffey-Ward L, Cuboid plantar and dorsal subluxations assessment and treatment. J Orthop Sports Phys Ther. 1994, 20(4):220-226 (http://bit.ly/2Nou1vm).
  14. Houtz SJ, Walsh FP, Electromyographic analysis of the function of the muscles acting on the ankle during weight-bearing with special reference to the triceps surae.: J Bone Joint Surg Am. 1959, 41:1469-1481 (http://bit.ly/2xo1Stx).
  15. Caselli MA, Pantelaras N, How to treat cuboid syndrome in an athlete. Podiatry Today. 2004, 17(10):76-80 (http://bit.ly/2J40SS0).
  16. Omey ML, Micheli LJ, Foot and ankle problems in the young athlete. Foot Ankle. 1999, 31(7):S470-S486 (http://bit.ly/2xmkMB3).
  17. MacIntyre J, Joy E, The athletic woman foot and ankle injuries in dance. Clin Sports Med. 2000, 1(2):351-368 (http://bit.ly/2LwF6Ia).

 

にほんブログ村 健康ブログ 健康管理へ

【ボディビル歴33年】大学入学と同時にボディビルを開始。その後、現在までウエイトトレーニングを続けている。国内・海外でのボディビル大会での優勝・入賞歴多数。
【瞑想歴19年】33歳の時、インドに3か月滞在。1日12時間のヴィパッサナー瞑想を行う。それ以来、朝晩の瞑想は欠かしていない。
【カイロプラクティック歴22年】大学卒業と同時に渡米。カリフォルニア州のカイロプラクティック免許を取得しLAにて10年臨床経験を積む。オリンピック帯同経験あり。2007年に帰国。プロフィール詳細はこちら

記事はいかがでしたか?

こちらには記事を読んでいただいた方にもっとも適した広告が表示されます。

最新情報をチェックしよう!