癌(がん)と低体温の関係について

低体温はがん細胞の増殖を促す可能性

低体温は免疫力の低下を引き起こし、がん細胞の増殖を促すと言われています(Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS))。

低体温になると人間の身体は『サバイバルモード』へと変換されます(交感神経優位の状態)。体温を維持するために血管を収縮させます。

あえて血液の流れを悪くすることで、血液が冷えるのを防ぐためです。また、それと同時に基礎代謝が上昇します(基礎代謝を上げることで低下した体温を上昇させようとする作用が働きます。これを“ホメオスタシス”と呼びます)。

血液は生命維持にとって大切な脳と心臓に集中的に送られ、他の臓器には必要最低限の血液しか供給されなくなります。

低体温ががん細胞に及ぼす影響についての実験

低体温ががん細胞に及ぼす影響について、マウスを使った実験がいくつか行われています。その一つにKathleen M. Kokolusの研究チームによって行われた実験(https://www.pnas.org/content/110/50/20176)をご紹介したいと思います

まず、マウスを2つのグループに分けます。一つ目のグループは22℃(低温群)、別のグループは30℃の部屋に入れます(高温群)。

これら2つのグループにおいて、がん細胞の発生率を比較検討するというのが、この実験の目的になります。

すると、低温群のマウスには、すい臓がん、大腸がん、皮膚がん、乳がんなどが、実験開始の早期の段階で見つかりました。

高温群においてもがんが発生したマウスがいましたが、低温群のがん細胞の方が、拡散(転移)するスピードが早いことが認められました。

このことからもわかるように、低温の環境下において、がん細胞がより活性化されるため、がんの発症率は上がり、いったん細胞ががん化すると、その拡散(転移)スピードも速いということがわかります。

がん細胞を攻撃し増殖を防いでくれる細胞が、T細胞です。T細胞は白血球の一種であり、強力な免疫機能を備えています。がん細胞だけでなく、身体の中に侵入してきたウイルスや細菌などから、我々の身体を守ってくれる非常に重要な免疫細胞の一つです。

T細胞は高温環境下においてより能力を発揮

T細胞にはさまざまな種類があります。その中でもがん細胞に直接的に働きかけるのがキラーT細胞です。キラーT細胞は、がん細胞を見つけると攻撃を仕掛け死滅させます。

そしてキラーT細胞をあやつっているのがヘルパーT細胞です。ヘルパーT細胞が、あるタンパク質(インターロイキン2)を分泌するとキラーT細胞がそれに反応して増殖します。

つまり、キラーT細胞はヘルパーT細胞の命令がないと増殖することができません。

しかし、キラーT細胞の攻撃を受けたがん細胞は、それに反応する形で抗原を分泌します。この抗原により、キラーT細胞の攻撃能と増殖能を減退させます。このフィードバックはどちらかの細胞が死滅するまで続きます。

この実験では、低温群と高温群のマウスにおけるT細胞への影響についても比較・検討されています。それによると、高温群のT細胞の方が、より活発にがん細胞を攻撃・死滅させることができることが認められました。

さらに、低温群に比べ高温群のマウスのT細胞からは、よりたくさんのがん細胞を攻撃するための物質が分泌されていることがわかりました。従って、ある程度の高温環境はがん細胞の増殖を防ぐためには、大変重要であることがわかります。

一方、低温群ではT細胞以外の免疫細胞(B細胞、マクロファージ、樹状細胞)の機能も低下していました。つまり、低温環境下において我々の身体を守ってくれる細胞は休眠状態になるため、がん細胞が増殖するにはもってこいの環境になります。

がんに罹ったマウスは暖かい環境を好む

次に22℃から38℃のいずれかに設定された5種類の部屋を用意します。そして、健康なマウス(がんに罹患していない)を放したところ、そのほとんどは30℃に設定された部屋に入っていきました。30℃がマウスにとって、もっとも快適な温度設定なのでしょう。

一方、がんに罹っているマウスを同様に放したところ、多くのマウスはもっとも高温である38℃の部屋に入っていきました。

一般的にがんに罹っている人は、冷えに対して敏感に反応する傾向があります。健康な人が“快適”と感じる温度設定であっても、がん患者の人たちは“寒い”と感じることが多いと言われています。

この結果を受けて、本研究の著者らは、「おそらく、がん細胞が自らの延命のために“寒冷ストレス”状態を引き起こしていると思われる。どうして、このような反応が現れるのかについては不明である。」と報告しています。

ちなみに、“寒冷ストレス”とは、身体が冷えることによって生じる脳へのストレスのことです。

寒冷ストレスにより、交感神経が優位の状態に傾きます。それにより、血管の収縮が起こり、血液の流れが悪くなります。血液の流れが悪くなると血圧が上昇するため、心筋梗塞や脳卒中などの発症リスクが上がります。

高温環境下におけるがん患者の治療はより効果的な結果を生むのか?

これらの実験結果から、著者らは「がん患者の治療を高温環境下において行った方が、予後経過は良好になるのではないだろうか」という仮説を提唱しています。

この仮説を補足する研究を見つけたので最後にご紹介したいと思います。この研究はオーストリアの温熱・免疫療法研究所(Institute for Hyperthermia and Immunotherapy, Windmühlgasse, Vienna, Austria)の研究者らによって実施されたものです。

この研究によると、「放射線療法、化学療法、または免疫療法は、高温環境下において顕著に良好な結果を得ることができた」と報告されています(高温環境とは、人間の平均体温よりもかなり高い温度設定の環境のこと)。

以上のことから、がんの予防・改善にとって高温環境は一つのカギになるかもしれません。少なくとも身体を冷やさないように注意した方が良さそうです。

周囲の環境に気を付けて身体を冷やさないようにすることは大切ですが、身体の芯から冷えないようにすることも大切です。そのためには、低体温にならないようにすることが必要です。

身体の中から高温環境を作り出そう!

江戸時代の頃の日本人の基礎体温は平均37℃ほどあったと言われています。現代人の基礎体温よりもずいぶんと高かったわけです(現代人の健康な人の平熱は36.5℃から37.0℃と言われています)。

おそらく、これはその頃の日本人の生活様式とも関係していると思われます。現代ほど便利でなかったために、生活の中で身体を動かす機会が多かったのでしょう。

江戸時代のころは、生活のほぼすべてが手作業でした。例えば、掃除や洗濯も今のように機械(掃除機や洗濯機)がやってくれません。

遠出するにしても徒歩です。従って、この頃の日本人は“生活そのものが運動”だったわけです。基礎体温が高い分、基礎代謝量も大きかったことは容易に想像できます。

基礎代謝量に大きな影響を及ぼすものに筋肉量があります。つまり、筋肉量が大きければ大きいほど、基礎代謝量も大きくなります。

生活の利便性が増すということは、肉体的負荷が減ることとイコールです。従って、現代人は便利な生活と引き換えに、慢性的な運動不足に陥っています。

運動をしなければ、加齢に伴い筋肉はどんどん失われていきます。このことが、江戸時代の日本人に比べて現代の日本人の基礎体温が低いことの要因なのかもしれません。

まとめ

ここまで説明してきたように、がん細胞は低温環境を好みます。身体を冷やさないように注意することに加え、筋肉をつけて基礎代謝・基礎体温を少しでも上げて身体の中から高温環境を作り出すようにしましょう。

  1. 身体を冷やさないように注意する
  2. 基礎代謝を上げ、身体の中から高温環境を作る

 

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【ボディビル歴33年】大学入学と同時にボディビルを開始。その後、現在までウエイトトレーニングを続けている。国内・海外でのボディビル大会での優勝・入賞歴多数。
【瞑想歴19年】33歳の時、インドに3か月滞在。1日12時間のヴィパッサナー瞑想を行う。それ以来、朝晩の瞑想は欠かしていない。
【カイロプラクティック歴22年】大学卒業と同時に渡米。カリフォルニア州のカイロプラクティック免許を取得しLAにて10年臨床経験を積む。オリンピック帯同経験あり。2007年に帰国。プロフィール詳細はこちら

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